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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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それぞれの戦い

「さっきから何処を見ている?」


 ビアンカの視線の先には十四郎の背中があり、自分を飛び越して行く視線はエリーゼのプライドを引き裂いた。声は怒りで震え、ビアンカの不安げな表情も火に油を注ぐ。


「あいつの言う通りだ。集中しろ」


 傍に寄り添うローボも強い声で言った。


「分かってる……」


 視線をエリーゼに戻したビアンカが、強く刀を握り直す。だが、その瞬間にエリーゼが動く! 突き出す剣先は目にも止まらぬ速さでビアンカの胸に迫った。


 瞬時に刀を向け剣先を逸らすが、その速さと威力は相殺出来ない。


『目を閉じるな!!』


 頭の中にローボの声が炸裂する。一瞬霞んだ視界に鋭く光を放つ切先が映る! ビアンカは咄嗟に体を捻り、エリーゼの剣を躱す。同時に超至近距離から肘打ち! エリーゼの脇腹に命中した。


 脇腹の衝撃に顔を歪めたエリーゼだったが、直ぐに態勢を立て直し剣を振るう。だが、ビアンカも態勢を立て直しており、火花を散らす鍔迫り合いになった。


 間近で見るビアンカの顔はエリーゼの精神を激しく揺さぶる。苦痛に歪める小さな口元、透き通る様な純白の肌、何より宝石さえ凌ぐ澄み切った瞳はエリーゼの怒りを更に増強させた。


「お前なんか!」


 思い切り突き放すとエリーゼは、その美しい顔を目掛けて渾身の剣を振るった。だが、ビアンカの刀は簡単に剣を受けると、直ぐ様反撃。今度はエリーゼの顔に刀の切先が迫った。


 刀を下方から斬り上げ、そのまま蹴りを見舞う。ビアンカは後方に飛んで避けると、着地の瞬間更に後方に跳んで体制を立て直した。


「速さも、剣の威力も、技も向こうが上だ。で、どうする?」


 素早く寄り添ったローボがビアンカを見上げた。


「……」


 返答出来ないビアンカを、少し呆れた様に見たローボは目を細めた。


「だが、十四郎程じゃない」


「十四郎……」


 視線を十四郎に向けると、そこには十四郎の背中があった。


「思い出せ、十四郎との訓練を」


 ローボの言葉でビアンカの脳裏に十四郎の剣筋が蘇る。それは糸を引く様に鮮明に、そしてビアンカは刀を握る手に力を込た。


「相談は終わりか?」


 鋭い表情のエリーゼが吐き捨てた瞬間! ビアンカは音も無く跳躍した。


_____________________________



 アインスはアルマンニの陣営に着くと、真っ直ぐリヒトの前に行った。


「苦戦してるね」


「これはアインス殿、目のお加減は如何ですかな?」


 他人事みたいなアインスの言葉に、リヒトも応戦する。


「もう直ぐアウレーリアが来るよ。その前に動かないと全滅だよ」


「どうしてアウレーリアが来ると我々が全滅なのですか?」


 テーブルに腰掛けたアインスは少し笑い、リヒトは強くアインスを見る。


「アウレーリアは魔法使いに敵対する者を許さないからね」


「それは否こと。アウレーリアは我らの味方ですよ」


 更に微笑むアインスに対し、リヒトは身体に震えを感じた。


「味方? アウレーリアは誰の味方でもないよ……」


 リヒト自身分かっていた事だった。震えは冷や汗となり、背中を伝った。


「フランクル軍なんて、君の知略に掛かれば簡単さ……でも、アウレーリアは違う。味方であるボクの仲間、ツヴァイ達がどうなったか? 知ってるでしょ」


 更にアインスは追い打ちを掛ける。


「……どう、すれば?」


 知略や戦術に於いて最高の頭脳であるはずのリヒトでも、アウレーリアが係れば全ての計算が狂ってしまう。既に考える余地など、何処にも無かった。言葉の震えに察したアインスは、最高の笑みで言った。


