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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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フェアリー

 ビアンカは吸い寄せらる様に近付くと、地面にしゃがみ込んだ。心配そうにシルフィーは、その背中を見守っていた。


「あなたは誰?」


(カミサマが泣いてるなんて、珍しいから……)


 首を傾げたビアンカの問いに、小さな女の子? は微笑んだ。


「神様? 私は神様じゃないよ……」


(ワタシが見えて、声も聞こえるんでしょ?)


「そうだけど……」


 俯いたビアンカは分からなくて、そっと目を閉じた。だが、目を閉じても女の子の姿は鮮明に瞼の向こう側に見えた。


(やっぱり、見えるんだね)


「どうして? 目を閉じたのに……」


(それは、あなたが……)


「何をしてる!」


 急なローボの声に、思わずビアンカは立ち上がった。


「あの娘が……」


「何も無いぞ」


 鋭い視線のローボが、ビアンカの指す方向を見た。


「あそこ、今、笑ってる」


 ビアンカは笑ってる小さな女の子を指さすが、ローボは牙を剥いた。


「どんな奴だ?」


「小さくて、葉っぱの洋服を着て、背中に透明の羽根が……」


「来い! 帰るぞ!」


 ビアンカの言葉を遮り、ローボは強い声で言った。


「でも」


「帰るんだ!」


(またね)


 小さな女の子は、ビアンカの背中に向けて微笑んだ。


____________________


「どうしたのよ? 変よ、ビアンカ」


「シルフィーには、見えなかったの?」


 帰り道、心配したシルフィーが聞くがビアンカは首を傾げた。


「うん、何も」


「ローボも?」


 横に並ぶローボに声を掛けるが、ローボは振り向きもしないで呟いた。


「忘れろ」


「どうしたの? ……怒ってるの?」


 普段と違うローボの様子に、ビアンカは声を落とした。


「あれは、人や動物には見えないモノだ……」


 聞いた事のない沈むローボの声、思わずシルフィーが聞いた。


「ローボにも見えないの?」


「見えるのは”神”だけだ……」


「あの娘……私の事、神様って……」


 耳の奥に残る幼い声が、ビアンカの脳裏に蘇った。


「そう言ったのか?」


「ええ……」


「……」


 ローボは、それっきり何も言わず少し前を歩いて行った。


____________________



「遅い、ご帰還ですね」


「申し訳ありませんでした」


 にこやかなローベルタ婦人の前で、十四郎は深く頭を下げた。


「それで、お仲間のご家族は大丈夫でしたか?」


「はい。ご婦人と娘さんは、モネコストロのリズ殿のお屋敷に。ゼクス殿が送り届けています」


「そうですか。それは良かった……ところで、その方は?」


 ローベルタ婦人が十四郎の少し後ろに寄り添う、アウレーリアに視線を移した。その瞬間、後方で直立不動のツヴァイの心臓を貫いた。絶対に連れて行くなと懇願したツヴァイに、十四郎は笑顔で言った。


『大丈夫ですよ』


 大丈夫じゃないだろ! ツヴァイはココロで叫ぶ。アウレーリアの悪名は、イタストロア全土どころか、大陸の隅々まで行き渡ってる事は周知の事実だった。ローベルタ婦人の横では、アリアンナは言葉さえ出ずに、震える体を押さえるのに精一杯だった。


「アウレーリア殿です」


「えっ?」


 十四郎は普通に笑顔で言い、ツヴァイは目をテンにした。そして、恐る恐るみたローベルタ婦人の顔は笑みを浮かべ、アウレーリアに視線を移すと口角を微かに上げていた。その横顔は、ツヴァイの胸を強烈に圧迫した。


 ビアンカの微笑みを見た時に近い感覚……だが、アウレーリアの微笑みは違った。何が違うかと、問われたら……きっと答えるだろう……”恐怖”だと。


「噂に違わない美しさですね……あなた程美しい人は、見た事がありませんね……いえ、一人だけ知ってます……」


 ローベルタ婦人の言葉が、今度は違う角度でツヴァイの胸を貫き声が震えた。


「あの、ローベルタ様……」


「ツヴァイも知ってますね……モネコストロ近衛騎士団の女騎士ですよ」


 女騎士と言う言葉がローベルタ婦人の口から洩れた瞬間、アウレーリアの碧に輝く瞳が光を乱反射した……その微かな光はツヴァイを落雷にあった様な衝撃で包んだ。


 滝の様に流れる汗、鼓動は心臓を破裂させる勢いで高まり、ツヴァイの喉は砂漠の様カラカラに乾いた。


「アウレーリア殿、ビアンカ殿ですよ」


「十四郎様、何を……」


 今度はまた、十四郎が普通にアウレーリアに言う。ツヴァイは、目を見開いて体中が心臓になったみたいに震えた。


「……知ってます」


 十四郎の顔を、アウレーリアは真っ直ぐに見た。その微笑みは、一瞬でツヴァイの震えを止まらせた。


「大お婆様……」


「心配は入りません……魔法使い殿がいる限り、魔物は大人しくしているでしょう」


 まだ震えるアリアンナに、ローベルタ婦人は穏やかに言った。しかし”魔物”と言う言葉が、アリアンナの脳裏でずっと木霊していた。


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