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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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銀の双弓

「師匠、聖域の森に行きます」


 街からかなり離れた森の中、マルコスの小屋でココ・ボーヴォワールは俯きながら呟く。肩までの銀色の髪、そしてその瞳も銀に近いグレーに輝く。


「私は、兄に従います……」


 双子の妹のリルは、マルコスの遥か先に視線を泳がす。兄と同じ銀色の美しい髪はウェーブをまとい、背中付近で艶やかに踊る。同じ様に銀色の瞳は、兄を遥かに凌ぎ光り煌めくが、その視線の先には何時も何も無かった。


「……幾つになった?」


 二人を見詰めたマルコスが穏やかに言った。


「もうすぐ18になります」


 ココは顔を上げ、マルコスに視線を向けた。二人の母親は難病を患い、余命も残り少ない。助ける為には聖域の森に生息する、アールヴ・フラワーが必要だった。諸外国にも存在しない、聖域の森だけに唯一生息する超希少薬草だった。


「お前達だけでは、聖域の森に辿り着く事も難しい。知ってる通り、森の周囲には複数の盗賊のアジトがる、何故だか分かるな?」


「はい。森の周辺は人が近付かない絶好の隠れ家です。熾烈な縄張り争いがあり、当然勢力の強い盗賊が集まります」


 表情を変えずココは他人事みたいに分析したが、マルコスは溜息が出る。


「そこを通るんだぞ、そんな顔で言うな。しかもお前達は狙われ易い、盗賊達の間でも有名だからな」


 マルコスさえ一目置くココとリル、双子の弓使いはモネコストロ国内だけでなく、近隣諸国にも名を馳せていた。猟師としての腕も一流だが、兵士としての双子は100人の弓手に匹敵し、銀色の髪と瞳は見た者を冥府へと導く……人々は畏布を込めて”銀の双弓”と呼んだ。


 畏布されるのは、弓の腕前だけでなはい。彼らは基本的に非情であり、情けという概念も曖昧だ。兄は妹に比べれば少しはマシだが、妹はその美しさとは対照的にココロは完全に壊れていた。


 無表情のまま、眉一つ動かさず目標を射る……それは物や動物、人でも同じだった。


 マルコス達は普段は猟師だが、戦が起これば彼らは傭兵となる事もある。主兵力である騎士は絶対数が少なく、兵力を補完する為に街や農村で暮らす人々も傭兵をとして加わるのだった。


「残念だが俺は今、ここを離れられない。アルマンニに不穏な動きがある」


「それでは私達だけで行きます」


 マルコスが顔を顰めるが、ココは平気な顔で言う。


「だから、待て……」


 思わず不安が顔に出る、考えがまとまらない。マルコスは自分でも気付かないうちに、座っていた椅子を小刻みに揺らしていた。相変わらずリルは表情を変えなかったが、ココは苛立ちを見せるマルコスの様子に少し反応しているみたいに見えた。


 その仕草の奥で、ココの瞳は明らかにリルとは違った。マルコスの脳裏に一瞬の何かが通り過ぎた。それは次第に大きくなり、何時しか形となって頭の中に姿を結ぶ。


 暫く考えていたマルコスは、急に立ち上がると小屋を出て行く。二人に直ぐに戻る、待っていろと言い残して。


____________________



 訪ねて来たマルコスは十四郎を家から離れた丘へと誘う、その様子は十四郎に予感みたいなモノを感じさせた。当然の様にアミラは付いて行く。


「頼みがある……聖域の森から薬草を取って来て欲しい。勿論、障害は聖獣だけじゃない、周囲は盗賊の巣窟だ……他にも、どんな危険が待ってるか分からない。誰も帰って来なかったからな」


 単刀直入、丘に着くと直ぐにマルコスは真剣な顔で言った。即答を避けた十四郎は、足元のアミラを少し目を伏せながら見た。


「言いたい事は分かるな?」


 見上げたアミラは、静かに言った。


「ええ……」


 十四郎は更に俯く。


「猫は何と言った?」


 アミラを見ながらマルコスは、十四郎にやや強い視線を向ける。


「……もう、心配をかけるな、と」


 目を逸らした十四郎が呟く。


「あの親子か……」


 マルコスにも予想は付いた、レオンの言葉で十四郎が変わった事を思い出す。だが、暫くの沈黙の後、ゆっくりと口を開く。


「双子の弟子の母親が不治の病だ、助かるには聖域の森に行って薬草を取ってくるしかないい……目の前で父親が殺されてから双子のココロは壊れてしまった……あいつ等は女子供でも関係なく殺す、何の躊躇も無く、何の罪悪感も持たない。母親にさえ関心を持たず、外国にまで知れ渡った最悪な弓の名手になった……だが、今度は母親を助ける為に森に行くと言った」


 十四郎は黙ったまま聞いていた。わずかに先の地面に視線を落とし、微かに呼吸を乱しながら。そしてマルコス続けた。


「お前なら、双子も母親も助けられるかもしれない……」


直ぐに返事の出来ない十四郎は、ただ拳を握り締めた。


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