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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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包囲軍

「本当に連れてくのか!?」


 全力で走りながら並んだマルコスは、やや後方のアウレーリアを見ないで言った。


「連れて行くも何も……」


 十四郎は苦笑いした。


「そうだな、拒む者がいれば真っ二つだろうな……」


 物凄い殺気に、マルコスは全身から汗を流した。そんな十四郎達を尻目に、バビエカは振り向きながらアウレーリアに言った。


「お前は魔法使いと戦うために来たんだろ? どうして何もしない?」


「……分かりません」


 アウレーリアは、俯きながら呟いた。


「分からないだと? お前は魔法使いと一緒に居たいだけなんだ」


「……」


 バビエカの言葉に、無言のアウレーリアは否定も肯定もしなかった。


「多分、そうだと思うよ」


「お、お前まで何を……」


 アルフィンの優しい微笑みに、思わずバビエカが口籠った。


「アルフィン殿。アウレーリア殿は、それだけの為に来たのですか?」


 目を丸くする十四郎だったが、アルフィンは満面の笑顔で言った。


「そうだよ 。アウレーリア自身、気付いてないかもしれないけどね」


「お前達、何を話してる!?」


 アルフィン達との会話を理解できないマルコスが聞くので、十四郎は解説した。


「訳が分らん……」


 聞き終えたマルコスは、大きな溜息を付いた。


「マルコス殿、あなたの馬はもう限界です。先に行って、敵軍を足止めします」


 十四郎は物凄く息の荒いマルコスの馬を心配した。


「そうだな! これ以上は無理の様だ! 私はロメオ殿と合流してミランダ砦で待つからな!」


「分かりました。お気をつけて……」


 十四郎は振り向くと、穏やかに笑った。そして、アルフィンは疾風の様に走り去り、アウレーリア乗せたバビエカも風の様に後を追った。


「……あの馬、アルフィンに付いて行けるのか?」


 スピードを落としたマルコスは、漆黒の馬体を驚きの表情で見送った。


_________________



 疾走する十四郎は、遥か前方に大軍を見つけた。僅か半日で、アルフィンは敵軍に追いついたのだった。またしても、一向にスピードが落ちないアルフィンの走りに、バビエカは息も絶え絶えに叫んだ。


「お前っ! 少しはっ、加減、しろっ!……」


「してるよ。だってバビエカ、辛そうだし」


 平然と走るアルフィンは全身を汗で濡らすバビエカ心配するが、それはバビエカのプライドを激しく刺激する。


「俺はっ、平気、だっ!」


 だが、叫び声は掠れて、風圧に流された。そして、大軍が判別できるギリギリの距離に近付くと、汗が声を押し殺した。


「あれは、味方じゃないよ」


「そうですね、イタストロアの軍の様です」


 アルフィンは瞬時に識別し、十四郎も認めた。


「アウレーリア殿、突っ切って先頭に出ます!」


 十四郎の叫びに、アウレーリアは小さく頷いた。


「ちょっと待てっ! おいっ!」


 息を切らせたバビエカが叫んだ瞬間、アルフィンの姿は敵軍の中に消えた。


_________________



「何だっ?!」


 包囲軍司令官エンディゴ子爵は、白い影が物凄い速度で通り過ぎるのを見た。


「子爵様! 後方より敵!」


「今度は何だ……」


 エンディゴの言葉が空中に掻き消され、その視界の端を漆黒の馬が走り抜けた。そして、その馬上には銀色の髪を煌めかせる逆さ十字の紋章があった。


「あ、あれは……アウレーリア……」


 十四郎とアウレーリアは、包囲軍前方で並んで行く手を塞いだ。包囲軍騎士達は、真っ先にアウレーリアの逆さ十字の紋章に驚愕し、遅れて十四郎の青いマントに輝く純白の”蝶”を見て唖然と呟いた。


「エンディゴ様……蝶の紋章は……モネコストロの魔法使いです……」


「何でアウレーリアと魔法使いが一緒に居るのだ?……」


 側近の震える声に、エンディゴの震える声が重なった。


「如何、致しますか?」


 息を飲んだ側近、総勢五百の軍勢も言葉を発する者は皆無だった。


「アウレーリア殿、待って下さい」


 バビエカを降りたアウレーリアは、軍勢に向かおうとするが十四郎は穏やかに止めた。


「何故?」


 振り向いたアウレーリアは、首を傾げた。


「私に、任せて下さい」


 十四郎もアルフィンを降りると、前に出た。


「指揮官は何方ですか?」


「……私が、指揮官、エンディゴ子爵である……」


 馬上からエンディゴが返答するが、その声は微かに震えていた。


「どちらに行かれるのですか?」


「我らは、国王の命を受け、ミランダ砦を……」


 エンディゴが言いかけた時、アウレーリアが腰の魔剣に右手を添えた。瞬時に異様な殺気と砂埃が舞い上がった。


「アウレーリア殿、まずは控えて下さい」


 十四郎は振り向いて穏やかに言うと、アウレーリアは表情を変えずに右手を放した。


「ミランダ砦を、その、見張りに来ただけだ……」


「攻めるつもりは、無いと?」


「ああ、攻めろとの命は受けてない……」


「それは、よかった。ですが、これ以上進むと無駄な衝突が起こりかねません。少し先に開けた草原があります。そこで、陣を張るのをお勧めします」


「今、何と?」


 エンディゴは驚いた。砦の近くに、敵の陣を勧めるなどと……当然、その草原には何かの罠があると考える。


「お約束します。砦の方からは、決して攻めたりはしません」


「砦近くに敵陣が出来るのだぞ? そんな約束信じられるものか!」


 十四郎は穏やかに言うが、エンディゴには信じられなかった。


「ここは、イタストロアの土地です。何処に陣を張ろうと自由ですよ」


「が、しかし……」


 振り返った十四郎の視線の先には広大な草原が広がっていたが、エンディゴの整理はつかないでいた。


「ここは、魔法使い殿の提案をお受けするのが得策かと……どちらにせよ、陣は必要です」


 固まるエンディゴの耳元で、小柄な騎士が耳打ちした。


「スワレス殿! 何を?!」


 側近が慌てて間に入るが、スワレスは強い視線で睨んだ。


「アドリアーノ様の軍勢を退けた魔法使いだ。これだけの人数で太刀打ち出来ると思ってるのか?……それに、あの美しい女……あれは、アウレーリアだ……皆殺しになりたいか?」


「それは……」


 側近はアウレーリアに視線を移すと、それ以上言葉が出なかった。


「私はエンディゴ様配下、スワレスと申します。主に変わり、魔法使い殿の提案をお受けします」


「よろしくお願い致します」


 深々と頭を下げる十四郎を見て、スワレスは不思議な感覚に包まれた。そして、横目で見たアウレーリアが薄笑みを浮かべてる姿は、全身に鳥肌を立てさせた。


____________________



「ロメオ殿!」


「これは、マルコス殿」


 合流したマルコスに、ロメオは笑顔を向けた。だが、マルコスの真剣な顔を見て直ぐに察した。


「イタストロアの軍勢がミランダ砦に向かい、十四郎とアウレーリアが時間を稼いでいます」


「分かりました。進軍を早めましょう……しかし、何故アウレーリアが? 味方になったのですか?」


 ロメオの疑問は当然だが、マルコスにも正直分からなかった。


「そうとは言い切れませんが、十四郎は心配ないと……」


「それなら、大丈夫ですね。味方でないにしろ、敵であればアウレーリアは最強最悪の敵にですから」


「確かにそうですね」


 ロメオの言葉に、今更ながらマルコスは戦慄した。


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