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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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神の領域

 ローベルタ婦人の屋敷の裏手、小さな湖の畔にローボはいた。久しぶりに見る大量の”水”はローボを落ち着かせるが、息子のルーの慌ただしくやって来て、ゆっくりと身を起こした。


「どうした? 集まったのか?」


「はい、かなりの数が……」


 ローボの問いに、ルーは言葉を濁した。ローボは大陸中の狼に招集を掛け、ルーにその役目を任せていたのだった。


「何があった?」


「それが、魔物達が剣を奪い返そうと、あの女を追っています……」


「数は?」


「百はいるかと……」


 溜息交じりのローボの問いに、ルーは小さな声で答えた。


「どうした?」


 普段とは明らかに違うルーの様子に、ローボは鋭い視線を向けた。


「あの女、剣を手に入れる時に……獅子王と、賢猿ギルを……」


「獅子王? 確か、二頭居たな?」


 ルーの言葉に、ローボの目が光った。


「死んだのは”黒の獅子王”です」


「紅が残ったか……厄介だな」


 二頭の獅子王……黒は狂獣、紅は……妖獣と呼ばれていた。


「はい……しかも、賢猿ギルまでも……魔物達の怒りは相当なものです」


「だろうな……」


 簡単に想像したローボは、大きな溜息をついた。


「私が、十四郎に知らせに行きます」


「待て……」


 走り去ろうとするルーを、ローボが呼び止めた。


「お前は残れ。私が行く……」


「しかし……」


「あそこを見ろ」


 困惑するルーに向かい、ローボは湖畔を指した。そこには、水辺で佇む小さな影があった。


「あれは……」


「ビアンカだ。お前はビアンカの護衛を頼む……フェアリー達を近付けるな」


「フェアリー? 奴らがどうしたのですか?」


「ビアンカには見えるらしい……」


「まさか……」


 ルーの背中は、冷たい汗に覆われた。


「紅の獅子王は厄介だ……あの女だけならいいが、十四郎がいるからな」


 起き上がったローボは遠い彼方に視線を向け、ルーは静かに呟いた。


「ええ……人を惑わし、人の痛みを衝くのが奴ですから」


 人の一番辛い記憶や、忘れ去りたい悲しみ。そこを甚振る事が、紅の獅子王にとっての最大の快楽であり、攻撃の要だった。十四郎の傷は決して癒えてない……ローボは、今のビアンカより十四郎の方が危ういと判断した。


