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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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美と剣

「あんた等は、裏切り者の青銅騎士を始末しろ」


 十字騎士団の男にズィーベンが迫力ある低音で言い放った。男は言い返そうとするが、ズィーベンの迫力に押され、仕方なく指示を出してツヴァイ達を取り囲んだ。


「ビアンカ様!」


 叫んだツヴァイが駆け寄ろうとするが、直ぐに十字騎士達が取り囲んだ。精鋭の十字騎士となれば、ツヴァイ達の戦法は簡単には通用しなかった。即ち、命を奪わず行動不能にする事は手練れの騎士を相手にす場合には相当の力の差が必要だった。


 あっと言う間に取り囲まれ、十字騎士の波状攻撃を受けながらツヴァイは唇を噛んだ。自分の力不足を呪いながら。


「集中しろ、生半可な相手ではない」


 背中を合わせたゼクスが、低い声で焦るツヴァイを諭す。


「お前こそ……私は大丈夫だ。ノィンツェーンを援護してやってくれ」


「分かった」


 ツヴァイの言葉を受け、ゼクスは苦戦するノィンツェーンの援護に向かった。


「くそう……」


 思わずツヴァイの口から言葉が漏れる。以前と同じ抹殺なら、十字騎士如きに決して遅れは取らない。しかし、目前ではビアンカが凛とした姿で青銅騎士と対峙している……その姿は十四郎と重なり、ツヴァイは強く頭を振って集中した。


「ビアンカ様! こちらは大丈夫です! 存分に戦って下さい!」


 ビアンカならツヴァイ達の事を心配して、目前の戦いさえ疎かにしてしまうだろう。如何にビアンカとは言え、ズィーベン達三人は手強い。ツヴァイはせめてビアンカの負担にはなりたくないと思った。


「はい……」


 振り向いたビアンカが微笑む。多分、ビアンカには自分達の気持ちなんて、手に取るように分かっているのだろうとツヴァイは思った。そして、お日様の様なビアンカの笑顔はツヴァイを思考の混沌から簡単に開放した。


___________________



「俺から行く……」


 大剣を抜いたズィーベンに、ビアンカも刀を抜いて正眼に構えた。その構えには一分の隙も無く、ズィーベンは握った大剣の柄が汗ばむのを感じた。


「確かに腕はいい様だ……」


 笑みを浮かべたズィーベンは、大きく振りかぶると渾身の一撃を見舞った。だが、その剛剣をビアンカは簡単に受け流した。


「力に逆らう事なく、見事に受け流した」


「しかも、後の態勢は既に次の攻撃に備えている」


 見ていたアハトとナインは、ビアンカの動きを正確に見極めた。しかし、この状況でズィーベン達には、まだ余裕があった。


 上下左右、ズィーベンの攻撃をビアンカは受け流し続けた。だが、ズィーベンは次第に攻撃の速度を上げる。ビアンカの表情が剣を受ける衝撃で、苦痛に歪んで行った。


 苦痛の表情でさえ、見ているアハトとナインは吸い込まれそうな気分になった。飛び散る汗と、風圧に乱れる髪……その全てが”美”とシンクロしていた。


 速度を上げるズィーベンの剣が、やがてビアンカの限界を超える瞬間、アハトとナインは一瞬の後悔に包まれる。かけがえのない宝石が、傷付けられる……そんな感覚。だが、アハトとナインは目を疑った。


 見えなくなる程に加速したズィーベンの剣が、ビアンカに届く瞬間! ズィーベンの体が後方に弾き飛ばされた。


「……今のは……」


 確かに肩口に斬られた感覚があった、右腕が地面に落ちる錯覚の様な感じもあった。だが、痛みは感じても、肩口からは一滴の血も流れていなかった。


 斬られたと思った部分を触りながら、ズィーベンはビアンカを強い視線で見据えた。


「確かに斬られたと思ったが……何だ? お前の剣は?」


 考えらる結論は一つ、ビアンカが斬れない剣で戦っていると言う事だった。


「これは”刀”です。十四郎の国の人を生かす剣です」


 正眼に構えたビアンカが、乱れた髪をかき上げながら呟いた。


「斬れない剣だと……」


 まさに屈辱だった。ズィーベンは怒りに震えるが、ふと肩口の鎧が鋭利な刃物で切られた様に裂けているのに気付いた。


「鎧だけ斬って、体は斬らないだと?」


 屈辱感は更に倍増し、ズィーベンは体を震わせる程の怒りに包まれた。


_________________________



 一瞬で見張りを昏倒させ、ココはゼクスの妻と娘が監禁されている部屋へ入った。


「さあ、逃げますよ」


「……あの人は……裏切ったのですね」


 促すココに向かい、ゼクスの妻は悲しそうな目をした。


「そんな事より、早く!」


 手を取り急ぐココをの手を妻はゆっくりと振り解き、娘も部屋の隅で膝を抱えていた。


「あの人は国王陛下を裏切り、今度は魔法使い様まで裏切りました……青銅騎士の妻として、人質になれば自ら命を絶つ覚悟はあります……ですが、あの人が裏切った訳を知りたい……そんな我がままで……今まで、生きながらえて来たのです」


 妻は言葉を振り絞る。その拳は握り締められ、目には涙が浮かんでいた。


「そんなの簡単ですよ」


「えっ?……」


 笑顔のココは、部屋の隅の娘にも優しく笑った。


「国王は間違っています。だから、十四郎様に従った。そして、命より大切な、あなたと娘さんが人質になった……裏切るのは当然です」


「何を?……騎士が主君や崇拝する人を裏切るなんて……」


 到底妻には、ココの笑顔が理解できなかった。


「私達の常識は間違っているのです。冷静に考えれば今までの私達は、間違っている事に従い、一番大切なモノを犠牲にする事を当然だと思ってました……この世界自体が歪んでいるのにさえ、気付いてなかったのです……いいえ、気付かないフリをしていました。十四郎様は、味方だけでなく敵の命も大切にする……命は尊いものなのです。そんな、当たり前の事に気付かせてくれました……あなたも、十四郎様に会えば分かりますよ」


「私達は……」


 混乱する妻は言葉を失うが、娘は立ち上がるとココを見詰めた。


「お父さん……私達が一番大切なの?」


「そうだよ、誰より、何より一番大切なんだよ……そして、ゼクスは私達にとって、大切な仲間です。その家族である、あなた達も私達にとって大切なのです」


 言葉の途中から、妻の方に視線を向けたココは笑顔だった。


「ですが……私達は、魔法使い様に顔向けが出来ません……」


「ご心配なく。十四郎様はゼクスの行為を、よくやったと褒めてくれますから」


 その言葉は確信だった。ココの脳裏に優しい笑顔の十四郎が浮かんでいた。


「……魔法使いって、どんな人?」


 娘が恐る恐る聞いた。イメージ的には、恐ろしい魔道の”人”……娘の脳裏には、悪魔の化身が過っていた。


「そうだね、小柄で子供みたいで、少し頼りなくて……でも、誰よりも優しくて、誰よりも強い人だよ……会ってみたい?」


「……うん」


 娘の中で、十四郎のイメージは童話に出てくる妖精に近いモノになっていた。


「そんなに強いのですか?」


「そうですね……あの、アウレーリアと互角以上と言えは、分かりますか?」


「……まさか……」


 妻の顔色が変わる。一般人の尺度で言えば、黄金騎士NO.1アウレーリアの強さは神と同等……それは即ち、十四郎は神に匹敵する強さなのだと一瞬で理解出来た。


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