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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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会敵

 十四郎達が位置する場所と丁度反対側、横方向に展開した膨大な数のアルマンニ軍が見渡せる小高い丘にロメオとマルコスは兵を集結していた。


「ロメオ殿、十四郎は二手に分かれて牽制しろと……」


 無理矢理に集合させられたマルコスは、ロメオの意図を測りかねていた。


「お叱りは私が受けます。しかし、見て下さい敵の配置を」


 二列なり横に広がる隊列は、マルコスに嫌な予感を抱かせる。


「そうですね。十四郎達が攻め込めば二列目は直ぐに反転して対応するでしょうね」


「たった数人では物理的に無理です。しかも本隊には黄金騎士を中心にした直衛部隊も確認出来ます」


 遠くを見渡すロメオの声は悲観的ではなく、むしろ気合が込められていた。


「策がお有りの様ですね」


「牽制ではなく、援護したいと思います」


「伺いましょう」


 知略の将、ロメオの作戦にはマルコスも興味があった。何より、少しでも十四郎の助けになりたかった。


「マルコス殿にはフランクル軍に行って頂き、大規模正面攻撃を促して頂きます。我等はこの場から側面を攻撃、敵の気を逸らせます」


「さすれば、十四郎達への援護にはなるでしょうが……多くの犠牲が……」


「はい……両軍合わせて数千。否、もっと多い可能性もあります……ですが、現状の我々の戦力では、十四郎殿の目指す戦いは到底無理なのです。何より、この戦いはローベルタ夫人の賛同を得る為の前哨戦、ここで敗北する訳には参りません……この先、理想の戦いをする為にも今回の戦いにおける犠牲は必然なのです」


「確かにそうですが……」


 マルコス自身、ロメオの作戦には賛成だった。今回の戦いの目的を思い出し、途中の過程に過ぎないと考え、こらからの為にも成功の為犠牲は仕方ないと分かっていても、十四郎の悲しそうな顔が頭に浮んだ。


『どうせ、全ての人々を助けようとするだろうな……』


 心の中で呟いたマルコスは、自分では気付いてなかったが笑ってる様だった。


「如何しました? マルコス殿」


 笑みを浮かべるマルコスが理解出来ず、ロメオは怪訝な顔をした。


「……議論の余地はありません。ロメオ殿の作戦しか現状の打破は出来ないでしょう。それではフォトナー殿の部下達を頼みます。私はフランクル軍の元に行きます」


 一礼したマルコスは馬に飛び乗った。見送るロメオだったが、副官のナダルの言葉に小さく溜息を付いた。


「マルコス殿は十四郎殿との付き合いは長い。多分、結末をお見通しでしょう」


「そうだな……」


 頷くロメオの脳裏にも、結末は描かれていた……それは……。


_________________________



「アルフィン殿、行きましょう」


 アルフィンに跨った十四郎は左手に手綱を取ると、右手には蒼空にも似た青い槍を握った。


「十四郎……」


 青い槍と青いマント、その姿はビアンカの脳裏に不思議なデジャブとなった。記憶は定かではなかったが、その後ろ姿は思わず名前を呼ぶビアンカの胸を激しく揺り動かした。


「十四郎様!」


 走り出して直ぐ、並んだツヴァイが前方を指差す。そこには、倒れた敵兵が数多く障害物となったいた。


「偵察だけでは勿体ないからな、敵の斥候を潰しておいた……何、死んではいない。明日の朝までは起きないだけだ」


 素早く並んだローボが、キラリと牙を光らせた。


「斥候って……」


 呆れた声を出す十四郎だった。十四郎には見えないが、その倒れている数は感じられた。そして、その数は……どうみても中隊規模の人数だったから。


「斥候と言うより、待ち伏せ部隊だな」


「ああ、奇襲は察知されたと見て間違いないですね」


 マリオもその数に不信を抱き、ツヴァイは嫌な予感を加速させた。奇襲中止も一瞬、脳裏を過るが全く意に介さない十四郎の背中を見て、自分の中断しそうになった集中力を恥じた。


 しかし進むに連れ、倒れている人数は増すばかりでノインツェーンは呆れ声を出した。


「ローボ、一人で終わらせる気かしら……」


「気を抜くな! 前方に集団だ!」


 獣の様な視力のリルは、夕暮れの暗闇が迫る中にも敵兵を察知した。


「こりゃ、失敬!」


 身を屈めたノインツェーンは戦闘態勢に入り、他の者も追随した。そして確認出来る距離になると同時に弓の洗礼! 各自散開して回避行動をとった。


「リル! 弓手は左右に分かれてる! 私は右にっ!」


 ココが叫ぶと同時にリルは左の弓手に突進! 馬上から正確な弓を放つ。十四郎は瞬時に敵の位置を把握すると、アルフィンに叫んだ。


「左前方、突っ込みます!」


「分かった!」


 返事と同時にアルフィンが超加速する! その速さは瞬間移動するみたいにその場から消えた。


「なんて速さだ……」


 唖然と呟くマリオの横を疾風が駆け抜ける。それはビアンカとシルフィーの影で、目で追うのさえ追い付かず残像となった。


「天馬アルフィンに神速のシルフィー……噂には聞いていたが……」


「驚くのは早いよ!」


 ノインツェーンの叫びがマリオに激突した瞬間、遥か前方で十四郎の槍が炸裂した。アルフィンが敵と擦れ違うだけにしか見えないのに、敵は次々と落馬する。舞い上がる土煙の中、十四郎の背中だけがマリオの視界の中で一瞬の光を放った。


