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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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現れた悪夢

「ブランカっ!!」


 ローボの声が森を震わせた。その声は森の隅々まで行き渡り、木々は震え、葉や枝が空に舞った。


「何ですか? 騒々しい」


 純白のブランカが、森の緑と見事なコントラストを描いてローボの前に姿を現した。


「何をしてた?」


 全身の力が抜けた。それまで張り詰めていた糸が、プツンと切れてローボは大きく溜息を付いた。


「何をしてた? それは、こちらのセリフです。こんなに長く森を留守にするなんて、どう言うつもりなんですか?」


 ブランカもまた、小さく溜息を付いた。十四郎に付いて行ったのは知っていたが、ブランカはワザと拗ねてるフリをした。


「災いが近付いてる。直ぐに身を隠せ」


「災いですか?」


 首を傾げるブランカだったが、真剣なローボを見て瞬時に察する。


「十四郎でも手を焼く相手だ」


「狙いは私ですか?」


「済まない。私が招いたのだ……」


「分かりました。姿を隠します……十四郎に伝えて下さい。くれぐれも無理はしないようにと……それに、あなたもですよ」


「伝える」


 森に消えたブランカの背中を見送ると、ローボは特大の溜息を付いた。短い会話で全てを悟るブランカの賢さ、そして大きな手の中に抱かれる様な感覚はローボを少しは楽にした。


 だが、精神を集中してもアウレーリアの気配は掴めない。


「あれは、本当に人なのか?……」


 呟くローボは経験した事の無い感覚に包まれる。亜神としての自覚はある、人など気にも留めない存在だと、今も思っている。


 だが、十四郎に出逢いアウレーリアに出会った事で、ローボの中で何かが変わり始めていた。


_______________________________



「ビアンカ様! シルフィーに付いて行ける馬などございません!」


「後から、来て下さい!」


 叫ぶツヴァイに対し、ビアンカは振り向きせずに叫び返す。何度も繰り返して来た光景に、ツヴァイは思わず笑みを漏らした。


「……全く……困ったものだ」


「何を笑ってる!」


 横に並んだココも笑顔になっていた。


「そうだよ! 笑ってる場合か!」


「お前も笑ってるぞ」


 笑顔で叫ぶノインツェーンにリルが、つっ込む。当然、無表情のままで。


「……こいつら……」


 マリオは呆れ顔で呟いた。今向かってるのは、あのアウレーリアの元だ。十四郎でさえ苦戦する難敵、自分達が全力で向かっても瞬殺される事は分かり切っているのに……それで、どうしてあんな笑顔でいられるのか。


「あなたも、直ぐに分かりますよ」


 首を傾げるマリオに向かい、ココは笑顔を向けた。


「あまり、分かりたくないな」


 独り言の様に呟くマリオの顔は、自然と笑顔になっていた。


______________________________



「なんて速さなの……」


 息を切らせたライエカが、十四郎の肩に止まった。


「ライエカ殿、しっかり掴まってないと振り落とされますよ」


 前方に意識を集中したまま、十四郎は呟いた。


「確かに……」


 十四郎は笑顔を向けるが、アルフィンの速度は常識の範疇を越えていた。しかも、全く見えないのに十四郎は見事な手綱捌きで障害物を避け、最速で走れるコースに誘導していた。


「ゴメンね! 急いでるから!」


 アルフィンは集中していた。自分の限界を超えたスピードでも、十四郎が乗っていれば安心して速度を出せた。


「十四郎! 大丈夫?! あの娘は危険だよ」


「はあ、多分……」


 アウレーリアの事はライエカも驚いていた。人など遥かに超えた脅威、それは獣をも凌ぎ、亜神とて油断出来ない強さ。だが、それさえ超える何かを、感じていた。


「ワタシも行くから」


「ありがとう、ございます」


 十四郎は否定しなかった。半分は”お構いなく”と言われると思っていた。


「行こう、十四郎」


 頼られた事が嬉しくて、ライエカも笑顔になった。


_________________________



 気配や殺気など微塵も感じない。だが、嫌な予感がローボを包み込む……そして、その予感は悪夢を伴い訪れた。


「白い狼を探しています。ご存じないですか?」


 突然だった。予想も出来なかった。身構える前に、アウレーリアはローボの目の前に立っていた。薄笑みを浮かべ、全ての”美”をまとったアウレーリアは突然現れた。


「白い狼をどうするつもりだ?」


「知ってるのですね」


 ローボの質問など、まるで気にしてないアウレーリアは更に口元を綻ばせた。


「知ってても……」


 ローボが言い掛けた瞬間! 目の前を風圧が過ぎ去る。咄嗟に屈んで避けるが、ローボの銀色の毛が宙を舞った。


「教えて下さい」


 次の瞬間には、アウレーリアは触れる事の出来る距離にいた。


「くっ!」


 刹那! アウレーリアの剣を牙で受け止めるが、物凄い衝撃が全身を超高速で通過する。同時に前脚の爪でアウレーリアの顔を横薙ぎにするが、最大に伸ばした爪は宙を切った。


「剣を持たない獣にしては……」


 なんとか距離を取り、前屈みで戦闘態勢を取るローボに対してアウレーリアは無表情で呟いた。


「ローボ様!」


 そこにレオが駆け付け、アウレーリアに飛び掛かろうとするがローボの声が炸裂した。


「動くなっ!!」


 叫ぶと同時にアウレーリアの周囲を残像を残しながら、ローボが神速で跳んだ。レオの目にはアウレーリアは全く動いて無い様に見えた。


 だが、一旦距離を取り、呼吸を乱すローボの全身は鮮血で覆われていた。


「……ローボ様が血を流すなど……」


 全身が硬直し、言葉を途切れさせるレオは悪夢に包み込まれていた。



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