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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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更なる高み

 アルフィンから飛び降りると、ビアンカは刀に手を掛けアウレーリアと対峙した。飛び散る火花、二人の視線は空間で小爆発を引き起こす。


「ビアンカ殿!」


 叫ぶ十四郎の顔を見たビアンカは直ぐに銀色の瞳が、優しく黒い輝きになってるのに気付いた。


「十四郎……見えるの?」


「はい」


 胸を撫で下ろしたビアンカが刀から手を放した瞬間、アウレーリアの剣が迫った。だが、その剣先は十四郎の目にはっきりと映し出される。


 ビアンカは後ろに飛び退きながら、刀を抜刀! アウレーリアの剣を真横に弾く! しかし、弾かれた剣は手首を返すと超鋭角で反転! ビアンカの首筋に迫った。


 横に振り抜いた刀を腕を伸ばした状態で直立させ、ビアンカはアウレーリアの剣を受け流した。激しいい金属音が響き渡ると、双方は一度距離を取った。


「ほう、ビアンカの動きが良くなってる……だが、あの女もまだ本気ではない様だ」


 的確なローボの分析だったが、十四郎は何度か強く目をつぶると見え始めた視界に慣れようとした。そして、視界が落ち着くと腰の刀を深く差し直す。


「待ちなさい」


「ブランカ殿……」


 その背中を呼び止めたのは、ブランカだった。振り向いた十四郎に、ブランカは言葉を続けた。


「今まで、見えない状態であなたは戦って来ました。それは相手の”気”を読む事の鍛錬になりました……あなたは見違える程に強くなりました。そして、今、視力が戻った……どう言う事か分かりますか?」


「そうですね、感じ取る事がやっとだったアウレーリア殿の剣が見えました」


 十四郎は少し、笑みを浮かべた。


「更に速いアウレーリアの剣も、きっと見えるでしょう」


「まさか、見えると言うのか?」


 ブランカの言葉に、ローボは唖然とした。自分でさえ見えないアウレーリアの剣を、十四郎は見る事が出来る……それは、驚きを越えていた。十四郎は、更なる高みに到達したのだと。


「今度はアウレーリア殿の剣を切れそうです」


 笑顔を向ける十四郎の顔を見たローボは、安堵と呆れの溜息を付いた。


「お前って奴は……」


 ”敵を倒す”……十四郎に、そんなモノはない。改めてローボは、十四郎の笑顔を見た。


___________________________



「あなたは、目障りです」


 剣を構えるアウレーリアは、ビアンカを睨む。


「あなたこそ……」


 刀を正眼に構えたビアンカもアウレーリアを睨み返すが、視界の隅で十四郎の笑顔を見るとビアンカの気持ちは晴れ渡った。ここに辿り着くまでの暗く、後ろ向きなココロが嘘の様に明るく優しい気持ちになる。


「……」


 アウレーリアは急にビアンカの表情が優しくなった事に、強い違和感を感じた。そして、その視線の先の十四郎が笑顔でいる事に気付いた。


「あんな、笑顔……」


 一瞬、アウレーリアのココロにも光が差すが、視線を戻したビアンカの優しい顔を見るとお腹の底に黒いモノが湧き出した。


「やはり、あなたは不要です」


 言った瞬間、アウレーリアは跳んだ! 渾身の一撃はビアンカを貫いた手応えがあった。だが、実際は剣先は大きく弾かれ、目前には十四郎がいた。


 ビアンカを庇うように前に出た姿は、アウレーリアを逆撫でする。


「アウレーリア殿。目の薬、誠にありがとうございました。今は引いては頂けませんか?」


 礼を述べる十四郎の後ろにいるビアンカが、少し頬を染める事が更にアウレーリアのココロを複雑に刺激した。


「そこをどいて下さい。私は、その人に用があります」


「そうは参りません……ビアンカ殿、後ろへ」


「はい」


 少し首を傾け、十四郎はビアンカに優しく言った。その言葉に素直に従うビアンカが、アウレーリアを経験した事の無い苛立ちに誘った。


 放たれた剣は、十四郎を通り越しビアンカの胸を一直線に狙う! だが擦れ違い様の十四郎が、細いアウレーリアの手首を掴んだ。


 その暖かい感触が、アウレーリアの沸騰する血の温度を一瞬で下げる。十四郎は、ビアンカが下がったのを確認すると、ゆっくりとその手を放した。


______________________________



 暖かな十四郎の手の感覚。決し強く握ったのではなく、優しく振れたと言う感覚だった……だが、自分は渾身の力でビアンカを突いたはず……アウレーリアの中で、違う何かが首をもたげた。


「あなたは、前より強くなったのですか?」


「それは、どうですかね」


 直球のアウレーリアの問いに、十四郎は頭を掻いた。


「それならば、試してみます」


 言葉と同時にアウレーリアの剣が十四郎を目掛ける。当然、手抜きなど無い全力で。


「えっ……」


 アウレーリアは寸前で受け止めると思っていた。だが、十四郎の身体はアウレーリアの横にあった。


 そのまま至近距離で肘を畳んだまま剣を横薙ぎにする! 傍で見ていたローボには当然の事、全く見えない。


「何だ?!」


 驚きの声を上げるローボの目に、立ち竦むアウレーリアの姿が映った。十四郎はゆっくり距離を取ると、左足を引いて鯉口を切る。その姿は以前と変わらないが、明らかに放つ”気”はカミソリの様に研ぎ澄まされていた。


 構え直すアウレーリア。だが、その顔には微笑みが浮かんでいた。


「参ります……」


 呟く十四郎。そのまま周囲を巻き込む静寂が訪れ、ローボが息を飲んだ刹那! 金属が物凄い鋭利なモノで切裂かれる音が一瞬だけした。


 アウレーリアの剣は、根元から切断されていた。その切口を顔に近付けると、アウレーリアは十四郎に微笑んだ。


「これは、魔剣なんですよ」


「その様ですね」


 十四郎は素早く刀を仕舞うと、笑顔を返す。だが、直ぐに表情が変わった。


「アウレーリア殿……これまでです」


「そうですね。また、剣を探さなくては」


 剣を投げ捨てたアウレーリアは、微笑むと背中を向けた。


「十四郎……切ったな」


「ええ、ですが……」


 傍に来たローボが安堵の声を掛けるが、十四郎の返事は少し重かった。


「確かに魔剣の様ですが、本物ではありませんね」


 ブランカは落ちている剣を見て呟いた。駆け寄ったローボは、その剣を見て体を固くした。確かに柄などの細工は素晴らしく、剣事態にも輝きはあったが多くの刃こぼれがあった。


「前は、こんな剣さえ切れなかったのか……」


「アウレーリア殿の腕ですね……本物の魔剣なら、どうなっていたか……」


「見えて互角なのか?」


 十四郎の言葉が、ローボの背中に暗い影を落とした。


「十四郎様!」


「十四郎!」


 そこに、ツヴァイやリル達が必死の形相で遠くから走って来る。アウレーリアが去っただけで、聖域の森に活気が戻った。


「ローボ、大丈夫……十四郎は誰にも負けません」


 ビアンカの声に振り返ったローボは、その表情に救われた気がした。ビアンカは、まるで女神の様な穏やかで優しい笑顔だったから。


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