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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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狩人

「もう、いいでしょう……」


 十四郎は鎧の男に、穏やかに言った。


「……何が、いいのだ?」


 恐怖とプライド、そして”欲”が鎧の男の声を震わせた。横目で見るアウレーリアの美しさと、アルフィンの素晴らしさ……その所有欲だけが、鎧の男の剣を抜かせた。


 左足を引き、左手親指で鯉口を切り十四郎は、刀の柄にゆっくりと右手を添えた。そのまま、やや腰を落として、十四郎は呟いた。


「お相手します……」


「剣も抜かずにっ!」


 叫ぶと同時に斬り掛かる鎧の男だったが、一歩出た瞬間に顔の前を風が過った。そして、肩の辺りに痛みが走ったと感じた瞬間、意識は体を離れた。


 側近達には十四郎が刀を抜くのが見えなかった。だが、恐怖で体が固まる前に雄叫びを上げながら、十四郎に向かい突進した。今度はゆっくりと刀を抜いて、十四郎は正眼に構えた。


 その構えに一部の隙もなかったが、お構いなしに斬りかかる。だが、側近達の剣が十四郎の刀と交わう事さえなかった。


「何で倒れるんだ?……」


 唖然と呟くバビエカの目が大きく見開かれるが、アルフィンは普通に言った。


「言ったでしょ、十四郎は大丈夫だって」


 そして、やや俯いたまま頬を染めるアウレーリアに、真剣な目でバビエカは向き直った。


「お前、魔法使いと戦う為に魔剣を手に入れたんだよな?」


「……はい」


 小さくアウレーリアは頷くが、とても戦おうとしている様には見えなかった。


「いい加減にしろよっ! お前が戦いたいって言うからっ!」


 その場で興奮しているのは、バビエカだけだった。


「お前こそ、いい加減にしろ。さっきから、煩い……」


「仕方ないだろっ! コイツが戦いたいって言うから、こんなとこまで来たんだぞっ!」


 迫力ある目でローボが睨むが、バビエカは更に声を上げた。


「私も、戦いたくはありません」


 興奮するバビエカの方を十四郎は穏やかに見るが、バビエカは声を荒げる。


「なら、何故ここに来たっ?!」


「本当はね、あの人を止める為に来たんだ……あの人、私達の仲間に危害を加えるかもしれないから……」


 小さく悲しそうな声でアルフィンは呟くが、バビエカは更に分からなくなった。


「何故だ……止める為だと?……ならば、何故戦いを拒む?」


「人は分からない……だが、コイツは人の中でも一番分からない奴だ」


 少し口元を緩め、ローボが十四郎を見た。同じようにバビエカが十四郎に視線を移すと、そこには穏やかに佇む姿があり、更にすぐ傍に寄り添う様に俯いたままのアウレーリアがいた。


「本当に……どうしたんだ?……」


「一緒だ……お前がアルフィンを見た時と……」


 唖然と呟くバビエカに向かい、ローボが静かに言った。その言葉がバビエカの胸に突き刺さり、視線を向けたアルフィンの姿が眩しかった。


「何を言っている?……」


 辛うじて、その一言だけ言ったバビエカは黙り込んだ。


「あらら、これは想定してなかったね……」


 ふいにライエカが、十四郎の肩に舞い降りた。


「ライエカ殿?」


「何しに来た?」


 驚く十四郎をよそに、ローボが溜息を付いた。


「……ライエカだって?」


 急にバビエカの顔が青ざめる。


「どうしたの?」


「あのライエカだぞ! お前、知らないのか?!」


 ポカンと呟くアルフィンに、興奮したバビエカが怒鳴った。


「知ってるよ、十四郎と友達なんだよ」


「……と、友達?」


 ローボがいるだけでも驚きなのに、ライエカまで……バビエカは体中から噴き出す汗と、心臓の鼓動で吐き気を感じた。そんなバビエカなど放っておいて、ライエカは十四郎の耳元で聞いた。


