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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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人外の欠片

「感じる……」


「えっ?」


 急に呟いたビアンカに振り向き、シルフィーが首を傾げた。


「そうね……アウレーリアは物凄く怒ってる……十四郎は、後を追った」


 肩のライエカが、そう呟いた瞬間にビアンカは手綱を握り締めた。噛んだ唇と、泣きそうな顔がシルフィーの胸を揺さぶった。


 多分ビアンカは十四郎の気配を感じただけだったのだろう……だが、十四郎が何の為に動いたかを、知りたくはなかった。その訳は、ただの”痛み”しかならなかったから。


「しっかりしなさい……あなたは、十四郎の為に来た。それなら、最後まで通しなさい」


 ライエカは優しく言った。だが、ビアンカに優しい言葉は逆に辛かった。


「引き返す?」


 スピードを落としたシルフィーの問いに、一瞬考えたビアンカは首を振った。


「アウレーリアの追ってるのは紅の獣王。あれは、元はフェアリーだったの……邪心が強くて魔に落ちた……」


「危険なの?」


 ライエカの説明に、シルフィーが眉を顰める。


「純粋な程、紅の獣王に取り込まれる。特に、あなたなんか……ビアンカ」


「……私は純粋なんかじゃない……嫉妬で……胸が引き裂かれそう……」


 穏やかなライエカの言葉が、またビアンカの胸を締め付け絞り出した声が震えた。


「十四郎がいけないのよ。ビアンカがいるのに、他の人ばっかり心配して……」


 少し怒った様なシルフィーの言葉に、ライエカは苦笑いした。


「確かにそうね。十四郎は誰にでも優しいから……」


 シルフィーもライエカの言葉に同調するが、ビアンカは俯いたまま何も言わなかった。その様子を見たライエカは、ビアンカの濡れる瞳を見詰めた。


「紅の獣王は、十四郎の弱みを突いて傷を負わせた……多分、アウレーリアにも弱みを突いて来る……」


「あの人に弱みなんてあるの?」


 ライエカは言葉を濁すが、シルフィーは首を傾げる。鬼神の様なアウレーリアに、弱みなど考えられなかったから。


 それは、ビアンカも聞きたいと思った……でも、心の半分では聞きたくないとも思っていたのだった……プライド。そう言うモノもビアンカは思い出していたのだった。


「聞くの? 聞かないの?……」


「私は……」


 ライエカの問いに、ビアンカは言葉を詰まらせた。小さく溜息を付いたライエカは、ビアンカの耳元で囁いた。


「行けば必ず辛い思いをする……それでも行く?」


 一旦俯いたビアンカは真っ直ぐに遥か先を見詰めると、小さく頷いた。


「分かった……シルフィー、速度を上げて」


「うん!」


 ライエカは優しく笑い、シルフィーは促されるままに速度を上げた。


__________________



 遠くにアウレーリアの背中を見付けたバビエカは思わず口走った。


「アイツ、何を考えてるんだ?」


 だが、走るアウレーリアの背中は、とても小さく見えた。溜息をついたバビエカは、速度を上げるとアウレーリアに並んだ。


「何を熱くなってる?! 魔法使いは大丈夫だ!」


 しかし、アウレーリアは全くバビエカを見なかった。


「こっちを見ろ!!」


 叫んだバビエカを、アウレーリアは横目で見ながら立ち止まった。珍しく肩で息をする姿にバビエカは驚くが、正面からアウレーリアの顔を見詰めた。表情は変わらなかったが、その吸い込まれそうな美しい瞳には”怒り”が見え隠れしていた。


「魔法使いを傷付けられて怒ったのか?」


「……」


 真っ直ぐにバビエカを見るが、アウレーリアは何も言わなかった。


「全く……魔法使いが大事なら、傍から離れるなよな……あんな状態で魔物が来たら、幾ら魔法使いだって……」


 バビエカの言葉に、アウレーリアの躰がビクっとした。瞳からは怒りが消え、体を小刻みに震えさせた。


「戻るぞ……」


「……」


「何してる? 早く乗れ」


 アウレーリアは、黙ってバビエカに跨った。


__________________



 周囲に魔物達を配置して、紅の獣王はアウレーリアを待った。そこは、地元の魔物の巣窟であり、平伏した地元の魔物は恐る恐る聞いた。


「あなた様に従った同胞は、ことごとく灰塵に喫しました……あれは、何なのですか?」


「あれか? あれを人だと思うか?……あれは”人外”……いや、欠片だ」


 薄笑みを浮かべた紅の獣王を見て、魔物は深紅の目を見開いた。


「まさか、そんな……」


「さて、あの女が止まった様だ……」


 立ち上がった獣の獣王に、魔物が聞いた。


「どちらへ?」


「来ないなら、迎えに行くまでだ」


_________________



 気配はバビエカにも分かった。邪悪で陰湿、気分さえ最悪になる感じに、バビエカは速度を上げようとするが、前方に人影を見つけると速度を落とした。


 そして、振り返って見たアウレーリアの瞳には、怒りが再燃していた。そして、立ち塞がった紅の獣王は、怪しい笑みを浮かべた。


「これ程までに虚無な存在……お前は何なのだ?」


 アウレーリアは何も言わなかったが、紅の獣王の言葉にバビエカは無性に腹が立った。


「魔物如きに言われる筋合いはない!」


 思わず叫んだバビエカだったが、紅の獣王はアウレーリアだけを剣の様な鋭い視線で見た。


「大切なのは、あの男か? 心配ない、あの男はワタシが引き裂いてやる」


 紅の獣王の言葉と同時に、アウレーリアは突進した。だが、寸前でアウレーリアの動きが止まり、瞬時にバビエカがアウレーリアを突き飛ばした! 紅の獣王の鋭利な爪が寸前で宙を斬った。


「どうした?!」


 バビエカが叫んでアウレーリアを見ると、肩の辺りから鮮血が滴っていた。


「お前でも血が出るんだな……」


 当然の事だが、バビエカは何故か嬉しく感じた。


「……十四郎……」


 うわ言の様に呟いたアウレーリアの手から、剣が落ちた。確かにアウレーリアの瞳には、紅の獣王が十四郎に見えていた。


「心配ないからな……」


 庇うようにアウレーリアの前に出たバビエカは、穏やかに言った。


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