 そして、ローボは高く遠吠えした。直ぐに大鷲が、足元に舞い降りた。


「十四郎に知らせろ。魔物が向かってる……私が行くまで動くなと」


「御意」


 頷いた大鷲は、大空に舞い上がった。


_________________



 十四郎の元に向かったローボを見送ると、ルーはビアンカの元にゆっくりと向かった。


「こんな場所で何してる?」


 湖を見ていたビアンカは、そっと振り向いた。そこには笑顔があるが、弾ける様な笑顔ではなくて限りない悲しみを含んでいた。


「久しぶりね……ルー」


「お前、思い出したのか?」


 驚くルーだったが、疑問が泉の様に湧き出して傍に行った。


「全部じゃないけど、殆ど思い出したの……」


「どこか、怪我でもしたのか?」


 瞳を伏せたビアンカの顔を、ルーは覗き込んだ。


「大丈夫……何ともないよ」


「それなら……」


 言いかけたルーは途中で止めた。


「やっぱり、ルーは優しいね……」


 ビアンカはルーの背中を撫ぜながら微笑むが、無理して笑ってるのが手に取る様にルーには分かった。


「フェアリーが見えるって言うのは本当なのか?」


「フェアリー? 小さな女の子の事? 葉っぱの洋服を着た?」


 ビアンカはフェアリーの容姿を思い浮かべながら、首を傾げて呟いた。


「オレは見た事はないが、父上から聞いた事がある」


「ローボは忘れろって……」


 ビアンカはローボの言葉を思い出し俯いた。まるで、見えた事が悪い事の様でビアンカは困惑していた。


「あれは、普通の人には見えない……見てはいけないんだ」


「私は……」


 ルーの言葉に、ビアンカは更に困惑した。


「あれが、見えたと言う事は……”神”の領域に入ったと言う事なの」


 何時の間にかライエカが、ビアンカの傍にいた。


「分からない……それが、いけない事なの?」


「もしも、あなたが神の領域に入れば……望んだ”力”が手に入る……あの女に負けない強さを手に入れる事が出来る……でも、同時に十四郎と同じ時間を生きれなくなる……」


「それって……」


「そう……あなたには永遠の命が与えられ……十四郎は先に逝ってしまう。あなたは、だだ見送るだけ……そして、永遠に一人きりの時間を過ごす」


 ライエカの言葉が、ビアンカの胸を貫いた。


___________________



 遺跡での伐採作業は順調だった。何しろ、十四郎とアウレーリアが剣を振えば大木も一撃で斬り倒され、その効率は驚異的だった。倒された巨木も力自慢の剣闘士が素早く移動して、ダニーが連れて来た大工達が遺跡の居住区や厩舎の建築に当たっていた。


 また城壁の修復も順調で、同じ様にダニーが連れて来た石工達が腕を振るっていた。


「近くに採石場も見付かって、良かったですね」


 帳簿を見ながら笑顔のダニーに、十四郎は恐る恐る聞いた。


「あのう、ダニー殿……この様に大勢の人を雇えば給金が……」


「大丈夫ですよ。アルフィンを担保に借りたお金も返済済みですし、その運用で儲けも出てます。それに、ローベルタ様から頂いたの軍資金もありますし」


 笑顔のダニーに、感心した様にロメオが言った。


「十四郎殿は、働く人々の事をちゃんと考えてる。それに、お前も大したものだ」


「私達には剣を持って戦う力はありませんが、お役に立てる別の力があります」


 ロメオの方を振り返り、ダニーは嬉しそうに言った。


「本当に、皆さんは凄い……ロメオ殿の的確な指示や、ダニー殿の支援。それに、職人さん達の仕事ぶり……それに、マルコス殿の手際の良さ」


 十四郎は頭を下げながら呟いた。マルコスは素早く王都に向かい、交渉と根回しに向かっていたのだった。当然、王宮に無断で領内に城を築くのは、敵対行為に値する。味方は増やしても、敵を作らないのが最善だと言い残して。


 しかし、了解も取らないうちに築城は開始されていた。そこは、ロメオとマルコスのしたたかさで、時間の有効化と既成事実の構築を兼ねていた。


 しかし、そんな和やかな雰囲気は一瞬で終わった。突然、大鷲が舞い降りて来たのだった。


 大鷲は舞い降りると、十四郎に向かって言った。


「魔物の大群ががこちらに向かっている。ローボ様が来るまでは動くな」


「魔物、ですか? 何故ここへ?」


 十四郎の問いに、大鷲はアウレーリアの方を見た。


「あの魔剣のせいだ。奴らは、それを取り返しに来る」


「返しても、ダメでしょうね……」


 十四郎は苦笑いするが、大鷲は鋭い眼光を向けた。


「多くの魔物の命を奪ったのだ……無理だな」


「十四郎殿、鷲は何と?」


 ロメオは只ならぬ雰囲気を察して聞いて来た。


「作業は一時中断して、皆を返しましょう……魔物が来るそうです」


 大鷲の視線から、アウレーリアの方を見たロメオは直ぐに察した。


「分かりました。職人達以外は戦闘態勢を取らせます」


 ロメオはそう言うと、皆に知らせに向かった。


「いいか、くれぐれもローボ様を待て」


 そう言い残し、大鷲は空に舞い上がった。


「ダニー殿達も退避して下さいね。迎えが行くまで、待っていて下さい」


「しかし……」


 十四郎は笑顔を向けるが、ダニーは怪訝な顔をした。


「後の事は大丈夫ですよ……」


 だが、十四郎の笑顔はダニーに大きな安心感を与えた。


「分かりました。でも、お気をつけて……」


 ダニーを見送った十四郎は、アウレーリアに向き直った。


「さあ、アウレーリア殿。行きましょうか」


 アウレーリアは表情を変えなかったが、十四郎の言葉に小さく頷いた。


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