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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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疑念と希望

「包囲は更に増えてます」


 二度目の偵察から戻ったココは、顔を曇らせた。


「どうしました?」


 その顔が見た事もない程に険しくて、心配そうに十四郎はココの顔を覗き込んだ。


「……それが、敵は我らの総数や、男女の比率さえ知ってました」


「……多分、内通者がいるな」


 声を落とすココ。マリオは鋭い目で言った。


「そんな事はない!」


 立ち上がるツヴァイは声を荒げるが、内心はマリオに同意していた。確かに、この場所で待ち伏せされ、人数まで知られている事は紛れも無い事実だったから。そして一瞬、一人の”顔”が脳裏に浮かぶが首を振って、頭の中から消した。


 雰囲気は最悪になり、皆は言葉を失った。


「十四郎。どうしますか?」


「そうですね。どうしましょうか」


 だが、ビアンカはそんな事は気にも留めない様に言い、十四郎も他人事みたいに微笑んだ。


「……十四郎様、内通者がいるとすれば……」


「十四郎は気にしてない様だ」


 声を落とすツヴァイだっが、ローボはニヤリと笑った。


「しかし、このままでは……」


「マリオ殿に、お願いがあります」


 ツヴァイは疑念が払拭出来ずに重い声だったが、十四郎は明るい顔でマリオを見た。


「私に?」


「敵は我らの人数を知っています。分かれて減らすのは想定内でしょうが、増やせば敵を欺けます。マリオ殿なら知り合いもいるでしょうから、お願いしたいのです」


「そうか……この場合、大人数の方が紛れられる」


 唖然とするマリオに、明るい顔の十四郎が説明した。ノインツェーンはポンと手を叩き、ココも大きく頷いた……当然、リルは無表情で違う方向を見ている。


「やるしか、ないようですね」


 決意を決めたかの様にマリオは頷くが、ツヴァイはまだ渋い顔をしていた。


「ツヴァイ、何て顔してるの?」


 顔を覗き込むノインツェーンが、ポカンと聞いた。


「お前は考えないのかっ?!」


「何を?」


 苛立つように叫ぶツヴァイだったが、ノインツェーン更にポカンとした。


「もう、よせ……」


 ツヴァイの足元に来たローボは、声を潜めた。


「……」


 他の者達を見たツヴァイは、それ以上何も言えなかった。自分以外に訝し気に思っている者は皆無に見えから……。


「考え過ぎだ」


 ココに肩を叩かれたツヴァイは、小さく頷いた。


__________________________



 マリオは協力者を得る為に、敵の中に向かって行った。遠くから敵兵の様子を窺い、知り合いの顔を探した。


「どうです? 知ってる人はいましたか?」


 木の影に隠れるマリオの背中から、全く危機感の無い十四郎の声がした。


「十四郎殿、声が大きい」


「はぁ、すみません」


 慌てて声を潜めるマリオに向かい、十四郎は照れ笑いした。暫く、マリオは敵兵達を見ていたが、やがて小さな声で言った。


「……私は、知り合いが少ないのです……友と呼べる者もいない……貴族でもない、名家の出身でもない……出世の為には強くなるしかなかった……その為に、脇目も振らず真っ直ぐ進んで来た……友達を作る暇などなかった」


「今は友達が出来て良かったですね」


 振り向いた十四郎は、笑顔だった。


「友達……」


「はい、私やツヴァイ殿達ですよ。それに、他にも大勢」


「そうですね」


 マリオも連られて笑顔になった。そして更に暫くの後、マリオは急に立ち上がった。


「あの者達、私の出身村の者です……行ってみます」


 マリオの顔は微妙に引きつっていたが、一瞬の躊躇の後、近付いて行った。十四郎はその後を、笑顔を浮かべ付いて行った。


「……マリオ、マリオじゃないか」


 先に相手が気付き、近付いて来た。


「……久しぶり、だな」


 引きつった顔のまま、マリオは口籠った。


「お前、どうしてた?」


「都に行って以来、音沙汰無しで……」


「俺は、かなり出世したと聞いたぞ」


「どこかの砦で、警備隊長になったとか」


 見覚えのある男達は口々に懐かしがるが、マリオはその中に入って行けなかった。幸い、村の者達の様な下級な兵に詳細など告げられず、上から下への命令は単に敵兵の捕縛と言う事に過ぎない様だった。


 暫くは一方的に聞いていたマリオだったが、意を決して口を開いた。


「力を貸して欲しい……」


「どうした? お前らしくない」


 一人が少し笑って聞くが、マリオはそれ以上言葉が続かなかった。マリオは、自分は誰より強いと言う自負と自信から、村自体を見下していた。村など、踏み台以下と考えていたから。


「で、どうしたらいい?」


「えっ?」


 暫くの沈黙の後、一人が聞いた。全く予想してなかったマリオは、思わず目を見開いた。


「お前は村の誇りだ。そのお前の頼みなら、聞かない訳にはいかないからな」


「そうだ、言ってみろよ」


「まぁ、金を貸せと言う以外なら大丈夫だ」


 男達は笑顔を浮かべ、次々に口を開いた。


「……すまない、俺は……」


 嬉しかった。マリオは身体を震わせ感激した……十四郎は、そんな様子を笑顔で見ていた。


_____________________________



「ローベルタ様が、やろうとしてる事を知ってるか?」


「ローベルタ様が?……聞いた事はないが……」


 意を決してマリオが口を開くが、男達は唖然と呟く。当然、末端には情報は届いてない様だった。


「平等で自由な世界、戦いの無い平和な世界……そんな世界を作る為に立ち上がる」


「……平等で自由」


「……戦いのない世界……」


「……そんな夢のような世界……」


 マリオの言葉に男達は愕然とした。それこそは、末端の虐げられた人々にとって、正に夢の様な世界だったから。


「その為に、力を貸して欲しい……一緒に戦って欲しい」


 深々と頭を下げるマリオだったが、男達は緊張した顔を顔を見合わせるだけだった。


「お前は信じてるのか?」


 暫くの沈黙の後、一人の男が聞いた。


「ああ、信じてる」


 マリオは即答した。


「そうか……ところで、その男は誰だ?」


 聞いた男が、微笑みを浮かべてる十四郎に視線を移した。


「彼は、ローベルタ様を決断させた”魔法使い”だ」


 その言葉を受け、唖然と十四郎を見る男達の目に輝きが宿った。



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