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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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魔法使いの仲間

 ライエカは総指揮官の肩に、そっと舞い降りた。そして、耳元で囁く……。


『既に魔法使いの一行は、この辺りにはいない……』


「そうかもしれないが、七子様の情報だ。間違いなどあるはずはない」


 指揮官は、まるで魅入られた様に本音を話す。


『間違いではなく、既に通り過ぎた後だったら?』


「そうなれば……」


 指揮官の脳裏に嫌な予感が流れ出した。


『ローベルタ夫人と魔法使いが合流すれば、戦力は整う。イタストロアの半分は、敵勢となったと考えるのが妥当……次は必ず王都を攻めて来る。備えは早い方がいい……』


 ライエカの言葉は指揮官を大きく揺さぶった。このまま捜索を続けるか? それとも早急に王都に戻り襲撃に備えるか? せめぎ合う思考は総指揮官を混乱させた。


『時間の流れは進むべき道を狭くする……躊躇いは時間を加速させる……』


 最後の一押し、ライエカの呟きに総指揮官は決断した。


「全軍、王都に戻る」


『念の為、少しの兵を残すべき』


 指示を発した総指揮官の耳元で、またライエカが囁いた。


「グラディアトルの部隊は残って捜索を続けろ」


『ベレス村の者も残した方がいい』


「残る隊にベレス村の者を加えろ」


 総指揮官は、そう言い残すと馬に跨った。ライエカは微笑むと大空に舞い上がり、蒼穹の彼方に消えた。


___________________________



「全軍、王都に引き上げの様ですね」


 周囲が慌ただしく撤退の準備に入り、ツヴァイが十四郎に耳打ちした。


「多分、ライエカ殿です」


「ライエカ様が仕組んだと?」


「はい」


 十四郎はそう言うが、ツヴァイには信じられなかった。


「百名程は残って捜索を続ける様です。何故か我々も、その中に入ってます」


 直ぐにココが補足し、ツヴァイは十四郎の言う事が納得出来た。


「先程と違い、残るのは総指揮官直衛の精鋭です。あれは、グラディアトルの軍団です。普通の騎士ではありません」


 並み居る大男達を見て、マリオが声を固くした。


「確かに屈強そうですね」


 言葉では感心するが、十四郎の声は穏やかだった。


「グラディアトルとは、剣闘士の事ですから」


「剣闘士?」


「はい。闘技場で戦う戦士です……」


「そうなんですね」


 あまり驚いて無い様な十四郎の口ぶりに、マリオは首を傾げた。十四郎達の戦術が、命を奪う事無く気絶させると言う事は知っていたが、打撃に強い剣闘士に果して有効なのか? 棍棒で殴打しても蚊に刺された程度の剣闘士の軍団は、十四郎達の前に大きな壁となって立ち塞がった。


「殆どがパロス、つまり武装剣闘士です……そして、あの大男が筆頭剣闘士ラディウスです」


「あの筋肉には剣も刺さりそうにないな」


 真剣な顔で説明するマリオに対し、ツヴァイは怪しく笑った。


「何、十四郎様の剣なら例え石像でも真っ二つだ」


 笑いを交えたココの言葉で十四郎との戦いが蘇るが、剣闘士の打たれ強さを知っているマリオは背中に冷たいモノを感じた。


「この先はどうするんだ? まさかグラディアトルを倒すと言うのか?」


 体を硬直させ、ベレス村の男が聞いた。


「多分、その……まさかだ」


 マリオ自身にも想像は出来ないが、きっとそうだろうと思った。だが、ノインツェーンやリルも平然としていて、ビアンカも全く動じてない様子だった。


「どうしました?」


「いえ……」


 目が合うと、ビアンカが穏やかに微笑む。兜からは瞳の部分しか見えてないが、マリオの胸を突き刺すには十分だった。


__________________________



 本隊が去り暫く捜索は続いたが、頃合いを見てココが筆頭剣闘士ラディウスの前に進み出た。


「全員をお集め下さい」


「何故だ?」


 片膝を付いて頭を下げるココに、ラディウスの太く重い声が圧し掛かった。


「魔法使いの居場所が分かりました」


「私に指図するのか?」


「滅相もありません。魔法使い討伐には、ラディウス様の軍団全ての力が必要なのです」


 確かに噂に聞く魔法使いの力は、ラディウスとて知り得ていた。パルノーバを落とし、アウレーリアとも互角に戦った魔法使い……ラディウスは集合の号令を出した。


「で、魔法使いは何処だ?」


 軍団が集まると、ラディウスはココを睨んだ。


「こちらに……」


 十四郎が兜を脱ぐ。その華奢で優しそうな雰囲気に、ラディウスは高笑いした。


「何の冗談だ?」


 だが、ツヴァイ達が十四郎の周囲に整列し、ビアンカが兜を脱ぐとラディウスの表情は一変した。十四郎の事は知らなくても、天下に名高いビアンカの美貌と強さは知らぬ者などいなかったから。


「あなたが、ビアンカ殿。お会い出来て、光栄至極です」


 完全に十四郎を通り越し、ラディウスはビアンカだけを見詰めた……怪しい笑みを浮かべて。


「私達はローベルタ様の元に行かなければなりません。お通し頂けますか?」


 ビアンカは結んでいた髪を解く。その仕草だけで、ラディウスの胸に痛みにも似た衝撃が駆け抜けた。


「それは、例えビアンカ殿の申し入れでも叶える訳には……」


 ラディウスの言葉が、刀を抜いたビアンカの姿に中断された。その闘気は、百戦錬磨のラディウスには十分に伝わった……美しいだけではないと。


「ビアンカ殿、お下がり下さい」


 マリオはビアンカの前に出て、ゆっくりと剣を抜いた。


「これは、マリオ様……イタストロア随一の騎士が、我等の様なグラディアトルと剣を交えるおつもりですか?」


 明らかに格下に言う様に、ラディウスは怪しい微笑みを浮かべた。それは騎士に対する侮辱であり、マリオは手に持つ剣を怒りで震えさせた。


「あなた方は下がって下さい」


 剣を抜いたツヴァイは、ベレス村の男達に告げた。


「しかし……」


 リルやノインツェーンが兜を脱ぎ捨て臨戦態勢に入ってる状態を見て、ベレス村の男達は戸惑いを隠せなかった。


「お気持ちだけで十分です。我等、十四郎様をお守りする側近の働き、篤とご覧ください」


 弓を構えたココも背中で言った。


「女性が戦うのに、我々だけが……」


 それでも食い下がるベレス村の男達に、リルとノインツェーンが凛とした声で言った。


「私は銀の双弓、リル」


「私はアルマンニ青銅騎士、ノインツェーン」


 華奢だが天使の様なリル、見事なプロポーションのノインツェーン。二人とも、ビアンカに匹敵する美貌だが、その肩書は響き渡っていた。


「青銅騎士、ツヴァイです」


「銀の双弓、ココです」


 少し遅れてツヴァイやココも凛とした声で言った。


「まさか……」


 驚くベレス村の男達……戦いは、ゆっくりと幕を開けた。



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