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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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本物の魔法使い

 アウレーリアが去っただけで戦場の雰囲気は一変した。殺伐とした空気は晴れ、まるで清々しい森林の様な空気に包まれた。


「何て事だ……アイツは、それ程の悪夢だと言うのか……」


 唖然と呟くローボは、まるで変ってしまった戦場を見渡した。だが、周囲の雰囲気は良くなっても、この場所が戦場である事に変わりはなかった。


「……十四郎様があんなに苦戦するなど……」


 十四郎が最強で、絶対的である事を疑わなかったツヴァイは重い声で呟いた。全ての頼みの綱である十四郎の苦戦は全ての者に暗い影を落とす。


「確かに、アウレーリアは最大の壁だな。次に戦えば、どうなるか分からない」


 同じ様に沈む声でマリオも同調した。拳を握り締めたココは、言葉さえ出なかった。


「……十四郎……」


 恐る恐るビアンカは十四郎の背中に声を掛けるが、振り向いた十四郎は笑顔だった。


「ビアンカ殿、お怪我はありませんか?」


「……大丈夫」


「そうですか」


 見えない十四郎は、安堵に包まれた大きな溜息を付いた。


「……どうする? 次にあの女と対峙したら?」


 リルが近付き、小さく聞く。


「そうです、あの女が本気で来たら……」


 泣きそうな顔のノインツェーンも、十四郎に詰め寄った。


「さて、どうしましょう」


 笑顔のまま、十四郎は頭を掻いた。そこにいる者、全てが唖然とした雰囲気に包まれる。それは勿論、安寧とした空気であり微塵の緊迫感も無かった。不思議だった、追い込まれ崖っぷちの雰囲気が、十四郎の笑顔で瞬間に一掃されたのだ。


「これだからな……」


 大きな溜息のローボも不思議な感覚に包まれていた。それは、とても穏やかで優しかった。


「それでは、本陣に向かいます。アルフィン殿!」


 笑顔のまま、十四郎はアルフィンを呼んだ。アルフィンは槍を咥え、嬉しそうに駆け寄った。


「大丈夫……なんですか?」


 胸が締めつけられるビアンカは、震える声で聞いた。


「あっ、はい。がんばります」


 笑顔でそう言った十四郎がアルフィンに跨る。その穏やかな笑顔が見る者を癒し、青いマントが風に翻って堂々たる威容を醸しだした。


「十四郎様、お供致します」


 弱気になっていたツヴァイのココロに、一本の太い鋼線が滲み出た。曲がっていた背中は伸び、慌てて馬に跨る。


「お願いします」


 十四郎もまた大きく頷いた。ノインツェーンやリル、ココも慌てて馬に飛び乗る。


「シルフィー!」


 ビアンカが叫ぶと同時に、シルフィーは傍に寄り添った。


「さっきの雰囲気は何だっんだ……」


 溜息交じりのマリオも、馬に跨ると先頭の十四郎を見た。


「十四郎、大詰めだ。一気にカタを付けるぞ」


 横に並んだローボの言葉を受け、十四郎は力強く返事した。


「はい。終わりの時間です」


_______________________________



「リヒト様、アウレーリアが離脱しました」


「何ですって?」


 副官の報告にリヒトは思考が動かなかった。前面は敵に押され、右翼の敵を追った隊も押し戻された状態で、この上アウレーリアが居なくなると知将と呼ばれたリヒトでさえ打開策は直ぐには浮かばない。


 そして瞬時に背中を伝う悪寒は、十四郎の姿とダブる。


「魔法使いが……」


「分かってます!」


 副官の言葉を大声で遮るリヒトの姿は、周囲に終焉を予想させる。その雰囲気に逸早く気付いたリヒトは更に声を荒げた。


「残存を集結して下さい! 全て魔法使いに……」


「魔法使いが真っ直ぐこちらに向かって来ます!」


 だが、リヒトの言葉を伝令が遮った。


「何だと?!」


 直ぐにリヒトが戦場を見渡せる場所に出ると、遥か彼方に青いマントが見えた。白く輝く馬に跨り、矢の様な速さで突進して来る様はリヒトの体温を氷点下に下げる。


「如何致しますか?」


 石像の様に固まるリヒトの背後から、副官は震える声で聞いた。直ぐに指示出来ないリヒトは目を見開き、身体を硬直させた。


「リヒト様! ご指示をっ!」


 思わず副官が怒鳴る。


「直衛を前へっ!」


 直ぐに直衛の騎士が前方に出るが、そこに十四郎が突進した。直衛の数は十人! だが、十四郎は槍を地面に突き立てるとアルフィンから飛び降りた。


「相手は一人だ!」


 追随するツヴァイ達は遥か後方で、当面の敵は十四郎だけだった。十四郎はゆっくりと刀を抜くと、低い姿勢のまま一番先頭の騎士に向かう。騎士が剣を振り上げ、そして振り下ろす刹那には既に擦れ違っていた。


 騎士は目を見開くと、そのまま前向きに倒れた。十四郎は素早くサイドターンで残存の騎士に向かう。リヒトは目の前の十四郎の戦いを見て、更に背筋を凍らせた。


 手練れの直衛が、何も出来ないまま倒される。そして、十四郎は息一つ乱してなかった。


「あなたが、指揮官殿ですか?」


 素早く刀を仕舞い、十四郎は銀色の瞳でリヒトに向き直った。


「……アウレーリアは、どうしました?」


 震える声でリヒトは、やっと聞くが震えは止まらなかった。


「アウレーリア殿には頼み事をしました」


「頼み事?」


 普通に話す十四郎の声は、とても優しかったがリヒトには怖い声に聞こえ、またやっと聞き返す。


「はい、私の目を直す解毒薬を探して欲しいと」


「……まさか……アウレーリアが、それを聞き入れたと?」


「はい、直ぐに探しに行ってくれました」


「嘘だ……」


 リヒトの中でアウレーリアに対する全てが崩れた。そこにシルフィーに乗ったビアンカが飛び込んで来た。その容姿は違う意味でリヒトを硬直させた。


 アウレーリアに勝るとも劣らない美しさ。しかし、ビアンカの美しさはリヒトのココロを優しく癒した……アウレーリアの様に威圧するのではなく、穏やかに包み込む様に。そして、ビアンカは十四郎に寄り添った。


 リヒトの目に神々しく映る二人の姿。暫くして出た言葉は、リヒトの本音だった。


「あなたは、本物の魔法使いですか?」


「私は……」


「十四郎は魔法使いです! そして、全ての人々を救います!」


 十四郎が答える前にビアンカが叫んだ。その美しい声は、戦場に響き渡った。



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