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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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異邦人

「アルフィン殿!」


「分かってるよ! シルフィーが来た!」


 十四郎が叫ぶと、アルフィンは兵士達の真ん中で止まった。直ぐに距離を取り、兵士達が十四郎を取り囲んだ。そして、ジリジリと包囲の輪を狭めるが十四郎は全く動じていなかった。


「何者だ?!」


 先頭の騎士が叫ぶ。如何にも歴戦の強者と言った風情の大男は、巨大なクレイモアを突き付けた。


「私は柏木十四郎です」


「何だと?!」


 聞いた事の無い変わった”名前”……確かに風体は異国人だが、その優しそうな面持ちは大男を困惑させた。異様な感じは、取り囲む兵達を動揺させるが、そこにシルフィーとビアンカが駆け付けた。


 一目で分かる美麗の女騎士と白い愛馬、ビアンカはあまりにも有名だった。異様な雰囲気から解放された兵士達は、ビアンカと十四郎を取り囲んだ。


 十四郎はアルフィンを降りると、鼻先を優しく撫ぜた。


「アルフィン殿、シルフィー殿と一緒に先に砦へ」


「分かった十四郎、気を付けてね」


 直ぐにアルフィンは察して、シルフィーと一緒に疾風の様に砦に向かった。


「……十四郎……」


 俯くビアンカは怒られると思って声を潜めるが、十四郎は笑顔を向けた。


「ビアンカ殿、背中を頼みます」


「……はい」


 ビアンカの中に、熱いモノが湧いて来る。直ぐに駆け寄り、背中を合わせた。


「あれは、モネコストロのビアンカだっ! 討ち取れっ!」


 大男を先頭に、大勢の騎士がビアンカに群がった。だがビアンカは、ゆっくりとした動作で刀を抜く。その刀身には稲妻の様でもあり、植物の蔦みたいにも見え、見た事も無い文字の様な美しい模様が現れる。


 一斉に襲い掛かる騎士達、だがビアンカは刀を一閃! 一瞬で騎士達は地面に倒れた。だが、背中越しに十四郎は違和感を感じた。でも、その違和感はとても優しくて穏やかな違和感だった。


 ビアンカは峰打ちではなく、刃を向けていたのだ……だが、騎士達に傷は無かったが、槍や盾などは見事に真っ二つに斬っていた。


「……ライエカ殿」


 微笑んだ十四郎はライエカが、ビアンカの刀に何をしたのか手に取る様に分かった。刀は湾曲しており、峰を向けるとバランスが崩れ扱いにくくなる。数人相手ならいざ知らず、大勢を相手にする場合は不利になるからだ。


 十四郎も刀を抜くと、電光石火で振り抜く! 一撃で数人が意識を断たれる! その一閃は周囲の騎士達には当然見えなかった。


_______________________



「十四郎が来ました……」


 はにかむ様にラナは呟き、ランスロットは目を凝らして敵の大軍を見た。確かに敵の軍勢は大きく乱れ、歓声や怒号が入り乱れていた。


「あれは……」


 遠くに十四郎とを見付けたランスロットは唖然とした。たった二人なのに、周囲の騎士達が近寄るだけで倒れている様に見えた。そして、顔が判別出来る距離まで近づくと、更に驚きは大きくなる。