「どう思う、あの剣?」


 ライエカはアウレーリアの腰に下がる剣を見詰め、十四郎も真剣な目で答えた。


「そうですね、今までに感じた事のない”気”ですね」


「正に、とてつもない妖気ね……」


「しかし、アウレーリア殿が完全に抑えています」


「そう……あの魔剣が従ってる」


「だから、何しに来たんだ?」


 十四郎とライエカの会話に割り込み、ローボは大きな溜息をついた。


「何しにって、あなたと同じなんですけど」


「私は……」


 ライエカの言葉に、ローボは赤面した。


「十四郎が心配で付いて来たんだよね」


「うるさい! もう大丈夫だ! お前は帰れっ!」


「おお、怖い……じゃあ十四郎、またね」


 笑顔のライエカは、そう言い残すと大空に舞った。


「フ~、で、この後どうする?」


 大きな溜息の後、ローボが十四郎を見た。


「どうしましょうか?」


 十四郎は苦笑いした。ずっと前からアウレーリアは、俯き加減で十四郎の傍に寄り添っていたから。


「……もういい、そんな奴はもう知らん……アルフィン、オレと勝負しろ」


「えっ? ワタシ?」


 業を煮やしたバビエカは、鋭い視線でアルフィンを見詰めた。


________________



「この先、貴族の別荘があります。そこに囚われている可能性が」


「そうですか……」


 戻ったココが、ビアンカに報告した。アルマンニ領内に入ったのはいいが、ゼクスの家族が囚われている場所は特定できず、ココが先回りで情報収集していたのだった。


「全く、何も知らないで来るんだもんね……」


 背伸びしながらノィンツェーンは呆れ声を出すが、ツヴァイは真剣な目でココを見た。


「それで、敵の人数は?」


「厄介な事に青銅騎士の上位ナンバーが数人、弓兵や騎兵も大勢いる」


「何よそれ?……完全に待ち伏せじゃない?」


 呆れた様にノィンツェーンは言うが、ツヴァイは真剣な顔を崩さなかった。


「それなら、確定だな」


「ああ、間違いない」


 ココはツヴァイの視線を受け止め、ノィンツェーンが腕組みしながら言った。


「作戦なんだけど……私達三人が囮になって、その隙にココが救出する……と、言うのはどう?」


「我々が姿を現した時点で、敵は救出に来たと知る。従って、人質の周囲は人数を配置して固めるはず……ココだけでは無理があるな」


 ノィンツェーンの提案を、ツヴァイは直ぐに否定した。


「じゃあ、どうするのよ? 全員で突っ込む?」


 溜息交じりのノィンツェーンだったが、ココは笑みを浮かべた。


「最終的にはそれだな。だが、まずは居場所を特定だ。中途半端に突っ込こんで、人質を盾にされたら手も足も出ない」


「また、ココが行くの?」


 ノィンツェーンは少し不安そうな顔をするが、ココは笑いながら言った。


「俺は近接戦闘は苦手なんだ、なんせ弓を使う狩人だからな……だが、狩猟の技は生かせる……誰にも気付かれず、獲物に接近する」


「お前は、モネコストロ最高の狩人だ」


 ツヴァイがココを鋭い視線で見ると、ココも強く頷いた。確かに騎士としての強さとは違うが、戦闘の於いての強さをツヴァイは認めていた。


「お願い……気を付けて」


 ビアンカは泣きそうな顔で、ココを見た。


「いやぁ、ビアンカ様に言われると、何だか照れるなぁ~」


 急に表情を崩したココは、鼻の下を伸ばした。


「前言撤回……お前なんか、敵に見つかってゴウモンでも受ければいい」


「そうよ、鼻の下なんか伸ばして……」


 呆れ顔のツヴァイが呟き、ノィンツェーンも怒った様に背中を向けた。


「あなたが無事じゃないと、リルに顔向け出来ない……」


 そんな遣り取りを見ていたビアンカだったが、笑顔なく呟いた。


「大丈夫です。必ず無事に戻ります……妹を悲しませたりしません」


 緩めていた顔を引き締め、ココは一礼の後に森の中に消えた。見送るビアンカの不安そうな横顔はツヴァイの胸をキュンとさせ、ノィンツェーンも心の中でココの無事を祈った。


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