「簡単さ、アウレーリアが来る前に魔法使いを倒す」


 アインスの言葉がリヒトの心臓を鷲掴みにした。


「フランクル軍と交戦中の兵以外は全て魔法使いに向かって下さい」


 呪文の様に呟いたリヒトは、魂の抜けた様な目で副官を見た。


「しかし、全ては……」


 言い返そうとした副官はリヒトの様子に、それ以上言葉が続かなかった。見た事もない白銀騎士最高頭脳の様子は、その場の者に事態の深刻さを無言で語る。


「ほら、早くしなよ……迫ってるよ……アウレーリアが」


 アインスの言葉には笑いは無く、副官は生唾を飲むと命令伝達の為にその場を後にした。リヒトは全身に流れる汗を拭きもせず、ただ茫然と立ち竦んでいた。


_____________________________



『お前にしては珍しいな』


 脳裏にローボの声が聞こえ、十四郎は直ぐに頭の中で返答した。


『どこがです?』


『楽しんでいる様に見える』


『まさか、この人の強さに驚いてるだけです』


 ゆっくりとノヴォトニーとの間合いを詰め、十四郎はノヴォトニーの剣先に集中するが、相手の攻撃を予測出来なかった。ならばと攻撃を受け身に変え、十四郎は相手の出方を待った。


「受け身の構えだな」


 見透かした様なノヴォトニーの言葉。十四郎は大きく呼吸を整えるが、その瞬間に物凄い殺気が頭上から降り注ぐ。咄嗟に横方向に跳び殺気を躱すが、更に強い殺気が今度は横方向から十四郎を襲った。


 刀の付け根で衝撃を真面に受けると、両腕に落雷の様な激痛が走った。


『奴の剣は見た目とは裏腹の剛剣。中途半端な受けは痛手を被るだけだぞ』


『そのようですね』


 十四郎の脳裏に、ある戦いが浮かんだ……古流剣術の使い手は二の太刀要らずの剛剣で、受けるだけでも両腕は元より、全身に激痛が走った。この世界に来てからも剛剣を持つ相手と戦って来たが、明らかに次元が違った。


『勝算はあるのか?』


 ローボの声は少し笑ってる様に聞こえた。


『さて……』


 口元緩める十四郎だったが、その様子はノヴォトニーにとって既視感を抱かせる。だが、直ぐにノヴォトニーは気付いた。


「……アウレーリアと同じだと?」


 自分の意志とは関係なく、ノヴォトニーの口から言葉が零れた。


____________________________



 三人同時の攻撃を簡単に躱すグラーフは反撃の機会を窺っていた。簡単に見える様だが、少しづつリンクしながら速度を増すツヴァイ達の攻撃は経験した事のない違和感を感じていた。


「もっと早く!!」


 叫んだツヴァイにゼクスが呼応し、見えない速さでココが弓を放つ。左右から同時に斬り掛かるツヴァイとゼクスの剣を受け、二人の身体の間から超高速で迫る矢を身体を捻って躱す。


 その瞬間! グラーフは剣を加速させた。空気を切り裂く超速! ツヴァイは一番グラーフの剣先近くにいるゼクスを蹴る! 寸前で剣を避けるが、ゼクスの鎧には横方向に切り裂かれた。


「下がれ!!」


 ココは超速連射で弓を放ち、時間を稼ごうとするがグラーフは口元で笑う。


「流石に三人相手はキツイな」


 ツヴァイの脳が言葉の意味を理解する前に、真っ直ぐに突かれた剣が胸に迫った。だが、その剣はゼクスの腕を貫いて、ツヴァイの目前で血飛沫を上げた。


「ゼクス!!」


「構うな!!」


 ほんの、一瞬の会話だった。


___________________



 バラッカとマリオは一見互角に戦ってる様に見えた。リルは牽制で弓を放つが、バラッカは腕に巻いた防具で簡単に弾き返す。それはまるで、剣を振る動作と一体化している様な動きでノインツェーンは茫然となった。


「攻撃しろっ!」


 リルは叫びながら超速で弓を放つが、ノインツェーンは凄まじい勢いで剣を交わすバラッカとマリオの間に入れなかった。


戦う前には多少の自信はあったつもりだった。だが、黄金騎士の戦いを目前したノインツェーンは囚われていた……自分が格下の青銅騎士であると言う事実に。


 マリオにもノインツェーン達の事を考える余裕はなかった。凄まじいバラッカの攻撃を受けるだけで精一杯で、互角の様に見えても自ら攻撃してるとは言えなかった。


『速いだけじゃない、技術も一流だぜ』


 ココロでは一応呟くが、頭の中が空白になる……最早マリオの目にはバラッカしか映ってなくて、ノインツェーン達二人の存在は火花を散らす剣の彼方に消えていた。


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