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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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魔法使いと共に

「どうして手当する?」


 ラディウスは手当をする十四郎に強い視線を向けた。


「怪我をしてますから」


「我等は敵だ……」


 振り向いて笑顔で答える十四郎を見ると、屈辱感がラディウスを包み込んだ。だが、十四郎はそのまま手当を続けた。ラディウスが大きく息を吐き、周囲を見渡すとビアンカやノインツェーンを始め、大勢が手当てに当たっていた。


 その光景は屈辱感に囚われたラディウスの思いを、穏やかに癒した。


「お前達は何者だ? 目的は何だ?」


 当然、何も知らされず”魔法使い”を討てと命ぜられたラディウスは、知りたいと思った。


「私達は、戦いの無い平等な世界を作りたいのです」


「平等だと?」


 十四郎の言葉にラディウスは声を荒げた。剣闘士とて強くなれば、家も家族も持てる。だが、普通の剣闘士は寝て食べて戦い、牢獄の様な住まいに戻る……だけの生活だった。自由なんて、夢のまた夢であり、扱いは”家畜”と変わらなかった。


「無理に決まってる……」


 呟くラディウス、頭の中を今の生活が過る。思い浮かべても、夢や希望など皆無だった。


「確かにそうだな」


 マリオも手当しながら笑った。


「お前は魔法使いと共に戦っているんだろ……」


「そうだ……半信半疑だがな」


 顔を顰め聞くラディウスに、マリオはまた笑顔を向けた。


「こいつ等、全部が出来ると思ってるのか?」


「……多分、皆は信じて戦っている」


 マリオもまた、手当している仲間を見た。


「ラディウス様……私は……」


「ラディウス様、私も……」


 その時、横で手当てを受けていた部下が口籠った。


「何だ? 言ってみろ」


「……それが」


「いいから言え」


「私も賭けてみたい……」


「私もです」


「そんな夢みたいな事、出来ると思ってるのか?!」


 思わずラディウスが声を荒げ、部下達は小さくなった。


「お前は、一生貴族達の下で飼われているがいい……そこで、大人しくどうなるか見てろ」


「黙って見てろだと?」


 急にマリオが強く言い、ラディウスは痛む身体を押さえながら立ち上がった。


「そうだ。何もしなければ、何も起こらない。自由は自分の手で掴むモノだ」


「……」


 マリオの言葉に、ラディウスは言い返せなかった。


「せめて、我々と共に戦う事を選んだ奴は、行かせてやれ」


「……」


 周囲を見回すと、部下達は懇願する様にラディウスを見ていた。だが、直ぐに返答できないラディウスは、視線を落とす。


「ラディウス殿が一緒に戦ってくれたら、百人力なんですが」


「そうですね。こんな心強い味方はいないです」


 そんなラディウスの背中を、笑顔の十四郎とビアンカが押した。


「私は……」


「また、あの牢獄みたいな生活に戻りたいのか? 剣闘士なんて廃止するんだ。お前達は人間だ、獣じゃない」


 マリオの言葉がラディウスの胸に突き刺さった。


『戦え。自分の手で自由を掴め……』


 気付くと目の前にローボが牙を光らせていた。そして、頭の中に野太い声が響いた。


「……神獣……」


 唖然と呟くラディウスは、マリオに視線を戻す。


「やるだけの価値はあると思うぜ……それにローボ殿だけではない、ライエカ様もお味方して下さる」


「ライエカ様?……無理だ、出来るはずはない」


 マリオはニヤリと笑うが、ラディウスは頑なに否定するが、聞いた事のある幸せの女神の名にココロは更に不安定になるが、どん底で生きて来たラディウスは”神”の事など信じていなかった。


「どうして無理だと思うんだ?」


「お前こそ、何故出来ると思うんだ?」


 マリオの問いに逆にラディウスが聞いた、強い口調で。マリオは一瞬考えてから、ゆっくりと穏やかに言った。


「そうだな……あの人と出会ってから、出来ると思う様になった……それと、今のままでいいのか?」


 視線を誘導された場所には十四郎がいて、ゆっくりと視線を十四郎に向けた。十四郎との戦いが、ラディウスの脳裏に蘇る。それは、まるで眩しすぎて見詰める事の出来ない太陽の様に輝いていた。


 そして、”今のままでいいのか?”マリオの言葉が頭の中で輪唱の様に何時までも聞こえると、胸の奥深くから自然と熱い何かが湧き出して来た。


「一緒に行きましょう」


「……」


 十四郎の穏やかな誘いに、ラディウスは黙って頷いた。


____________________________



 疾走するバビエカは、初めての経験に胸が高鳴っていた。勿論、人を乗せて走るのも初めてだが、その走り易さは異次元のモノだった。


 どんなにスピードを出しても、絶妙な手綱捌きで誘導され、カーブでは微妙に減速して過ぎた途端に加速を促される。自分では信じられない位に速く走れる、今ならアルフィンやシルフィーにも負けないとバビエカは胸の高鳴りが押さえられなかった。


