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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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一番守りたいモノ

「もう戦いは終わりにしましょう。どうか撤退して下さい」


 困惑して立ち竦むリヒトに向い、十四郎は頭を下げた。


「何を言われる。我がアルマンニに撤退など有り得ない」


 即答するリヒトは周囲の味方が委縮するのを見ると、更に声を上げた。


「我らに撤退の二文字は無い! 最後の一兵まで死力を尽くす!」


 分かっていたとは言え、その言葉は十四郎を俯かせた。


「十四郎様! 将を倒せば、敵は怯みます! 直ぐに!」


「待って下さい」


 剣を抜いたツヴァイがリヒトに斬り掛かろうとするが、十四郎はゆっくりと止めた。


「何故です?! 敵将は目前です!」


 焦るツヴァイは声を上げるが、リヒトはツヴァイを睨み付けた。


「将が倒れても撤退する者など、我が軍には存在しない。細かく分散した指揮系統が、戦闘の続行を維持するのです」


「それは、つまり……竜の首が何本もあると言う事か……」


「その通り。我が軍を止めるには全滅させるしかないのだ!」


 直ぐに察したツヴァイの震える言葉に、リヒトが力強く言葉を被せた。


「十四郎様、その事に気付かれて……」


 ココは十四郎が察知していた事に驚くが、同時に作戦の失敗を痛感した。ならば、策は唯一つ……殲滅しかない。


 そう考えてみると十四郎の背中は、とても小さく悲しそうに見えた。


『戦いとは、そう言うものだ。敵を全て倒すしか終わりはない』


 頭の中にローボの声が木霊すると、十四郎は身体の震えが始まった。思い出したくなくても維新の戦いが十四郎を暗闇へと追い詰めて、その背中を圧迫した。


 その十四郎の姿はビアンカの胸を圧迫する。後ろから抱き締めたくなる衝動、一緒に泣きたい衝動に掻き立てられた。だが、戦場は動きを止めずに、この瞬間も血が流れ続けていた。


 この世界に来てから何度も繰り返して来た。消える事の無いココロの傷からは、今も血が滲んでいた。だが、目には見えなくても十四郎はビアンカやツヴァイ達を感じられた。


 大きく息を吐き、顔を上げた十四郎は敵の大軍に向き直る。


「推して参ります」


 そう呟くと、ゆっくり刀を抜いた。直ぐにツヴァイ達が付き従う、迷いなど微塵も無い面持で。


 ビアンカは何も出来ない自分が小さ過ぎて、十四郎の助けにならない事を呪うしかなかった。


『ローボ……どうしたらいいの?……』


 十四郎に寄り添うローボの背中に、ビアンカは問い掛ける。


『目的の為に戦うなら、最後までやるしかない。一度始めたら、途中では止められない……今の十四郎なら全ての敵を捻じ伏せる力はある……お前は覚えてないだろうが、前に十四郎は……』


 途中で言葉を濁すローボの言葉が、更にビアンカの胸を貫いた。分かる気がした……十四郎が多くの敵を倒した後、どうなったか。


 背筋が冷たくなり、お腹の底が痛かった。自分はどうなっても、十四郎に辛い思いをさせたくない……引き裂かれる様な感覚が胸を貫く、その痛みはどんな痛みより辛かった。ビアンカは、もう止めて帰ろうと十四郎の背中に震える手を伸ばすが、その先に青い小鳥が舞い降りた。


