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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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天馬 アルフィン

 騎士の授与式は王宮大広間で行われた。着物でいいと言い張る十四郎を、なんとか説き伏せ騎士の正装を着させたビアンカは、心臓の鼓動が苦しくて仕方ない。

 

 その出で立ちは凛々しく、初めてなのに完璧に着こなし、風格さえもまとっていた。しかも似合った服装と対比する優しい童顔は、ど真ん中のストレートをビアンカに投げ込んだ。


「十四郎様、お似合いですね。ねぇ、ビアンカ?」


 わざと言うリズは、固まったビアンカに溜息を付いた。からかい甲斐がありすぎて、あまり面白くなかったからだ。

 

 式は直前に無理やりレクチャーしておいたので、滞りなく進んだ。


「あなたは魔法使いなのですか?」


「いえ、その様なものではございません」


「では何故、あの様にお強いのですか?」


 王女リシェルは笑顔で問うが、十四郎は片膝を付き顔を下げたまま返答に困る。


「恐れながら、私は幼い頃より父に武芸をやらされました。その厳しい鍛錬は昼夜を問わず休みなく、気が付けば多くの技を会得しておりました。だだ、それだけにございます」


 伏したまま十四郎は語るが、リシェルは首を傾げる。そこに、ガリレウスが補足に入った。


「姫殿下。十四郎様は謙遜されて、やらされたと申されておりますが”やらされた”と”やった”は違うのでございます。十四郎様は自らのご意思で、目標に向かい弛まぬ努力を続け達成されたのでございます。しかしながら、誰もが意思と努力だけでは到達致しません。やはり、天賦の才能は不可欠であると存じます」


「ありがとう、ガリレウス。納得しました、十四郎様のお強い訳を」


 大きく頷いたリシェルは、笑顔でガリレウスに礼を述べた。式も終りに近づいた時、バンスを伴い豪華なドレスに身を包んだライアが現れた。


「十四郎、妾からの贈り物を受け取るがよい」


 言葉とは裏腹にライアは少し声が揺れる、十四郎の名前を呼ぶ事が胸の隅に引っかかった。大広間のテラスから人々が見下ろした庭には、純白に近い葦毛の馬がいた。


「あれは天馬、アルフィン……アングリアンの至宝」


 驚きの声を上げるザインに、ビアンカも反応する。十四郎は事の次第が分からず、不思議そうな顔で遠くのアルフィンを見ていた。


「シルフィーに勝るとも劣らない神速だと聞いています」


「速さだけならな、しかしアルフィンは違う名でも呼ばれている……アイスドール。つまり、性格が氷みたいに冷たく、誰にもココロを開かない」


 ザインが説明するが、そもそも何故ライアが十四郎に贈るのかビアンカは理解できない。


「何故そんな馬を?」


「さあな、あのライア姫だ、誰にも分からんさ」


 ザインが言うのと同時に背後にライアが迫る、二人とも慌てて片膝を付いて頭を下げた。


「そちがビアンカか? 十四郎とは、どう言う関係じゃ?」


「仰せの意味が分かりかねます」


 ビアンカは顔を伏せたまま少し強い口調で言う。ライアが十四郎と名前を言っただけなのに、何故が胸の片方が痛い。


「面を上げよ」


 顔を上げたビアンカの表情を、まじまじと見たライアは不敵な笑みを漏らす。


「噂に違わぬ美しさよ……」


 そう言い残し、複雑な顔を引き摺りながらライアは去って行った。しかし、十四郎とはあまり言葉は交わしていない。

 

 傍で見ていたリズの女の勘は、ライアのココロを予測した。有名な我がまま姫も、同じ年頃の女の子だと……。


 当然、ビアンカは気付きもしないだろうと、溜息を付きながら。


__________________________



 アルフィンを貰ったのは良いが、ケイトの家には馬小屋なんてない。一応、ビアンカの屋敷で預かってもらう事にして、十四郎は手綱を引いて歩いていた。初めに挨拶してもアルフィンは無反応で、仕方なく乗らずに歩いていた。


 屋敷までは遠いのに、何故? アルフィンの中で、そんな疑問が歩く歩数の数だけ増える。しかし、前を歩く十四郎の背中は、そんな事なんてどうでもいいよと言ってるみたいに見える。


 だが、長い道のりは不思議と不快感は無い。あるのは、ゆっくり流れる時間と優しい陽だまりだけ……アルフィンは初めての感覚に戸惑いながら、十四郎の後をただ付いて行った。


「何故乗らないのですか?」


 ビアンカの屋敷まで直ぐと言う時、やっとアルフィンが口を開いた。


「いえ、その、アルフィン殿がお嫌の様でしたから」


「……」


 済まなそうな十四郎に、またアルフィンは黙り込んだ。苛立ち? それに似た何かが胸のモヤモヤと混ざり、それ以上話す気にはなれなかった。


___________________________



 屋敷の馬小屋で、アルフィンはシルフィーと並んでいた。


「私はシルフィー、宜しくね」


「……あなたの噂は聞いています、神速のシルフィー。あのルシファールを馬術で倒すとは」


 一呼吸置いて話し出すアルフィンは、横目でシルフィーを見た。


「倒せたのは十四郎のお陰。私だけなら、きっと負けてたな」


 シルフィーの声には謙遜はなく、アルフィンは首を捻る。


「あの人は、そんなに凄い乗り手なんですか?」


「ええ、とても優しくて暖かい人よ」


 意味が分からなかった、技術や経験などではなく”優しい”というシルフィーの言葉が。アルフィンは少し話題を変えた。


「この国で一番速いあなたと、競ってみたい」


「私もよ。でも、あなたの勝ち」


 穏やかなシルフィーの声が、馬鹿にされた様に聞こえたアルフィンは少し声を荒げた。


「私など、眼中にないのですか?」


「いいえ、あなたは十四郎の馬、オニニカナボウなの」


「何ですかそれは?」


「十四郎とあなたの組み合わせは“最強”という事。あなたも直ぐに分かる、十四郎がどんな人か」


 アルフィンには、これだけは分かった。シルフィーは決して馬鹿にしているのではなく、もしかして羨ましいのではないか、と。


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