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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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包囲網

「七子様、内通者よりの報告です……魔法使いの目が治った模様です……治したのは、アウレーリアとの事です」


「……そうか」


 ドライからの報告にも、七子は表情を変えなかった。


「今はローベルタ夫人の元に移動中との事です」


「首尾はどうだ?」


 七子は片肘を付いて、窓の外を見た。


「はい。魔法使いに加担する事を否定する者達は少なくありません。ローベルタ夫人は先回りして、諸侯に事の次第を告げています……これで、イタストロアは分断されます」


 顔を伏せたまま、ドライは報告した。


「割合は?」


「賛成派は、三割に満たないかと」


「削れ、二割以下にしろ」


「御意」


 振り向きもしないで七子は言い切り、ドライも無表情のまま頭を下げた。


「ところで、調略は進んでいるか?」


「アルマンニは半数、イタストロア四割、エスペリアムは三割、フランクル二割五分という所です……モネコストロは一割以上進展がありません」


「各王の周辺に悟られるな、王は無能でも周囲は少しは切れるからな」


「はっ、仰せのままに」


 各国の調略が過半数に達した時が”動く”時……それで、この大陸を掌握出来る。残りは、ゆっくり潰せばいい……十四郎の動きは確かに気になるが、自分の方が早いと七子は心の中で微笑んだ。


「魔法使いは足止めしろ」


「既に手は打っております」


「……そうか」


 背中を向けたまま、七子は口元を綻ばせた。


___________________________



 アルフィンとシルフィーの速度は尋常ではなかった。ローボはそのズバ抜けた持久力で付いてはいったが、如何せん速度差は詰められなくて次第に遅れ出した。


「アルフィン殿、そろそろ休憩しましょうか」


 後ろを振り向いた十四郎は、ツヴァイ達の姿が見えない事を確認した。


「大丈夫! まだ走れるよ」


「そうよ、まだ走り足りない」


 嬉しそうにアルフィンは叫び、横に並ぶシルフィーも走る事の喜びに満ちていた。だが、横目で見たビアンカは、額に汗を浮かべ虚ろな瞳になっていた。


「ビアンカ殿も疲れてますし、後続も来てませんから」


「ビアンカ! 大丈夫!」


 シルフィーは直ぐに速度を落とし、アルフィンも慌てて速度を落とした。


「お前達、加減しろ……」


 直ぐに息を切らせたローボは追い付くが、ローボが息を切らせている所なんて始めて見た十四郎は心配そうに声を掛ける。


「ローボ殿、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。それより、ビアンカを見てやれ」


 息を整えながら、ローボはビアンカを見た。超高速で走るシルフィーの上で中腰で走り続けたビアンカは、鞍から降りても足がフラ付いていた。直ぐに支えた十四郎の鼻腔を、甘いビアンカの香りが包んだ。


 柔らかな髪がパラリと落ち、抱き抱えたビアンカの細い身体が十四郎をドキッとさせた。


「お前達、こっちに来い」


「何で?」


「いいから、アルフィン、こっちよ」


 ローボに促されるがアルフィンはキョトンとして、シルフィーに背中を押され十四郎とビアンカを二人きりにした。


 十四郎はビアンカを抱き抱え、大きな木の下に座らせた。目を伏せた横顔のビアンカは、長い睫が十四郎の胸を圧迫した。言葉は出ずに、十四郎はただビアンカの横顔を見ていた。


「……」


「……十四郎は大丈夫ですか?」


「……えっ、あっ、はい。大丈夫です」


 ビアンカの声は、そよ風みたいに十四郎を包み込む。そして、二人は久しぶりの穏やかな時間を過ごした。言葉なんて交わさなくても、肩が触れる距離でビアンカの体温を感じた十四郎は気持ちの安らぎを実感していた。


 ビアンカも十四郎の体温で、自分の中の全ての憂鬱が癒されて行くのを感じた。しかし、二人の穏やかな時間は長続きはしなかった。


___________________________



「十四郎様! 既に囲まれています! ココとリルが物見に行ってます! 直ぐに詳細がっ!」


 転がる様にツヴァイが掛け込んで来る。十四郎とビアンカは、思わず寄り添うの止めて体を放した。


「どうしました?」


 本当は十四郎は囲まれているのに気付いていた。ローボやアルフィン達も気付いてはいたが、二人に少しでも寄り添って欲しかったので、敢えて何も言わず見守っていた。


「かなりの数だな」


「その様ですね」


 既にローボは数さえ把握し、十四郎もまた布陣さえ分かってる様な口ぶりだった。


「はぁ~疲れた」


 暢気そうな溜息で、ノインツェーンはビアンカの傍に座る。


「大丈夫ですか?」


「ビアンカ様こそ、お疲れでは?」


 ビアンカは直ぐに声を掛けるが、ノインツェーンはビアンカの表情から疲れを占う。


「大丈夫ですよ」


 微笑むビアンカを目の前で見たノインツェーンは、小さく溜息を付いた……そして、この人には絶対敵わないと、心で呟いた。そこにマリオが遅れて到着し、直ぐにココとリルが戻って来た。


「敵は数千、完全に包囲されてます」


「多分、イタストロアの兵……」


 ココとリルが矢継ぎ早に報告する。


「おそらく、ローベルタ殿と袂を分ける勢力だな」


「何故分かるのです?」


 息を弾ませたマリオの言葉に、ツヴァイが疑問を投げた。


「イタストロアも一枚岩ではない、と言う事だ……」


「ローベルタ殿を味方に付ければ、イタストロアを掌握出来るはずでは?」


「そのはずなんだが……」


 ツヴァイは更に問いただすが、マリオの声は暗かった。


「十四郎様……どうします?」


「そうですね。取り敢えず、逃げましょう」


 不安顔のノインツェーンの問いに、苦笑いの十四郎は即答した。


「囲みは厚いぞ、どうやって逃げる?」


「ここは、既にイタストロアの領内……地の利も向こうにありますね」


 真剣なローボの問いに、十四郎は他人事みたいに言った。そんな、十四郎を穏やかに見詰めるビアンカ……ツヴァイ達は、そんなビアンカの表情を見ると絶対不利な状況なのに何故か安心感に包まれた。


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