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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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三つ子

 見張りの兵士は、予想以上に多かった。なんとか屋敷には忍び込んだが、ココは身動きが取れないでいた。


「まいったな……想像以上に厳重だ……しかし、時間を掛けるとビアンカ様が心配して突入して来るな」


 侵入する前のビアンカの顔を思い出し、ココは苦笑いした。だが、焦って見つかり敵兵が騒ぎ出してもビアンカは来るだろうと思った。


 細心の注意を払い、ココは三階に上がった。その突き当りの部屋には、二人の見張りが立っていた。


「分かりやすいな……」


 呟いたココは、瞬時に行動を起こした。廊下の反対側に回り込むと、階段付近で物音をたてた。直ぐに片方の見張りが様子を見に来る。天井付近に潜むココは、音もなく近付くと鳩尾に一発で気絶させる。


 そして、見張りをわざと放置して、また天井付近に潜んだ。そして、直ぐにもう一人の見張りが、戻らない相方を探しに来る……見張りが倒れている、もう一人を見つけた瞬間には気を失っていた。


 ココは突き当りの部屋に素早く向かい、中に入った。そこは広くはないが、ベッドルームの様で奥の長椅子に、ゼクスの妻と娘を見つけた。


「ゼクスの奥さんと、娘さんですね?」


「あなたは?」


 娘を後ろに抱えながら、妻はココを驚きの表情で見た。


「助けに来ました。さあ、こちらへ」


 ココが手を差し伸べた瞬間、部屋の奥から細身だが鋭い目の男が出てきた。その男は漆黒の鎧に身を固め、口元だけで笑っていた。だが、驚いたのは同じ顔の男が二人も横にいた事だった。


「三つ子か……」


「やっと、お出ましか……どれだけ待ったと思ってる? 俺達は青銅騎士、ズィーベン、アハト、ノインの三兄弟だ」


 最初の男、ズィーベンがココを睨んだ。聞いた事があった……青銅騎士でも異色の三兄弟。一人一人は青銅騎士でもトップクラスの強さだが、三人集まれば黄金騎士にも匹敵すると。


