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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
233/347

魔法

 パルノーバ砦の時は、将であるロメオを説得する事で多くの人々を味方に出来た。だが、今のビアンカは兵士一人一人に話し掛けていた。


 ビアンカが話し掛ける度、厳しい表情で身構える兵士達が次々に武器を降ろした。


「……本当に、そんな事が出来るのですか?」


 持った剣をダラリと下げ、初老の騎士がビアンカの顔を縋る様な表情で見た。


「必ず出来るとは言えません……ですが、始めなければ永遠に無理なのです。どうか、力を貸して下さい」


 正直にビアンカは言った。そこには何の下心も無く、あるのは純粋に十四郎を助けたい、そして戦場の全ての人を救いたいと言う願いだけだった。


「あなたは、信じてるのか?」


 横の大男も、巨大なクレイモアをダラりと下げて食い入る様にビアンカを見詰めた。


「はい……見て下さい」


 ビアンカが促す方向には、十四郎とローボがいた。十四郎は落ち着かない感じでソワソワしていたが、ローボには周囲を威嚇するオーラに満ち溢れていた。


「あれが魔法使い……」


 大男は少し不安げに呟く。


「はい。少し頼りない様に見えますが、本物の魔法使いです。そして、隣はローボです」


「ローボ? まさか、あの獣神……」


 穏やかな笑顔のビアンカが頷き、大男は口をあんぐりと開けた。


「何がどうなってる?……」


 唖然とアランは呟く。戦場は完全に停止し、敵だけでなく味方の兵士も魅入られた様に目でビアンカの姿を追っていた。


「十四郎に惑わされるのなら分かるが、ビアンカ様が何故……」


 同じ様に呟くマルコスにも全く事態が把握出来なかった。そして、異変は味方にも及び出した。数人の兵が武器を捨てると、ビアンカの元に歩み寄った。


 そして、明らかに下級の兵士達を先頭にビアンカを取り囲む輪が次第に大きくなっていった。


「本当ですか?」


「私はもう、戦いは嫌だ……家族の元に帰りたい」


「魔法使いには出来るのか?」


「こんな俺でも、役に立つのでしょうか?」


 次々に質問が飛ぶが、ビアンカは一人づつ丁寧に返答していた。そして、一人一人に力を貸して欲しいと懇願した。


「ローボ殿……」


「ああ、もしも兵士達がビアンカの要請に従えば、面白い事になる」


「面白い事ですか?」


 嬉しそうに牙を光らせるローボに対し、十四郎は困った様な顔で聞き返す。


「この戦いは終わり、お前の仲間は数千人に増える」


「……まさか」


 十四郎には、それしか言えなかった。


_________________________



「リヒト様……」


「……」


 副官の問い掛けにもリヒトは何も言えなかった。目の前の光景が、夢か何かの様に霞んで見えた。ついさっきまで、血と叫びに満ちていた戦場が静止しているのだ。


「先端部を中心に、兵が次々に戦いを止めてます。見て下さい、あの大きな輪が中心です」


 副官は報告するが、その傍らの兵士達も吸い寄せられる様に輪の方に向かって行った。


「止まれ! 何をしている! 戦わないかっ!」


 剣を抜き、慌てて副官が怒鳴るが流れ出した川は大河になろうとしていた。


「何が起こってると思いますか?」


 唖然とした表情のまま、リヒトは副官に聞いた。


「それが、先程様子を見に行った者の話では……戦の無い世界を作る為に、仲間に入れと……」


「魔法使いが、そう言うのですか?」


 顔を顰めたまま答える副官に振り向き、リヒトは目を見開いた。


「いっ、いえ……あの、ビアンカとか言う女騎士が言ってる様です」


 報告は受けていた。ビアンカはアウレーリアと互角に戦ったと。


「本当に何が起こってるのでしょう……」


 同じ言葉を繰り返すリヒトの思考は、完全に混乱していた。


__________________________



「何だ? あれは……」


 直ぐに気付いたロメオだったが、名将と言われるロメオでさえ全く見当も付かなかった。


「分かりません。あの方向は、フランクル軍とアルマンニ軍本隊の最前線です……でも、あの方向はリズさんが向かった方向です」


 アリアンナは飛び出して行ったリズの事の方が心配だった。


「とにかく、偵察を出しましょう」


 ロメオがそう言った時、赤い仮面の一人がアリアンナの足元に来た。


「ワノ、チュウシン、ビアンカ」


「何ですって!」


 思わず叫んだアリアンナの視界に、今度は血相を変えたリズが映った。


「何をしてるのっ?!」


 続け様に叫ぶアリアンナに向かい、リズも叫び返した。


「ビアンカがっ!」


「だから何っ?!」


 近くに来たリズに、アリアンナは安堵と疑問が混ざる大声を浴びせた。


「リズ殿、説明を」


 興奮するアリアンナを押さえ、ロメオが返答を促した。


「ビアンカが、ビアンカが敵兵を……」


「分かる様に言って!」


 焦るリズは息を切らせて言葉が続かず、またアリアンナは大声を上げた。


「リズ殿、落ち着いて下さい。悪い知らせではないのですね」


 ロメオは興奮するアリアンナとリズを落ち着かせる為、言葉の助け舟を出した。


「はい……」


 一度大きく深呼吸したリズが答え、その返事は一応アリアンナを落ち着かせた。そして、手渡された水を飲みほし、リズは説明を始めた……かなり興奮気味に。


「ビアンカは敵兵に仲間になれと言ってます」


「ほう、我等の時の様にですか?」


 直ぐに察したロメオは、戦況の打開にはそれしかないと頷く。しかし、その難しさはパルノーバの比では無い事も十分理解していた。何せ、状況がまるで違う……あの時、パルノーバは追い詰められ選択肢は少なかった。


 だが、今は普通の戦場だ。冷静に分析すると押してるとは言え、まだ互角ではなかった……現時点で数の上では敵が有利な事には変わりない。


「そんな事、通用するの?」


 当然の疑問。アリアンナはリズに詰め寄った。


「そうですよね……普通は、どう考えても無理……でも……」


「どうなったの?」


 リズの返答は、アリアンナに期待感を抱かせた。


「それが、敵だけでなくフランクル兵も……」


「仲間になるの?!」


 リズの言葉を遮り、アリアンナが叫んだ。


「その様ですね」


 ロメオは、つい今まで戦っていた目前の敵が踵を返し、輪の方に移動を始めた事を見ながら唖然と呟いた。


「……何なの……ビアンカ……」


 アリアンナもその光景を目で追いながら、唖然と呟いた。


「そう……まるで、魔法みたい……」


 リズもまた、魂が抜けた様な表情で呟いた。


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