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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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太刀風

「いい女だ……」


 剣闘士の一人は生唾を飲んだ。


 剣を構えるノインツェーンは慣れてないし、動きづらいからとイタストロア軍の鎧を脱ぎ捨てていた。露わになった見事なプロポーションは、派手な色のサーコート上からでも容易に想像出来た。


 直ぐに脳内では煩悩が溢れ、同じ様に吸い寄せられるみたいに男達がノインツェーンを取り囲んだ。


「人気者は辛いね……アンタには男は寄ってこないの?」


 胸を揺らし、ノインツェーンはリルの方を見ながら笑う。


「牝牛に群がる牡牛だな」


 低く弓を構えるリルは、鼻で笑った。


「誰が牝牛だ?!」


 ノインツェーンが鼻息も荒く言い返した瞬間! 剣闘士の男が背後から抱き付こうした。


「今は話し中!」


 強烈な肘打ちは、鍛え抜かれた剣闘士であっても体を前屈みにさせた。そして、頭を下げた後頭部に剣の柄頭の一撃を加えた。ノインツェーンの足元に崩れ落ちる剣闘士……それを見たベレス村の男達は目を見開いた。


 驚きはそれだけではなかった。ノインツェーンは剣闘士の剛剣を正面から受けると、豪快な前蹴りで打倒す。そのまま前に跳び、強烈な回し蹴りで一度に数人を倒した。


 リルは片膝を付いたまま、見えない速さで矢を放つ。その矢は正確に剣闘士の両膝に刺さり、動きが止まった瞬間、思い切り顎を蹴り上げ倒して行った。


 ココも同じ様に矢を射るが、リルに比べれば遥かに豪快で蹴りやパンチは強靭な剣闘士達を圧倒していた。


「何だ……この強さは……」


 震える声でベレス村の男が呟く。


「あれを見ろ……」


 横の男が、今度はツヴァイの戦いぶりを指差した。


「お前が青銅騎士だと?」


 剣闘士が驚くのは無理も無い。残虐で冷徹と知られている青銅騎士の面影は今のツヴァイやノインツェーンになく、その表情には人間味が溢れていた。


「……元、だ」


 ツヴァイ一言だけ答えると、先に仕掛ける。一撃で剣闘士の剣を弾き飛ばすと、袈裟切りにした。だが、血飛沫が飛ぶのを思い浮かべるベレス村の男達の予想を裏切り、剣闘士は鎖骨を押さえながら白目を剥いた。


「剣を横にしてブッ叩いたんだ」


「何故、そんな事を?」


 マリオが解説するが、ベレス村の男達は怪訝な顔をした。


「魔法使いを真似ているのさ」


 少し溜息交じりのマリオは、十四郎の背中に向けて呟いた。


____________________________



 ビアンカを取り囲む剣闘士は、その外見に見合わない”気”に圧倒されていた。挑めば倒されるという予感は、男達に躊躇をもたらせた。だが、先にビアンカが動く……その速さは目では追えないくらいだった。


 刀を返して峰打ちを繰り出すビアンカは、剣闘士の鋼の様な筋肉を断ち切る。物凄い衝撃と痛みの先は、気を失う”心地よさ”と同義になった。


 次々と倒される剣闘士達。ベレス村の男達は目を見張る……ツヴァイ達より遥かに戦いとは無縁なビアンカの美しさは、かえってギャップとなった。


 屈強な男達が可憐なビアンカの前に倒れて行く……それは最早”魔法”としか言いようがなかった。


「確かに強いな……」


 ビアンカやツヴァイ達の戦いを見て尚、ラディウスは笑みを浮かべていた。自分の肉体に対する絶対の自信は、目前の信じられない光景さえ感心事にはならなかった。


「そうですね。頼もしい仲間です」


「だが、どうして殺さない?」


 笑顔で答える十四郎に向かい、ラディウスは急に視線を強めた。


「逆にお尋ねします。どうして殺さないといけないんですか?」


「どうしてだと?」


 目を見開いたラディウスは、更に強く言った。そして、大きく息を吸い込んだ後、十四郎を凄い形相で睨み付けた。


「戦いだ! 戦いは生死を賭けるモノだ!」


[それでは、生死を賭けない戦いをご覧にいれましょう]


 十四郎は左足を引いて、鯉口を切った。巨大な剣を上段に構え、ラディウスは十四郎の構えを笑った。


「腰が引けてるぞ……そんな細い剣で、我がグレートソードを受けられるものか」


「試してみますか?」


 十四郎の言葉はラディウスの怒りに火を点けた。渾身の力で十四郎目掛けて剣を振り下ろすが、凄まじい金属音と共に十四郎が頭上で受け止めた。


「ほう、受けたな……」


 薄笑みを浮かべるラディウスだったが、幾ら渾身の力で打ち込んでも十四郎は簡単に受けたり、受け流す。


「まるで、大人と子供だ……」


「だが、見ろ……あの体格差でも、全く互角だ」


「互角? どう見ても魔法使い様には余裕がある様に見える……」


 ベレス村の男達は、十四郎の戦いを見て口々に感嘆の言葉を吐いた。


「奴では十四郎殿の相手にはならない。あのアウレーリアと互角に戦う人だからな」


 マリオの言葉は、改めてベレス村の男達に驚きと畏怖を与えた。最初にマリオに絡み付いていた危惧は、十四郎の太刀捌きで既に緩和されていた。


「受けるだけか?!」


 猛烈に剣を打ち込みながら、ラディウスが叫ぶ。その叫びには、苛立ちと焦り……そして、恐怖が見え始めていた。


「それでは、参ります」


 十四郎はラディウスの剣を大きく弾き飛ばすと、一旦距離を取る。そして、素早く刀を仕舞った。


「見てろ。あの技で俺も倒された」


 マリオは十四郎の構えに戦慄した。倒された時の痛みと驚きが脳裏と体に蘇った。


 十四郎の態勢が低くなる。そして次の瞬間、十四郎はラディウスの身体を通り過ぎていた。一瞬の風が周囲を通り過ぎる……それは十四郎の刀が起こした風だった。苦悶の表情、ラディウスのは剣を落とすと静かに前向きに倒れた。


「何が起こったんだ……」


「風だ……物凄く鋭利な……」


「擦れ違い様の一撃だ……最も、凡人には見えないがな」


 驚愕するベレス村の男達に、マリオが解説した。十四郎はそのまま、向きを変えると残る剣闘士達に向かった。ツヴァイ達やビアンカとも違う十四郎の戦い方は、ベレス村の男達の目と脳裏に焼き付いた。


”魔法使いの戦い方”として。


 数十人の剣闘士は、一瞬と言っていい程短い時間で全滅した。当然、命は奪ってないが、動ける者など存在しなかった。


 言葉を失うベレス村の男達だったが、その脳裏には”希望”の光と未来に続く道が確かに見えていた。


”戦いの無い、平和で平等な世界”と言う道が……。



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