「それは、それは待たせて悪かったな」


 不敵に笑ったココは、既に部屋の中に傾れ込んだ敵兵を見据えた。


「逃げてっ!」


「そうします。後で迎えに来ますので、もう暫く待っていて下さい」


 叫ぶゼクスの妻に微笑んだココは、言うと同時に窓から飛び出した。


「三階だぞ……羽根でもあるのか?」


 窓から顔を乗り出したズィーベンが、走り去るココの背中を溜息交じりで見た。


「袋のネズミだ、既に周囲は取り囲んでいる」


 槍を持ったアハトがココの走る先に視線を向け、腰に剣を二本差したノインがズィーベンに振り返った。


「来るかな? 魔法使い……」


「奴は銀の双弓……魔法使いの側近だ。これでツヴァイが居れば、必ず来る」


 ズィーベンは腰の大剣を握り締めた。


___________________



 ビアンカの脳裏に閃光が走った。それは、ココの危機だど直感で分かる。


「ココが危ない!」


 叫んだビアンカの元に、シルフィーが駆け付ける。


「シルフィー……」


 当然の様に行く態勢のシルフィーを見て、ビアンカは唖然とした。


「危ないんでしょ? なら、行かなきゃ」


「うん……」


 穏やかなシルフィーの言葉に頷いたビアンカは、シルフィーに跨った。


「止めないの?」


 そんな様子を見ていたノィンツェーンは、真剣に見詰めるツヴァイの横顔に聞いた。


「あいつは敵で溢れる場所に一人で乗り込んだ……私は、それを見送るだけだった……」


「だから?」


 俯き加減で呟くツヴァイに、ノィンツェーンは微笑んだ。


「友の危機を黙って見ているなんて出来ない……」


 ツヴァイは馬に跨ると、直ぐにノィンツェーンも続いた。


「そう、来なくちゃ!」


 だが、三人を呼び止める低い声が後方から響いた。


「待て……何処に行くつもりだ?」


「ゼクス……」


「お前こそ、何しに来た?」


 ビアンカは唖然と呟き、割って入ったツヴァイはゼクスを睨むが、ゼクスも物凄い眼光で睨み返す。


「私の家族だ……行けば失う事になる……それだけは絶対に許さない」


「言いたいことはそれだけか?」


 更に前に出たツヴァイは、顔を近付けた。


「やめてよ二人とも! 今はココが危ないんだよ!」


 泣きそうな顔でノィンツェーンが二人を分けるが、二人の勢いは止まらない。正に一触即発、二人同時に剣に手を掛けた瞬間! ビアンカは冷静な声で言った。


「助けます……ココも、あなたの家族も」


「出来るはずがない……屋敷には大勢の兵士……それに、あの三つ子もいる」


 ビアンカから目を逸らせたゼクスは、小さな声で言った。


「最悪だな……」


「ほんと、最悪。よりによって、あいつ等か……」


 ツヴァイは真剣な顔で呟き、ノィンツェーンは苦笑いした。


「誰なんですか?」


 少し眉をひそめたビアンカに、ツヴァイが説明した。


「三人なら、黄金騎士にも匹敵する奴らです。しかも、性格は残忍。勝つ為には手段は選びません」


「そうですか」


 聞いてもビアンカは顔色を変えず、シルフィーの手綱を引いて踵を返した。


「ビアンカ様……」


 驚いたツヴァイが呟くが、振り向いたビアンカは凛として言った。


「誰が相手でも関係ありません。重要なのは、ココとゼクスの家族を助ける事です」


 そのまま、ビアンカは走り去った。


「何か策でもあると言うのか?……」


「黙って見ているだけでは何も変わらない……まして、今、ココが危ない……行かないと、何も始まらないんだ」


 唖然と見送るゼクスは呟くが、横に並んだツヴァイはビアンカの背中に言葉を投げると馬に鞭を入れて後を追った。



「昔からゼクスは固いんだよね……助けたいんでしょ? 奥さんと娘さん。なら、行かないと……先に行くよ!」


 振り返りながらノィンツェーンも叫ぶと、ビアンカの後を追った。


「……私の家族だ……」


 三人の後ろ姿を見ながら呟いたゼクスは、馬に飛び乗ると全速力で後を追い掛けた。


______________________



「本当に疲れないのか?……」


 全力近くで飛ぶ大鷲は、風の様に失速するアルフィンを見ながら呟く。前にも一緒に走った事はあったが、速さだけではないアルフィンの持久力に大鷲は舌を巻いた。


『手加減無用だ、全力で行け』


「しかし、ローボ様」


 大鷲の脳裏にローボの声が響くが、大鷲は怪訝な顔をした。


『何だ?』


「如何に天馬でも、距離が遠過ぎます。あれだけ全力で走れば……」


『あいつの顔を見ろ』


「えっ?……」


 ローボに言われ、アルフィンの表情を見た大鷲は唖然とした。疲れなど微塵もなく、輝くアルフィンの顔は余裕さえあった。


『奴は天馬だ。そして……十四郎と一緒なら風より速く、狼より遠くに走れる』


 ローボは十四郎とアルフィンの走りを解説する。確かに常識を超えた速度で走り続けるアルフィンの姿に無駄は微塵も無く、流れる水の様なしなやかな走りには美しささえ漂っていた。


「確かに魔法使いは凄い……」


 大鷲は改めて驚愕する。十四郎は低い体勢で空気の摩擦を押さえ、アルフィンの挙動を柔らかい膝で吸収して負担を無くし、手綱は進行方向を的確に指示していた。


 正に人馬一体……二つの異なる生物は、完全に一体化していた。


『平地なら、お前より遥かに速い』


「そのようですね……本当に負けるかも……」


 大鷲は平原に入ると翼に力を込めて加速した。だが、アルフィンの加速は、大鷲をも完全に凌駕していた。


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