「やっぱり、こうなったね……」


「ライエカ……」


 ビアンカにはライエカの姿が、光り輝く希望に見えた。


「……十四郎を助けたい?」


 その言葉にビアンカは身を乗り出した。


「どうすればいいんですか?」


 即答したビアンカは、思い切りライエカに顔を近付けた。


「その前に聞かせて。十四郎と多くの人……どちらか片方しか助けられないなら、どちらを選ぶ?」


 ライエカはビアンカは躊躇すると思った。だが、ビアンカは即答した。


「私は十四郎を助けたい……その為なら……」


 その声には”決意”があった。


「そう……」


 溜息交じりのライエカは、肩に飛び移るとビアンカの髪を掻き分け耳元で囁いた。黙って頷くビアンカは、暫くの後にシルフィーを呼んだ。


_________________________



 シルフィーに跨ったビアンカは背筋を伸ばす。ライエカはそのまま、肩に乗っていた。


「ビアンカ様……」


 振り返ったツヴァイはビアンカの凛とした姿に驚きの呟きを発した。ビアンカは、アルマンニ軍とフランクル軍が戦う最前線に向け、風の様に走り去った。


 あまりに突然の事でツヴァイは動く事が出来なかったが、何故かビアンカの肩に乗る青い小鳥が網膜に焼き付いた。十四郎もまた、ビアンカの気配が消えた事は分かったが、何が起こったのか分からなかった。


「アルフィン殿、何が起こったのですか?」


「それが……」


 アルフィンは言葉を濁す。走り去る前に、シルフィーからアイコンタクトを受け取っていたから……”言わないで”と。


 返事を保留された十四郎は、ゆっくりとアルフィンに元に来て鼻を撫ぜた。


「アルフィン殿、私はビアンカ殿を大切に思ってます……」


「……もう少し待って、十四郎……」


 困惑するアルフィンの姿を感じた十四郎は、優しく首筋を撫ぜ続けた。


「あれは、ビアンカ様……」


 一番最初に気付いたのはマルコスだった。目を疑うが、ビアンカの雄姿に何故か鳥肌が立った。ビアンカは速度を落とさず、両軍が激しく交わる中心に向かう。その時、またマルコスの目に信じられない光景が映る。


 それは戦いの最中の両軍兵士が、まるで神話の様に海が割れ道が出来ていた。ビアンカの美しさは知っているはずのマルコスでさえ息を飲む。その美しさは神々しくさえあり、言葉にするならまさに”女神”だった。


 ビアンカはシルフィーに乗ったまま、アルマンニ軍に向き直る。兵士達は剣や槍、弓を構え一斉に身構えるが、その視線はビアンカの美しさに釘付けで、ここが戦場である事を忘れさせた。


「私達は、魔法使いと共に戦いの無い平等で平和な世界を作ります。あなた方も、仲間に加わって下さい」


 その口調は穏やかで、癒し包み込む様な優しい声だった。


「ビアンカ様、そんな事が通用する訳が……」


「あれを見ろ……」


 心臓が止まりそうになるマルコスが呟くが、驚愕の表情を浮かべたアランが肩を叩いた。そこには、構えていた武器を降ろし神を見る様に穏やかな表情のアルマンニ兵達がいた。


「どうした?! 何をしている!」


 指揮官らしき騎士が叫ぶが、兵達は魔法に掛かった様に動かなかった。


「ビアンカ殿!!」


 そこに風と音が遅れて来るぐらいの物凄い速さで、アルフィンに乗った十四郎が駆け付けた。


「十四郎……見ていて下さい」


 ビアンカは焦る十四郎に、穏やかな声を向けた。


「しかし……」


 それでも焦る十四郎の方に、ライエカが飛んで来た。


「説明するね」


「ビアンカ殿に何を?」


「砦の兵を味方にしたでしょ? 方法は、それしかないの」


「あれは……」


 言葉が続かない十四郎は、ビアンカの事が心配で頭が動かなかった。


「ライエカ……お前の仕業か? どう言うつもりだ?」


 遅れて来たローボが呆れた様に呟いた。


「この娘が十四郎を助けたいと願ったから」


「フン、それだけか?」


 既にローボは全てを悟っていた。


「そうね、あなたと同じ……十四郎に興味があるから」


 少し笑ったライエカは、ビアンカの肩に戻った。


「ライエカ殿、あなたは一体……」


 唖然と呟く十四郎を見て、ローボは吐き捨てた。


「気まぐれな、お節介焼きだ」


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