「我等も行くぞっ!」


 鞭を入れるマリオだったが、ツヴァイやノインツェーン、ゼクスは既に全力加速で先を行っていた。


「こいつら……」


 苦笑いのマリオは、更に鞭を入れた。


_________________________



「指揮官にお会いしたい!」


 マルコスはフランクルの本陣に駆け込んだ。


「何者だっ?!」


 直ぐに警護の兵に止められるが、マルコスは周囲に響き渡る声で更に叫んだ。


「私はモネコストロのマルコス! 我が魔法使いと共に貴軍を援護する!」


「これはマルコス殿、それは本当か?」


 兵を掻き分け現れたのは、フランクルの将軍アランだった。長躯で凛々しい顔立ち、身に着ける鎧には傷はおろか一片の曇りさえなかった。


「あなたでしたか……」


 顔見知りだった事にマルコスは感謝した。しかも、アランは見かけによらず血の気の多い好戦的な男だった。


「こちらで詳しく」


 マルコスをテントに招こうとするアランを遮り、マルコスは本題を告げる。


「時間がありません。敵陣向かって右後方より、魔法使いが本陣を突く突破攻撃を仕掛けます。同時に我が友軍が反対側の側面より牽制攻撃を開始します。貴軍には今すぐ全力で正面攻撃をお願いしたい。さすれば我が魔法使いが敵将を討ち果たします」


「承知した。全軍、戦闘準備! 正面に兵力を集中! 側面など構うな! 前進あるのみっ!」


 即断速行、アランの判断は早い。直ぐに大声で命令を告げると、即応する騎士達も喚声を上げた。


「感謝します」


 一礼して馬に飛び乗るマルコスの背中に、アランは大声を投げ掛けた。


「神のご加護を!!」


「神のご加護、か……今は何にでも縋りたい気分だ」


 マルコスは雪崩の様に進み始めたフランクル軍を見送りながら呟いた。


_________________________



「動きが変だな」


 ルーが呟くのは無理もなかった。夕暮れが迫り、食事の準備をする敵兵達が慌てて作業を中止していたのだ。


「十四郎達が動いたようだな」


 直ぐに察知したアリアンナは、ルーを見下ろす。


「待つか? 夜中まで」


「盗賊は決断力だ。好機を前にして戸惑う事はない」


 ルーは怪しく笑い、アリアンナは毅然と言った。


「同感です。敵は浮足立ってる」


 全身に震えを感じたリズも直ぐに同意した。


「行くぞ!」


 剣を抜いたアリアンナが叫ぶと同時に、ルーが飛び出し背中で叫んだ。


「先鋒は引き受けた! 後に続け!」


 突進するルーに、多くの狼が追随する。その統制のとれた突進は、放たれた弓の様に収束しながらも突然散開、敵を飲み込んだ。


 ルー達が狙うのは敵の武器、剣を握る腕に牙を立て、槍を食い千切る。弓手は接近で弓を放をてなくして、鋭い爪が弓をへし折った。


「ボヤボヤしてたら、全部ルーに持ってかれるよ!」


 先頭を走るアリアンナが叫び、盗賊達が大歓声で呼応する。武装した騎士との戦闘では明らかに盗賊が分が悪いが、素手同士なら体力に勝る盗賊が俄然有利だった。


 戦いは斬合い突き合いと言うより明らかな殴り合いで、完全にアリアンナ達が押していた。


「殴り合いかよっ!」


 叫ぶランスローも必死で殴り合う。自分は剣を持ってるのに、使おうともしないで。


「年寄りには無理ですな」


 バンスは槍を振り回し、簡単に素手の騎士達を倒す。当然、突いたり刺したりはせず、柄で殴って気絶させていた。


「でもさっ!! 気持ちいいなっ!!」


 殴り合いながら、ランスローは叫んだ。命のやり取りのない戦い、初めての体験はランスローに気付かせる……十四郎の意図を。


「縛り上げろ!」


 倒された騎士達を、アリアンナの号令で手空きの者が縛り上げる。あっと言う間に百人の敵は縛り上げられ、アリアンナはその内の数人を解放する。


「報告しろ、食料と武器は全て奪われたとな!」


 解放された者達は、物凄い形相で走り去って行った。


「知らせた方が十四郎様達の援護になりますね」


 頷くリズの横では、唖然と事態を見ていたラナが茫然と呟いた。


「あっと言う間に……制圧した……」


「タイミングが味方しました。私達の奇襲を、十四郎が援護してくれたのでしょう」


 アリアンナの言葉は正にその通りで、真面に戦っていたら犠牲を伴い苦戦しただろうとラナは思った。


「グズグズするな、持てるだけの武器と食料を取れ! 残りの武器は数本ずつ縄で縛れ」


「どうして?」


 直ぐにルーが戻り、アリアンナに指示する。


「この先の崖から落とす。下は濁流だ、武器は敵の手には戻さない」


「なるほど……」


 合点が行ったアリアンナは、直ぐ様手下に指示した。


「ルー、残った食料はどうするのです?」


 荷馬車数台分の食料は奪ったが、残りの方が断然多かった……と、言うより膨大な量が残っていた。崖から落としすにしてもこの人数では運べないし、当然道も無い。


「心配ない、それより作業を急がせろ。敵の援軍が来るやもしれない」


 ニヤリと笑うルーの言葉で、アリアンナやリズ、ラナやランスロー達も総出で武器を縛る作業を手伝った。


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