表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
230/347

恋心

 十四郎は鍔迫り合いの状態から、急に刀を引いた。そのまま後ろに飛ぶが、アウレーリアは神速で間合いを詰める。そしてまた、鍔迫り合いの状態から顔を近付けた。


「くっ……」


 苦悶の表情を浮かべたビアンカは、地面から刀を抜くと肩を小刻みに震わせた。


「駄目です」


 前に立ち塞がったツヴァイの顔は、ビアンカ以上に苦悶の表情だった。


「そこをどいて下さい」


 低く掠れる声を絞り出したビアンカの瞳には、微かに涙が滲んでいた。ツヴァイの胸に炎の矢が突き刺さる、ビアンカの涙はツヴァイにとって最も見たくないモノだった。


「……出来ません」


 目を逸らせたツヴァイは同じく声を絞り出す。だが、ビアンカは立ち竦むツヴァイを押し退けようとする。


「見ていろ」


 震えの止まらないビアンカの背中に、ローボの太い声が突き刺さった。振り向いたビアンカは大粒の涙を溜めたまま、ローボを睨んだ。


「十四郎に任せろ。お前は十分戦った」


 急に穏やかになったローボの声だったが、ビアンカは更に強い視線を向けた。ローボには、どうしてもビアンカの気持ちが分からなかった。


「ビアンカ様が悔しいのは、戦い途中だってからではないの」


 ローボを見詰めながらのノインツェーンの言葉は、更にローボを混乱させる。


「なら、何だ?」


「見て……あの女を……」


 ノインツェーンに促され改めてローボはアウレーリアを見るが、その動きは十四郎さえ凌駕して主導権を握ってる様に見えた。


「押されてるな……だが、何か様子がおかしい」


 アウレーリアの動きに違和感を感じたが、やはりローボには分からなかった。


「……あんなに顔を近付けて……頬が触れるくらいに……」


 少し震える声のノインツェーン。更にローボは分からなくなった。


「何なんだ?」


 苛立ちを隠せないローボはノインツェーンを睨むが、その返答は曖昧だった。


「……人には分かる……女なら尚更……」


「だから、何だと言っている!」


 思わず声を上げるローボだったが、今度はリルが悲しそうな目を向けた。


「……好きな人が……違う女と……あんなに近くに……」


「言ってる意味が分からん」


 消えそうな声でリルは呟くが、明らかに不機嫌そうにローボは吐き捨てた。


「ローボもブランカさんが好きでしょう?」


 今度はノインツェーンが呟いた。


「何を言ってる! 状況を見ろ! 十四郎が戦ってる時にっ!」


 牙を剥いてローボが叫ぶ。だが、二人は悲しそうな目でローボを見た。


「ローボ殿……どんな状況でも人は……」


「どんな状況でもだとっ?! お前達は何の為に此処に来たっ!? 十四郎は何の為に戦ってる!?」


 二人を庇うように前に来たツヴァイに向かい、ローボが怒鳴った。


「ローボが怒るのは無理も無い。お前達、少しおかしいぞ……こんな時に色恋なんて」


 呆れた様な口調のマリオはローボに同調した。最強と言われる敵と、今まさに十四郎が戦ってる最中なのにと、首を傾げてビアンカを見た。目を逸らせたビアンカは、震える肩を隠そうともせずに十四郎の背中だけに視線を向けた。


________________________



『どうした? さっさと片付けろ』


『速くなってます……前に相対した時より』


 ローボの声が十四郎の脳裏に響くが、十四郎は顔を歪めてアウレーリアの剣を押し返した。


『確かに速い……ならば、前の様に剣を斬れ』


『試してみましたが、斬れません……』


 既に十四郎はアウレーリアの剣を斬ろうと何度か試していた。だが、経験した事の無い手応えがあるだけで、アウレーリアの剣は斬れなかった。


『剣も変わった様だな……』


 ローボはアウレーリアの持つ剣に、嫌な感じを受けた。


『剣の速さだけではありません。動きの全てが……』


 十四郎は抜刀術を繰り出したかったが、距離を取ろうにも十四郎を凌駕する動きでアウレーリアは距離を取る事を許さなかった。


 それは見ているローボにも分かった事だった。十四郎の技を封じ込め、全ての先を読む様なアウレーリア動作には驚くしかなかった。打開策を考えるローボだったが、初めて見る苦戦する十四郎の姿に考えがまとまらない。


