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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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魔の手

「何て事だ……」


 副官が呟いた時には、リヒトの周りには数人しか残っていなかった。


「グラーフは死んだ……エリーゼとバラッカは生きてるが、戦闘不能だ」


 ノヴォトニーは腕を押さえ、苦しそうに呟いた。


「あなた方はどうします?」


 振り向いたリヒトは無表情で聞くが、ノヴォトニーは強い視線を返した。


「我等は黄金騎士、敵に下るなど有り得ない……それに、魔法使い受けた屈辱は敵のままでないと返せないからな……一度引いて、機会を窺う」


「そうですか」


「貴殿は如何する?」


 リヒトは無表情のままノヴォトニーを見ていたが、質問の返答はなかった。ノヴォトニーは踵を返し、エリーゼ達を連れ数人で戦場を離脱して行った。


 戦場は戦場ではなくなっていた。敵味方に分かれて戦っていた者同士が和やかに雑談していた……それは、とても不思議な光景だった。


「何だか、行く末を見てみたくなりました……」


 傍に立つ副官に、リヒトは呟いた。


「私は、リヒト様に従います」


「勘違いしないで下さい……加わると言う事ではありません……ただ、見ているだけですよ」


「それでは、この後は?」


「帰りますか……取り敢えず」


「はっ……」


 副官は残った兵士に号令を掛ける。そして、リヒト達も戦場を後にした。


_______________________



「夢でも見ている様だ……」


「確かにそうですな」


 唖然と呟くマルコスに、アランも同じ様に頷いた。


「本当に魔法ですね」


 そこにロメオ達も合流し、ロメオはアランと強く握手を交わした。


「元、パルノーバ守備隊のロメオです」


「ご高名はかねがね承っております。私はフランクル東面軍指揮官アランです」


「ほう、猛将アラン殿でしたか」


 両雄の握手は続き、マルコスは不思議な感覚に包まれた。本来なら国の存亡を賭けた戦いで相見えるはずの両雄が、固い握手を交わしているのだから。


「ビアンカの傍に行かないの?」


「今は、いいです……」


 アリアンナに促されるが、リズは少し笑いながら答えた。


「そう……」


 遠くビアンカのいる方角には、まだ人の輪が大きくっている所だった。小さな溜息のアリアンナだったが、その心理状態は平穏で安らかだった。


「現実なんだな……」


 呟くツヴァイだっが、胸の中に渦巻く不安は消せないでいた。


「そうみたいだな……」


 同じ様に呟くココは、少し心理状態が違っていた。


「敵わないなぁ~ビアンカ様……スケールが違い過ぎるよ」


「お前の尺度でビアンカを図るな、おこがましい」


「何だと?」


「分からせてやろうか?」


 腰に手を当てたノインツェーンの呟きにリルが突っ込み、何時ものケンカが始まった。


「……ホント……敵わないですね」


 小さかったが、ラナの声はケンカを始めた二人を簡単に止めた。


___________________________



「凄いですね、ビアンカ殿」


「全くだな……」


 見詰める十四郎は感慨深く呟き、ローボも同じ様にビアンカに視線を向けた。


「どうしてだと思う?」


「私には分かりません」


 ローボの問いに十四郎は分からないと答えるが、その表情は嬉しそうだった。


「ビアンカは多分、意図していない。何の下心もない……否、あるかな」


「下心ですか? ビアンカ殿が?」


「ああ、全てはそこに集約する……お前を、助けたいと言う事にな」


 ローボの言葉は十四郎の胸を、太い槍で貫いた。それは十四郎にとって、掛け替えの無いモノだった。


「私なんかの為に……」


「全てに代えて、自らの命に代えてビアンカは、お前を守ろうとするだろう……そうさせない為にも、お前は生きなければならない……分かるな」


「……はい」


 返事は小さく消えそうだったが、十四郎の決意は山より高く、海より深かった。


「どうして?」


 震える言葉に振り向くと、そこにはゼクスに支えられたアインスがいた。


「アインス殿……」


「どうしてアウレーリアは去ったんだ!?」


 興奮気味のアインスは、残った手で十四郎の胸ぐらを掴んだ。


「頼み事をしたのです。私の目が治る解毒薬を探して欲しいと」


「それをアウレーリアが承知したの?!」


「ええ」


 頭の中が一瞬、真っ白になったアインスは地面に膝を付いた。


「お前の目論見は外れたな」


「そうだね……アウレーリアは計算通りにはいかない」


 牙を光らせるローボに、アインスは小さく答えた。そして、長い沈黙が続いた……。


「そうだ……」


 暫くの後、急に立ち上がったアインスは茫然と呟いた。


「どうした、次の策略でも思い付いたか?」


「狼なんてどうでもいいけど……魔法使いには、まだ協力してもらわないといけないから」


 吐き捨てる様なローボの言葉など無視し、アインスは十四郎の方に向き直った。


「アインス殿、何か嫌な予感でも?」


 直ぐに十四郎は察知する、アインスの只ならぬ様子を。


「解毒薬はつくれるよ……アルマンニの森で取れる薬草で……でも、それだけでは足りない……」


「足りないモノとは?」


 嫌な予感が十四郎を包み込んだ。


「……血さ……白い狼の……」


「何だと!?」


 勢いよく立ち上がったローボが、アインスに飛び付き馬乗りになった。


「あなたの妻は、確か白い狼……そうだよ、雌の白い狼の血が必要なんだ」


「ローボ殿、ご一緒します」


 アインスの言葉を受けた瞬間、十四郎はローボに言った。


「このまま、この場を去るのか? 一番大切な時だぞ」


「一番大切なのは、ブランカ殿ですよ……少し待って下さい」


 十四郎はそう言うと急いでマルコス達の元に行き、直ぐにアルフィンに跨って帰って来た。


「さあ、行きましょう」


「勝手にしろ……」


 フンと吐き捨てたローボは聖域の森に向けて走り出した。



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