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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
258/347

獅子王 ※

「王の様子はどうだ?」


 ドライが部屋に入って直ぐ、七子から先に質問した。


「はっ、最近になって次第に具合が悪くなっています……が、しかし……」


 明らかに不自然な状態に、ドライは言葉を詰まらせた。言われた通り、七子から渡されたモノを水に混ぜ王に飲ませていたが、かなりの長い期間が経過しても王に変わりがなかったからだ。


「あの毒は遅行性だ。周囲には、だたの病にしか見えぬ。水に混ぜても無味無臭、少しづつ確実に”死”に向かう」


 七子は口元を緩め、怪しい瞳で呟いた。


「……七子様、どこでその様な知識を?」


 前から疑問だった。この世界にも毒は存在するが、見た事も無い毒草を七子は簡単に見付け国王に飲ませたのだった。


「諜報と暗殺が我等の仕事だからな……だが、あの毒草がこの世界にもあるなど、驚いた」


 平然と七子は言うが、ドライには直ぐに結果を出さない遣り方に疑問を持っていた。


「お聞きして宜しいですか?」


「何だ?」


「何故直ぐに命を奪わないのですか?」


 ドライの問いに、七子は怪しい笑みを浮かべたまま答えた。


「毒殺と分かれば警戒する。だが、それが病気なら隙は生まれる。王が死ねば王位は若い王子だ……手に取るなど容易い。それから、大司教にも殉死してもらわなくてはな」


「はっ、それは抜かりなく……それと、もう一つ御報告が」


「ああ」


「魔法使いはアドリアーノの軍団を退けました。アドリアーノは撤退し、殿部隊の約二千を魔法使いが取り込みました」


「十四郎の仲間に損害は?」


「殆ど損害はない模様です……更にアングリアンの近衛騎士団千名も加わり、総勢は数千程に膨らんでいます」


「まだ、それ位か……」


 ドライの報告に七子は意味深な笑みを浮かべ、小さく息を吐くと静かに聞いた。


「アウレーリアは、どうなった?」


「アウレーリアが魔法の剣を手に入れました。魔法使いの所へ、向かっております」


「そうか」


 顔色さえ変えない七子の真意は、ドライには分からなかった。


「アウレーリアは魔法使いを倒すのですか?」


「倒せるとしたら、アウレーリアだけだが……」


「……」


 七子の言葉に言い難い何かを感じたドライは、無言で頭を下げた。


______________________________



「剣は手に入れた。これからどうする?」


 魔の森を抜ける途中、バビエカは聞いてみた。


「十四郎の所に行きます」


「魔法使いを斬るのか?」


「……」


 その問いに、アウレーリアは答えなかった。バビエカは、質問を変える。


「せっかく魔法の剣を手に入れたんだ、試してみたくないか?」


「別に……」


 アウレーリアは小さく答えるが、バビエカは異常な気配に立ち止まる。その先には無数の黒い何かが蠢いていた。アウレーリアは手綱を引くと、ゆっくりバビエカから降りた。


「素直には帰してくれそうにないな」


 強がる様な言葉を吐くバビエカだったが、その声は震えていた。だが、アウレーリアの声は普段と変わらない。


「直ぐに終わります」


 アウレーリアは黒いモノに向かって歩き出す。その黒い何かは次第に集積し、巨大な影となり立ち塞がった。


「何だ、あれ……」


 次第に輪郭を表す影は物凄い筋肉の盛り上がる人の身体、首から上は見た事も無い猛獣の顔だった。そして、身の毛もよだつ炎の様な目がアウレーリアを睨んでいた。


「全ての守護者の集合体、魔眼の獅子王じゃ。悪いが、このまま帰す訳には行かぬ」


 二人の後ろから老猿が低く暗い声で言った。


「聞いた事がある……遥か西の大陸に狼さえ一瞬で切裂く百獣の王がいると……」


 声を震わせるバビエカは、獅子王の短剣みたいな爪に大量の汗を流した。そして、獅子王は悪魔の様な口元から鋭い牙を覗かせ、吐く息は霧の様に青白かった。


 だが、アウレーリアは眉さえ動かさず近付いて行く。止めようにもバビエカは恐怖で身体が硬直し、言葉など出るはずもなかった。


「ソノ、ケンヲオイテユケ……ナラバ、イノチハタスケル」


 獅子王は生き物ではない声でアウレーリアに言った。


「折れる剣なら、置いて行きます」


 アウレーリアはゆっくりと剣を抜いた。諸刃の細い剣は周囲の暗闇さえ切り裂くと、白銀の刀身に紋章が浮かび出る。


「あの紋章……」


 思わずバビエカが呟いた。それは紛れも無くアウレーリアの鎧に刻まれた、逆さ十字の紋章だった。


「まさか……」


 老猿の口から驚愕の言葉が漏れた瞬間、獅子王が見えない速さでアウレーリアに襲い掛かった。


 ”ギン!”と言う鈍い金属音が周囲に響く。あまりの衝撃音に、一瞬バビエカは目を閉じるが、ゆっくり開けた目には、獅子王の鋭い爪を平然と受けるアウレーリアの姿が飛び込んだ。


