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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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純粋な悪魔

 十四郎は一気に”間合い”を詰める。ズィーベンは十四郎を切り裂こうと剣を振り下ろすが、近すぎる間合いに剣筋を断たれた。瞬時に剣筋を取り戻そうと、ズィーベンは後ろ向きに飛んだ。


 そこを十四郎の右手の刀が真っ直ぐに突く! だが、ズィーベンは下から十四郎の刀を受け流す! 同時に十四郎は左手の刀で横方向に薙ぎ払う! 瞬間的に手首を返したズィーベンは剣の根元で刀を受けた。


「何だとっ!!」


 ローボが叫んだ。その訳は十四郎の次の行動にあった。十四郎は右手の刀を受け流されるに任せて手放していたのだった。それどころか、左手の刀でズィーベンの剣を押さえながら、右手でズィーベンの右手首を取った!。


 そのまま体を捻ると背中を密着させ、ズィーベンの腕を取ったまま自分の腰を中心にして投げ飛ばした。ズィーベンは背中から地面に叩き付けられ、左の刀も捨てた十四郎は両手で剣を持つズィーベンの右手を掴んでいた。


「何を、した?……」


 一瞬息が止まったズィーベンが、下から凄い形相で睨む。十四郎は後ろに倒れ込みながら、ズィーベンの上腕部を自分の両脚で挟んで固定して、同時に親指を天井に向かせる形で手首を掴み、自身の体に密着させた。腕ひしぎ逆十字固めが、完全に決まった瞬間だった。


 血管の浮き出たズィーベンの腕から、血の気が引いて行く。だが、一体化した柄とズィーベンの腕の腕は幾ら締め上げても外れそうになかった。


「無理だ……ああなっては外れない……斬り落とすしか……」


 ツヴァイは険しい表情で呟くが、ビアンカの言葉に目を見開いた。


「十四郎は斬りません……前に盗賊の指を折った事がありました……十四郎は今も後悔してるから……」


「ビアンカ様……やはり記憶が……」


「はい……完全ではありませんが……」


 目を伏せるビアンカだが、その視界にアウレーリアの姿が飛び込んだ。


「待って! 何をする気なの?!」


 叫んだビアンカだったが、アウレーリアは返事さえしなかった。そして、十四郎の傍に行くと少し微笑んだ。


「十四郎、その剣をどうするのですか?」


「外したいのですが……」


 力を込めたまま、十四郎は苦しそうに言った。


「分かりました……」


 微かに頷いたアウレーリアは、落ちている十四郎の刀を拾った。そして、切っ先をズィーベンの指に近付ける。


「止めてっ!!」


 叫ぶビアンカだったが、十四郎は強い視線でアウレーリアを見た。


「だめです」


「……大丈夫……嫌なのでしょ……切るの……」


 怪しく微笑んだアウレーリアは、ズィーベンの握る剣に十四郎の刀を当てた。瞬時に火花と稲妻が周囲に炸裂する。


「あの女っ!!」


「どうした!?」


 見た事もないナインの血相に、アハトも声を上げた。


「……全部……あの女の仕業だ……」


 ナインは、血の気の引いた顔で呟いた。


__________________



 アウレーリアは普通にズィーベンの手から剣を取り、少し首を傾げながら普通に十四郎に聞いた。


「この剣、どうすれば?……」


「そうですね……他の人には危険ですから、取り敢えずアウレーリア殿が持っていて下さい」


 十四郎は起き上がりながら服の泥を払った。そして、倒れたまま動かないズィーベンを見ながらナイン達に言った。


「気を失ってるだけです。連れて帰って下さい」


「何故、助けた?」


「助けると言いましたから」


 強い視線のナインに、十四郎は微笑んだ。


「それで、勝ったつもりか?」


 剣に手を掛けたアハトが十四郎を睨むが、直ぐにアウレーリアが間に入る。アウレーリアは、魔剣をだらりと下げ、氷の様な瞳でアハトを見た。


 背筋だけでなく全身を物凄い悪寒が包見込み、アハトは後ずさった。


「アウレーリア殿、剣を仕舞って下さい」


 十四郎の言葉で、アウレーリアは素直に剣を鞘に納めた。その行動に、ナインは目を見開いてアウレーリアに震える声で聞いた。


「何故だ? 何故魔法使いの言葉に従う?」


「十四郎が言ったから……」


 質問の答えとは違うが、アウレーリアの様子を見てナインは体を震わせた。


「……そんな、ばかな……」


「どうした? このまま黙って……」


 ナインの様子にアハトも動揺するが、直ぐにナインが言葉を遮った。


「アウレーリアは……魔法使いとは、違う……一旦、引くぞ」


「しかし……」


「いいから、引くんだ……あれに、関われば……その先には最悪しかない……」


 ナインはズィーベンを抱き起しながら呟き、仕方なくアハトも反対側からズィーベンを支えた。


___________________



「ナインは全てアウレーリアの仕業だと……」


 ツヴァイはローボの傍に行って呟いた。


「確かにそうかもしれない……だが、あの女には自分でやってる意識がない……」


「何ですって?」


 ツヴァイは驚くのと同時に戦慄に包まれた。そして、改めて見るアウレーリアの姿に禍々しさを通り越した”悪意”を感じた。


「純粋な悪魔……」


 思わずノィンツェーンが呟く。ビアンカは何も言わなかったが、アウレーリアの美しさと反比例する”魔”に体が震えた。


「あれを見ろ……」


 ローボが指した先には、十四郎の横で少し俯き微笑むアウレーリアがいた。


「本当に十四郎様はアウレーリアを連れて行く気なのでしょうか?」


「あれを世界に放てば……」


 ツヴァイの問いに、ローボは言葉を濁した。


「十四郎しか、あの人を押さえられない……」


 ビアンカは拳を握り、言葉を絞り出した。


「多分、そうだろうな」


 ローボもまた、言葉を絞った。


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