「あの女、どこが変なのだ?」


 溜息交じりのローボは、ノインツェーンに聞いてみた。


「……変と言うより……あれは、十四郎様の事……」


 俯くノインツェーンは言葉を濁す。


「分かる様に言え」


「……好きなのかも……」


 消えそうなノインツェーンの声。ローボは思わず聞き返した。


「何だと?」


「その可能性はある」


 リルは小さな声で頷いた。


「訳が分からん……人って奴は……」


 独り言のように呟いたローボは少し冷静に考えた後、十四郎に策を告げた。


『もう一度お願いします。それをしなければいけませんか?』


『打開策はそれだけだ。今は、この状況を早く終わらせる事だ。今なら、戦況は我らに有利だからな』


 仕方なさそうに頷いた十四郎は、鍔迫り合いで顔を近付けるアウレーリアに済まなそうに告げた。


「アウレーリア殿、お願いがあります」


「何ですか?」


 口元を緩ませ、アウレーリアは十四郎の目を見詰めた。


「私は毒で視力を失いました……それは、アルマンニに伝わる毒です。その、ですね……出来れば、解毒薬を探してはもらえませんか」


「私がですか? 何の為に?」


「それは、その……あのですね、私はですね、その、今のですね、アウレーリア殿を見てみたいんです」


 しどろもどろの十四郎だったが、急にアウレーリアの剣が力を無くした。呆気にとられた十四郎は少し距離を取ると、おずおずと聞いてみた。


「あの……如何でしょうか?」


「……分かりました」


 剣を収めたアウレーリアは、背中を向ける。当然、十四郎には見えなかったがアウレーリアは耳まで真っ赤になっていた。


「……まさかな……あいつも、人だと言うのか?」


 自分で発案したローボも呆れ顔で呟く。しかも、アウレーリアが即答した事で更にローボを混乱させた。ノインツェーンやリルも唖然とし、ツヴァイやマリオはポカンと口を開けていた。だが、ビアンカだけは口を真一文字に結び、アウレーリアと入れ違いで十四郎の元に駆け寄った。


 擦れ違う時もアウレーリアはビアンカを見向きもしなかった。そして、まさに擦れ違う瞬間に薫風と甘い香りがビアンカを包んだ。だが、その嬉しそうな微笑みはビアンカの胸に氷の大剣を突き刺した。


「……あの人に、何と、言ったんですか?」


 低く小さな声でビアンカは聞くが、十四郎は苦笑いで答える。


「その、解毒薬を頼みました」


「解毒薬?」


「はい、頼む事が打開策になるとローボ殿が……」


「ローボ……」


 振り返ったビアンカが凄い形相でローボを睨むが、目を逸らすローボを見ると急に俯いた。


「やはり、そう、ですか……」


 胸が締め付けられる。早くなる動悸は、軽い吐き気さえ伴った。


「えっ、何がですか?」


 しかし、ポカンとする十四郎の態度が今のビアンカを少し楽にしてくれた。


____________________________



 アリアンナ達の軍勢は敵を蹴散らしていた。十四郎によって骨抜きにされた軍勢は既に戦いのモードではなく、退却のモードに入っており趨勢は決していた。


「深追いはするなっ! 前に押し出すだけでいいっ!」


 叫んだアリアンナは、遠くで攻勢に出るフランクル軍を見た。


「このまま押し返します。中央も総崩れです、勝機は我々にあります」


 並んだロメオも戦況を有利と分析していた。


「後は十四郎……」


 アリアンナは本体に突入した十四郎の事を思い出したが、その横をリズが凄いスピードで駆け抜けた。


「待って!」


 叫ぶがリズの背中には届かない。泣きそうなリズは十四郎の事も心配だが、それよりビアンカの事が更に胸を覆っていた。泣いてるビアンカ、俯くビアンカが脳裏を駆け抜け馬に向ける鞭に力が入った。


「ビアンカ……直ぐに行くから……」


 リズは遠い戦場のビアンカだけを一点に見詰めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