 爪を受けたまま、アウレーリアは見えない速さで受け流すと、更に速い速度で剣を横薙ぎにした。後ろに跳んで躱したはずの獅子王の腹が、真紅の血飛沫を上げる。


「当たってないだろ?……」


 バビエカには剣が届いてない様に見えたが、老猿は声を震わせた。


「確かに届くはずは無いが……」


 獅子王は滴る自らの血を舐めると、大きく開いた口元を緩ませた。そして、竜の様な青い吐息を吐くと、再びアウレーリアに襲い掛かる。背丈で倍、体重なら数倍に相当するかの体格差だが、アウレーリアは獅子王の爪や牙を簡単に受け流した。


「何を、している?……」


 今までなら一刀両断で相手を殲滅していたアウレーリアの動きが違う様に見え、バビエカに違和感を与える。


「剣を試しているのか?……しかし、相手は獅子王……そんな余裕があるはずが……」


 老猿は唖然と呟く。


「硬い……」


 アウレーリアは呟くと、刀身を顔に近付けた。普通の件なら刃こぼれするだろう凄まじい獅子王の打ち込みを受けても、魔剣は曇り一つなく輝いていた。


 アウレーリア美しい顔が微笑みに包まれる。


「笑ってやがる……」


 その美しい仕草は、バビエカを恐怖に包む。そして、獅子王が渾身の爪を放つとアウレーリアは受けるのではなく、剣を振るった。


 黙視できない程の速さで打ち込まれる剣先! それは確実に獅子王の爪を狙っていた。


「鋼より強靭な爪が……」


 老猿の目に、宙を舞う獅子王の爪の破片が輝く流星の様に映った。そして、爪が地面に落ちた瞬間にアウレーリアは背を向けた。


 その満足そうな顔に、バビエカは身震いするが獅子王はその背中に牙を向ける。だが、アウレーリアの身体に牙が届く瞬間、剣が獅子王の目前に静止していた。


 瞬時に動きを止める獅子王。その背中には経験した事の無い汗が、滝の様に流れていた。


「獅子王が怯えている……」


 信じられない光景に、老猿さえ身体が硬直した。


_____________________________



 アルフィンとシルフィーの速度は正に風だった。本来なら二日は掛かるローベルタ夫人の館まで半日で到着した。


「随分と遅い御帰還ですね」


「申し訳ありませんでした」


 ローベルタ夫人の言葉に、十四郎は深々と頭を下げた。横に並ぶビアンカも、同じ様に深い礼をした。


 その姿に眉を顰めていたローベルタ夫人は、表情を和らげる。


「あなたが帰って来るまで、マルコス殿やアリアンナに散々あなたの事を聞かされました」


「はあ……」


 十四郎は済まなそうに頭を掻く。


「多くの話しの中で、気になる事がありました」


 途端に控えるマルコスの顔が蒼白になった。アリアンナも、瞬間に顔色が変わる。そして、暫く十四郎の表情を見詰めていたローベルタ夫人はゆっくりと聞いた。


「あなたは分け隔てなく、全ての者の為に命を投げ出します……ですが、それでは命が幾つあっても足りませんね……それに、あなたを失うと言う事は、あなたに従う全ての者の希望を消してしまう事なのですよ」


「あっ、はい」


 また、済まなそうに十四郎は俯いた。


「皆を率いる者として、十四郎は軽率かもしれません……ですが、そんな者が他にいるでしょうか?」


 俯く十四郎の横から、ビアンカが真っ直ぐな瞳でローベルタ夫人を見詰めた。


「確かにそうですね……十四郎、あなたには大きな責任があるのですよ。従う全ての者に、希望の光を照らし続けると言う責任が」


 俯いたままの十四郎が、ゆっくり顔を上げる。


「はい……私は命を粗末には致しません。生きる理由が出来ましたから……」


 十四郎の言葉がビアンカの胸を貫く。


「……十四郎、もしもの時は……私を見捨て……」


「それは約束出来ません」


 ビアンカの消えそうな声を遮り、十四郎は穏やかに言った。


「あなたは、ビアンカ様と他の人が同時に危機になったら、どちらを選ぶのですか?」


「助けますよ……両方」


 溜息交じりのローベルタ夫人の問いに、顔を上げた十四郎は優しく笑った。


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