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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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魔法と言う魔法

「お前の速さ、俺に見せて見ろっ!」


 鼻息も荒く、バビエカがアルフィンに迫った。


「そんなこと言われても……」


 困ったアルフィンが十四郎を見るが、十四郎は急に真剣な顔をした。その瞬間、大鷲がローボの元に舞い降りた。大鷲がローボに耳打ちすると、ローボの顔も険しくなった。


 そして、一瞬考えた後に十四郎に向き直った。


「言いにくい話だが……」


「案内して下さい」


 ローボが話す前に、十四郎は直ぐに遮った。


「お前、分かるのか?」


「ええ、大体は……目が見える様になってから更に勘が鋭くなりました」


 少し驚くローボだったが、十四郎は平然と言った。だが、その顔には笑みはなかった。


「そうか……人質の奪還だが、かなり困難の様だ。青銅騎士を含め、かなりの人数が屋敷を固めている。四人では手を焼くだろうな」


「……アルフィン殿、お願いします」


 十四郎は落とした視線をアルフィンに向けると、直ぐにアルフィンは頷いた。


「分かった。行こう、十四郎」


「ちょっと、待て。俺との勝負はどうなる?」


 少し慌てたバビエカは、またアルフィンに詰め寄った。


「ごめんなさい。急用が出来たので、この次ね」


「そんな事どうでもいい! 俺と勝負しろっ!」


 すまなそうに謝るアルフィンに、バビエカが声を荒げる。


「すみません……あの、……」


「バビエカだっ! お前こそ、アウレーリアはどうするんだっ!」


 名前を知らない十四郎に、バビエカは叫んでアウレーリアの方を見るとアウレーリアは十四郎の腕をそっと指先で掴んでいた。


「すみません、アウレーリア殿。急用が出来たので、また……」


「そんなんでアウレーリアが納得する訳が……」


 アウレーリアに十四郎が頭を下げると、バビエカはアウレーリアが暴れる様子を想像した。だが、アウレーリアは俯いたまま消えそうな声で呟いた。


「私も……行って……いいですか?」


「それは……」


 困り果てた十四郎だったが、アルフィンは静かにアウレーリアに聞いた。


「約束出来る? 命を奪わないって……そうしたら、十四郎と一緒に行けるよ」


「無理だ……それに、あそこにはビアンカもいる。どうなっても知らんぞ」


 素早くアルフィンに耳打ちしたローボだっが、アルフィンは笑顔で言った。


「多分、大丈夫だよ」


「大丈夫ってお前……私には修羅場の場面しか想像できないぞ」


 呆れるローボに、またアルフィンは微笑んだ。


「だって、ケンカしたら十四郎が悲しむもん」


___________________



「なんて速さだ……」


 全力で走ってるのに、アルフィンとの差は開くばかりだった。


「バビエカ……離されてますよ」


「分かってる! これからだっ!」


 手綱を持つアウレーリアは少し悲しそうな目でバビエカを見るが、バビエカは息を弾ませながらも叫んだ。見開いた視界には、空を飛ぶように疾走するアルフィンの後ろ姿が陽炎の様に映る。


 胸の底から湧いてくるのは、怒りや嫉妬を超えた憧れに近い何かで、バビエカは少しも不快にはならなかった。だが、やがて脚は鉛の様に重くなり、心臓は喉から飛び出しそうになる。


 そして、アルフィンの姿は視界から消えた。


「少し休みますか?」


 直ぐに追えと言われるかと思ったが、アウレーリアは優しくバビエカの首筋を撫ぜた。呆気に取られていると、追い付いたローボがバビエカの横に並んだ。


「落ち込む必要はない。あのシルフィーでも、今のアルフィンには敵わない」


「多分、そうだろうな……」


 違う事を言おうとしたが、バビエカの口からは素直な言葉が漏れた。


「しかし、どう言う事だ? この女は破壊と殺戮しかないはずだが……」


「さあな……始めて会った時のコイツは、正にアンタの言う通りの”魔物”だったのにな……」


 首を捻るローボを見て、バビエカは力無く笑った。


「もしかして……かかったのか……」


「何にだよ?」


 真剣な顔のローボが呟くと、バビエカは溜息交じりに聞いた。


「魔法だ……十四郎の、な」


「……魔法か……」


 何故か妙に納得出来たバビエカは、呼吸を整えるとアルフィンの背中追って走り出した。既に脚の重さや、心臓の鼓動は癒えていた……。これも魔法かなと、十四郎の顔を思い出したバビエカだった。


__________________



「ロメオ殿、城の再構築、お願いしても宜しいでしょうか?」


「それは構わないが、マルコス殿はどうされる?」


 合流したロメオに、マルコスは頭を下げた。


「私はモネコストロ王宮に出向き、事と次第を話し協力を具申します」


「果たして王族が、我々の計画に賛同するでしょうか?」


 ロメオの危惧は当然で、小国と言えモネコストロは立派な王国。計画は自由と平等の平和な世界……それは支配者にとって、権力を含め全てを捨てる事を意味していた。


「我が国王陛下は、ご高齢です。お世継ぎの王女殿下は、まだ幼い……陛下は国民と王女殿下の行く末だけを心配しておられます……保身など、我が国王陛下には無縁です」


「聞き及んでいます。陛下のお噂は……」


アレクシス・ド・グリマルディ……大陸随一の賢王と言えど、王は王。ロメオに疑心が無いと言えば嘘になるが、脳裏に浮かぶのは十四郎の笑顔だった。その笑顔は、ロメオの疑心を簡単に晴らした。


「ロメオ殿の手で、パルノーバをも上回る城にして下さい。資材全てはダニーとアリアンナが揃えます」


「私はパルノーバ陥落の将ですよ」


 更に深々と頭を下げるマルコスに向かい、ロメオは苦笑いした。


「どんな軍でもパルノーバを陥落させる事は不可能でした……将としてのロメオ殿の名声は揺るぎません。落とされたのは、相手が十四郎だからこそです」


「そう……ですね」


 難攻不落のパルノーバを落としたのは、確かに十四郎だった。思い出したロメオは、小さく溜息をついた……これも、魔法なのかなと思いながら。


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