「お前! 上手いなっ!」


「そうですか?」


 思わず叫んだバビエカだったが、アウレーリアの返答は風に消えそうだった。そして、幾ら走り続けても、アウレーリアは休息しようと言わなかった。


 夕暮れが近付き、バビエカの脚が重くなる。こんなに続けて走った事も、こんなに全力で走った事もなくて、身もココロも衰弱が激しかった。


「夕暮れ、だ……今夜の、宿を探さないの、か?」


「宿、ですか?」


 我慢が限界に達し、バビエカは息を切らせながら聞くが、アウレーリアは他人事みたいに返事した。


「ああ、眠らないと明日がキツイぞ」


「眠らなくても大丈夫です」


「お前が大丈夫でも、俺がもたない!」


 休息を勧めてもアウレーリアは平然と否定し、思わずバビエカが怒鳴った。


「そうですか……」


 アウレーリアは静かにそう言うと、減速を促す。そして、近付いて来た村で、宿を探した。


「ほう、女の一人旅か? 宿なら、いいとこ紹介するぜ」


 村に入ると、目付きの悪い男が直ぐに声を掛けて来た。


「どこですか?」


「おい、どうみても悪い奴だ」


 直ぐに返事するアウレーリアに、振り向いたバビエカが囁いた。


「分かるのですか? 悪い奴って」


 声に出すアウレーリアに、目付きの悪い男が詰め寄った。直ぐに周囲から、同じ様に人相の悪い男達が集まる。


「人聞きが悪いなぁ……親切は素直に受けるもんだぜ」


 最初の男がアウレーリアから手綱を奪おうとするが、前脚を大きく蹴り上げたバビエカの勢いに後退った。だが、アウレーリアはバビエカから降りると、自分から男に近付いた。


「教えて下さい、宿は何処ですか?」


「何だ、気性の激しい馬だな……」


 後退りした男は、気を取り直し再度近付く。よく見るとバビエカの馬体は素晴らしく、男は口元で笑った。そして、更に男は薄笑みを浮かべた。馬も凄いが、近くで見るアウレーリアの美しさは男の予想を遥かに超えていた。


 女神と言うだけでは到底ボキャブラリーが足りず、男達は手にする事の出来ない、究極の宝石に出会った感覚に包まれる。だが、一人の男がアウレーリアの鎧に刻まれた紋章を見付けた。


 その男はアウレーリアに手を伸ばそうとする最初の男の腕を、真っ青な顔で取った。


「待て、あの紋章を見ろ」


「何だ? これか?」


 唖然と呟き、鎧に触れ様とした瞬間、男の首が地面に落ちた。周囲は悲鳴さえ出ない、男の身体は、首を失いただのモノになり、遅れて血飛沫が噴水みたいに噴き出した。


「黄金騎士……NO.1……逆さ十字架の紋章……」


 掠れる声が、何処から聞こえた。最早周囲は、漆黒の闇に包まれていた……男達に残されたのは”破滅”しかなかった。


_____________________________



「不思議ね、人なんて意志も弱くて現状を打破する気概なんて存在しないと思ってた」


 舞い降りたライエカが、ローボの傍で呟いた。


「そうだな……」


 ラディウス達の様子を見ながら、ローボも呟いた。


「十四郎には人を惹きつける何かがあるのね」


「ああ、強さだけでなく弱さも持ってるからな」


「弱さ?」


 ライエカは頷きながら言うが、ローボは口元を緩めた。


「強さは対峙した者を威圧する……弱さは威圧を緩和して、守ろうと思う様になる……どちらか一方では他の者を引き寄せないが、十四郎は……」


「そんなモノかな……」


「お前もそうだろ?」


 首を捻るライエカに、またローボは口元を緩めた。確かにそう言われればと、ライエカは思った。


「十四郎の存在が、人を変え、動かすのね……」


「ああ、あいつの本当の意志とは裏腹にな」


「本当の意志?」


「……お前も、もう少し付き合えば分かる……」


「……そう……」


 小さく笑ったライエカは、大空の彼方に消えた。


「ローボ、ライエカと話してたんですか?」


 やり取りを遠くで見ていたビアンカが、近付いて来た。


「ああ……」


「ライエカは何と?」


「十四郎は不思議な奴だと……」


 ビアンカの問いにローボは口角を上げた。


「不思議か……確かに十四郎は不思議な人ですね」


「お前もそう思うのか?」


「はい……記憶を失った私でさえ、会って間もない、十四郎が一番大切と思えるのですから」


「記憶を失う前と同じだな……」


 ローボの言葉が、ビアンカの胸に優しく穏やかに溶け込んだ。


「ビアンカ様! 出発します!」


「はい!」


 遠くからのツヴァイの声に、ビアンカは笑顔で返事した。



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