 確かに異国人見えるが、十四郎の容姿はランスロットの常識を混乱させた。


「まだ、子供じゃないか……しかも、あんな優しそうな顔で……」


「確かに若く見えますね」


 思わずロメオは苦笑いした。


「あれは魔法なのですか?」


 相手は剣を合わせる事さえ出来ず、十四郎が近付くだけで倒される。しかも相手の数は尋常ではない大軍であり、ランスロットは驚きを通り越し恐怖さえ覚えた。


「魔法……かも、しれません」


 苦笑いしたロメオの顔からも、笑みが消える。視力を回復した十四郎の動きは、凄みさえ感じさせていた。まるで、次の相手の動きが全て分かる様に十四郎は刀を振るう。


「十四郎様の動き……更に凄くなっている……」


 リズさえ驚きの言葉を漏らすが、ランスローは吐き捨てた。


「本気なんか出してない。軽く流してやがる」


「あれで、軽くなのか?」


 更にランスロットは目を見開き、ランスローを見た。


「ええ、あいつが本気を出せば、どうなるのか?」


 ランスローは背筋に冷たい物が流れるのを感じた。


「十四郎様だけじゃない……凄い……ビアンカ……」


 十四郎ばかりに気を取られ、少し遅れてビアンカを見たリズは茫然と呟いた。ランスロットもその声で、ビアンカを見詰める。そこには、十四郎と遜色ない動きで敵を倒す姿があった。


「……なんて、美しい……」


 思わず言葉が漏れる。ビアンカの動きには敵を圧倒する威圧感や凄みは微塵もないが、優美さと気品が満ち溢れていた。それだけではない、ビアンカの容姿は光をまとい見ている者を惹き付けて放さなかった。


 だが、呟いたランスロットは後悔した。隣にいるラナの前で、他の女性を美しいと言ってしまった事を。


「そうですね……ビアンカは美しい……それだけでなく、彼女は強い……十四郎の助けになれる」


 ラナはランスロットの言葉を受け、自然な笑みを浮かべた。それはランスロットにとって、十四郎の強さより大きな驚きだった。前のラナなら取り乱し、大声で罵倒していただろう。


「姫殿下……」


「もう、姫殿下ではありません」


 驚愕の顔を向けるランスロットに、ラナは優しく言った。


「いえ、私にとってあなた様は永遠に姫殿下です」


 跪くランスロットに、ラナは優しい笑顔を向けた。


_________________________



「申し上げます! 何者かが後部から突入! 現在中心部で交戦中!」


「どこの軍勢だっ?!」


 報告を受けたアドリアーノは、直ぐに立ち上がった。


「それが、二人だけです」


「二人だと?!」


「一人はモネコストロのビアンカ、もう一人は異国人の様で……」


「何だと?」


 報告はアドリアーノに予感させた。そのまま現場に向かおうとするが、焦る側近に止められた。


「お待ち下さい!」


「そこをどけ!」


「危険です! 奴らは化物です!」


「ならば、尚更見ないとな」


 必死で止める側近を振り解き、アドリアーノは現場へと向かった。


________________________



 小さな宿で、アウレーリアは服も脱がずベッドに座っていた。暫くして、老人が食事を持って来る。


「魔剣をどうされるのですか?」


「十四郎と戦う為に必要なのです」


 食事をテーブルに置きながら老人が背中で聞くが、アウレーリアは窓の外を見ながら呟いた。


「十四郎?……」


「みんなが、魔法使いと呼ぶ人……」


 一瞬、アウレーリアの瞳に炎が映る。だが、老人は静かに言った。


「その、魔法使いは強いのですか?」


「ええ……とても」


 口元を緩めるアウレーリアは息を飲む程に美しかったが、老人の背中は汗で濡れていた。


「魔剣がある山には、沢山の魔物が住んでいます。一人で行くのは危険です」


「一人ではありません。バビエカと一緒に……」


「バビエカ? あの馬ですか?」


「アルフィンやシルフィーにも負けない馬です」


 聞いた事があった。天馬アルフィンと、神速のシルフィーの噂は……その噂は既に伝説級であり、老人は大きな溜息を付いた。


「そうですか……所で、あなたの紋章……それは、破壊神のモノ。何故、あなたが?」


 アウレーリアの鎧に刻まれた紋章は、冗談で付けられる様なシロモノではなくて、老人はアウレーリアの素性に心当たりはあったが、敢えて聞いた。


「これですか?……さあ、私は知りません」


 紋章に目を落とすアウレーリアの横顔は、美しさと言う概念さえ超えていた。それは、まさに”神”の領域だった。


「その紋章を持つ者なら、魔物を倒す事は出来るかもしれませんね」


 背中を向け、部屋を出て行く老人には分かった。魔物が魔物を倒しにやって来た、と。


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