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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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理由

 十四郎は用意された部屋に入ったが、ビアンカはずっと窓辺に佇むライエカと向き合っていた。


「あなたは十四郎の為に来てくれたのですね」


「だって、このままじゃ……」


 ライエカには剣を失った十四郎の結末が見えていた。


「ありがとう」


 俯くライエカに、ビアンカはそっと頭を下げた。


「……まだ、何もしていない」


 真っ直ぐなビアンカの視線を、ライエカは見詰め返す事が出来ずに視線を逸らす。


「大丈夫です。もしもの時は、私が盾になります」


 微笑んだビアンカだっが、ライエカは声を荒げた。


「瞬間! 瞬間で、あなたの命は消える!……十四郎にとっては何の役にも立たない……」


「……そうですね……でも、一瞬でもいいんです」


 そう言い切るビアンカ。ライエカには全く分からなかった……ほんの一瞬だけ守る事に、何の意味があると言うのか?。


「わからないだろ? 人とは本当に分からない」


 気付くと、ローボが薄笑みを浮かべていた。


「……本当」


 ライエカはビアンカの微笑みを不思議な気持ちで見ていた。


「さて、行くか……」


「何処に?」


 ローボは薄笑みを浮かべると背中を向ける。ライエカは、その背中に疑問を投げた。


「手段が無い訳ではないからな……」


 意味深な言葉にライエカは首を捻るとビアンカを見るが、その表情には一欠けらの曇りもなかった。


「何故なの? 危険が迫ってるのよ」


「そうかもしれませんね」


「他人事みたいに……」


 それでも微笑むビアンカに、呆れ顔のライエカが呟いた。


「信じてますから……十四郎は、誰にも負けません」


「……そうなら、いいけど……」


 ビアンカはそう言うが、ライエカは溜息しか出なかった。そして、顔を上げると決心した様に大空に向けて飛び去った。


__________________________



 馬小屋で並んで休んでいたアルフィンとシルフィーの元に、ローボがやって来た。開口一番、ローボはアルフィンに言った。


「あの女が来たら、十四郎を乗せて逃げろ」


「えっ? どう言う事ですか?」


 驚いたアルフィンが、ローボを見詰めた。


「あの女は魔剣を手に入れた。戦えば十四郎は必ず負ける、それは全ての希望を失うのと同義だ……今、残された手段は逃げる事しかない」


「そんな、十四郎は負けないよ!」


 アルフィンは食い下がるが、ローボは瞳を伏せた。


「残念だが事実だ」


「他に方法は無いのですか?」


 瞬時に悟ったシルフィーが聞いた。十四郎が仲間を残して逃げるなんて、考えらえれなかったから。


「一つだけある……それはあ、十四郎の剣とライエカが同化する事だ……」


 ローボは強くシルフィーを見詰めた。


「同化したら、ライエカはどうなりますか?」


「二度と元の姿には戻れない」


 静かなシルフィーの質問に、ローボは声を落とす。


「それなら、十四郎は絶対にやらないね……でも、逃げるかなぁ……十四郎」


「そうね……十四郎が逃げるはずはない」


 溜息交じりのアルフィンに、シルフィーが言葉を重ねた。


「だから、お前に頼んだのだ」


「無理矢理逃がすのね」


 ローボがアルフィンを見詰めると、アルフィンは大きな溜息を付いた。


「お前に追い付けるとしたら、シルフィーしかない……シルフィーは絶対動くな」


「……分かりました」


「えっ、どいう言う事?」


 小さく頷くシルフィーの顔を、ポカンとアルフィンが見た。


「ビアンカだよ」


「あっ、そうか」


 ボソッとローボが呟くと、アルフィンは納得した。云うまでも無く、必ずビアンカは十四郎の後を追うだろうと確信した。


「……でも、ビアンカの頼みを断れるかしら……」


 泣き顔のビアンカを思い出し、シルフィーは俯いた。


「……最悪、お前が押し切られ、後を追ったとしても大丈夫だ……速さでは対等でも、お前とアルフィンには最大の違いがある……アルフィンは疲れないのだ」


「はっ……」


 ローボの言葉を受け、シルフィーは直ぐに気付いた。速さだけななら引けは取らないが、天馬アルフィンの桁外れの耐久力を……。しかし、自覚の無いアルフィンはキョトンとしていた。


「疲れる? どんな事?」


「あなたは特別なのよ、アルフィン」


 ポカンとするアルフィンに、シルフィーは優しく笑った。


「特別?」


「そう、あなたは十四郎の馬。二人は”最強”なんでしょ?」


「そうだった」


 シルフィーが優しく微笑むと、アルフィンは嬉しそうに笑った。


________________________



「少し休ませろよっ!」


 全力で走るバビエカが叫ぶと、アウレーリアは手綱を緩めた。


「少しだけなら」


 道端の泉に、バビエカは顔を突っ込んでガブガブと水を飲んだ。


「お前は飲まないのか?」


「平気……」


 アウレーリアは立ったまま、遠くを見ていた。


「そんなに急がなくても剣も手に入れたし、魔法使いなんて……」


 息を弾ませるバビエカは、途中で言葉を途切れさせた。それは、アウレーリアの横顔が太陽の光を受け、息を飲むほどに輝いていたから。


 水分の補給で一息付いたバビエカは、立ち尽くすアウレーリアの背中に聞いてみた。


「魔物さえ一撃で倒すお前が、戦いたい魔法使いってどんな奴なんだ?」


「……十四郎は強い……」


「お前よりもか?」


 ポツリと呟くアウレーリアだったが、バビエカにはアウレーリアに匹敵する奴が存在するなど、信じられなかった。


「……分からない」


「それを確かめに行くのか?」


「……」


 アウレーリアは答えなかった。


「……違うのか?」


「……」


 背中を向けたアウレーリアの髪が風に揺れる。目の前に存在する、神や魔物でも簡単に切り捨てる”女”のココロが揺れているのを、バビエカは不思議な気持ちで見ていた。そして、思わず口に出た……。


「会いたいのか?」


「……」


 その問いにもアウレーリアは答えなかった。ただ、ほんの微かにアウレーリアの顔が頷いたのを、バビエカは確かに見た。そして、大きく深呼吸するとアウレーリアの前に行った。


「乗れよ、今度は休憩無しだ」


「……はい」


 小さく頷いたアウレーリアは、バビエカに跨る。バビエカは走り出した……今なら、アルフィンやシルフィーにだって負けないと思った。その速さは、既に風さえ追い越していた。


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