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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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武闘大会  剣術3

「あの一撃は、仕返しだったみたいだな」


「仕返し?」


 マルコスの言葉の意味が分からないビアンカは、唖然とする。


「さっきのレオン、剣を投げようとした。明らかに狙いは、あなただった……ビアンカ殿」


 横からファルケンが答えたが、視線は十四郎の動向から離さない。ビアンカは戦慄する、明らかにマルコスやファルケンの視点は違う。それは実戦経験の無いビアンカには屈辱的にさえ思えたが、今は少し違った。


 十四郎が自分の為に”怒った”……何より優先して、その事が胸を占領した。


 一度倒れたレオンが起き上がる、その形相は怒りを通り越し憎しみを溢れさせていた。


「まだ逆らうのか? お前はそんなに殺したいのか……あの親子を」


 腹の底から絞り出す声は、十四郎に届く。葛藤が、十四郎の中で鬩ぎ合う。しかし、大きく深呼吸した十四郎は、ゆっくりと目釘を舐める。一度鞘に刀を戻すと鯉口を斬り直し、右手で柄を握り締める。


 左手は鯉口を握るのではなく添える様に持ち、そのまま鞘を三分の一程手前に引き出す。左足を引くとやや腰を落とし、右足の爪先に神経を集中する。少しづつ右肩をやや前方に下げ、身体を捻ると、一度動きを止めた。


その構えに見覚えのあったビアンカだったが、違和感を感じた。脳裏に焼き付いた構えとは明らかに違う……言葉では表現は難しいが、例えるなら前の構えはフェイズ1、今の構えはフェイズ2という感じだった。


 近衛騎士団では最強と言われるビアンカだが、所詮摸擬戦での話であって実戦ではない。自信はあったが、十四郎の戦いを見てビアンカのココロは揺れた。果たして自分が実戦を迎えたら、どの様に戦えばいいのだろうと。


 しかし、そんな考えを頭を振って振り払う、今はそんな事はどうでもいい。十四郎のことだけ考える……ビアンカは、もう一度十四郎の背中を強く見詰めた。


_____________________



「参る」


 十四郎が言葉を発した次の瞬間、電光石火の抜刀。全ての神経を集中していたレオンは力の全てをクレイモアに掛け、最上段から振り下ろす。十四郎は右手で振り出した刀に見えない速さで左手を下方から捻る様に添え、渾身の諸手で振り払う。


 レオンは自らの剛剣が十四郎の頭部を捉えたと確信した瞬間に、十四郎はレオンの後ろに立っていた。その背中合わせの状態は、見ている者全てを驚愕の底に落とす。素早く刀を仕舞うと、十四郎はビアンカの元に歩き出した。


「……何が、起こったの?」


 目を見開いたビアンカが呟いた。その呟きから何秒かの時間差でレオンは腹部から鮮血を吹き出し、ゆっくりと前向きに倒れた。周囲の者が駆け寄った時にはレオンは絶命していた。


「十四郎殿が突っ込み、レオンが剣を振り下ろした……しかし、振り下ろすより先にレオンは斬られていた……」


 唖然と呟くファルケンは、小刻みに震えていた。構え自体は自分の対戦時と似てはいたが、明らかに速度も破壊力も違う、手を抜かれたと言う屈辱より先に驚嘆が強烈なアドバンテージを持った。


「あんなに速く動けるのか? あんなに速く剣を振れるのか?……」


 網膜に焼き付いた動きは、影が霞み残像でしか思い出せないマルコスは戦慄に包まれた。しかし、言葉に出来ない恐怖にも似た胸騒ぎに包まれる……この男、まだまだ底が知れない、本気を出せばどうなってしまうのか。


 予感ではない……そう思える何かが、十四郎の身体全体から感じられた。


_________________________



 近付いて来る十四郎は目を伏せ、ビアンカに視線を合わそうとはしなかった。ビアンカも言葉が出ない、何と言っていいか分からない。手の届く距離なのに、二人は黙ったまま立ち尽くしていた。


「十四郎殿、お見事でした」


 見兼ねたファルケンが割って入るが、二人は動かなかった。


「どうした魔法使い殿? その態度は後悔しているのか?」


 今度はマルコスが聞く。想定外の十四郎の態度はマルコスを困惑させるが、自分との闘いの後に見せた仕草とそっとリンクした。すると何故だかマルコスは急に身体の力が抜け、自然と大きく深呼吸した。


「私は……」


 十四郎は言葉が続かない、その様子がまたビアンカの胸を圧迫する。


「命を掛け、戦いを挑む相手に手を抜くなど、お前は無礼千万だった。あんな戦いを続けていたなら、俺はお前を軽蔑していただろう」


 強い口調のマルコスは、十四郎を見据える。何故か無性に腹が立った。


「ビアンカ殿も、どうされた? あなたが俯いていては十四郎殿も素直に喜べませんよ」


 ファルケンの言葉がビアンカの胸に刺さる。そうだ、何を落ち込む必要がある。十四郎は優勝し、メグやケイトの命も救った。確かに今は十四郎は後悔しているだろうが、自分が励まさないでどうする? 俯く十四郎を助けないでどうする? 自問は自分で自分の背中を押す。


「十四郎、優勝ですよ、見て下さい!」


 顔を上げたビアンカは、涙を浮かべながらも無理して笑い、観衆を指差す。その時、割れんばかりの大声援と拍手が闘技場に響き渡る。ゆっくりと顔を上げた十四郎の目に、泣き笑いのビアンカが映る。


 その横には同じく笑顔のマルコスとファルケン、他の出場者達も笑顔で惜しみない拍手を送った。


 ”魔法使い!” の大合唱と、鳴り止まない拍手、十四郎の胸は少しづつ熱くなる。


「十四郎、人は特別な生き物です。私達とは少し違います……アミラは、それが面倒だといいました。ですが、それこそが私達動物と、人との一番の違いなのです」


 やって来たシルフィーが十四郎の耳元で囁いた。十四郎の中に何かが芽生え、ココロを覆う黒い靄を穏やかに吹き流す。


「胸を張れ、観衆に手を振れ、お前が最強だ!」


 マルコスが十四郎の背中を思い切り叩く、笑顔のファルケンが大きく頷く。背中の痛みは、やがて胸の痛みを穏やかに、そしてゆっくりと緩和した。



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