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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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決戦前夜

 アリアンナ達は遠方から、アルマンニ軍の物資集積場を窺っていた。物資は移動しやすい様に馬車に積まれ、その数は端を見渡せない程だった。


「警護の数は約100。予想より多いですね」


 報告する部下は顔を曇らせるが、アリアンナは毅然とした態度で言った。


「想定内だ。部隊規模から言えば妥当な数だ、実際はもっと多いと思っていたからな」


「こちらも100に近いが、戦闘力では分が悪い。どう出る?」


 ルーは妖しく笑いながらアリアンナを見上げた。


「正攻法なら陽動だけど……頼めるかな?」


「そう言うと思ってたよ。だが、引き付けても半分だ。残りはどうする?」


 微笑み返すアリアンナに向かい、ルーは口元を綻ばせた。


「あれで何とか」


 アリアンナは部下達が手にした網や縄を指差した。


「狩りでもする気か?」


「そんなところ……集めるのにダニー達が苦労したんだよ」


「そうか……では、時間はどうする? こちらは直ぐにでも出れるぞ」


 全てを察したルーは牙を光らせた。


「もう少し待って、盗賊の仕事は夜なんだ……あっ、それと例の食料を”消す”ってどうなってるの?」


「手筈は整ってる心配無用だ……開始の合図は、お前が出せ」


 ルーはそう言い残すと背中を向けた。大きく息を吐いたアリアンナは、背筋を伸ばすと部下に命令した後、見詰めるラナに穏やかに言った。


「今のうちに休んでおけ。決行は深夜だ……あなたも、寝ておいて」


「残れと言わないのね」


「そのつもりは無いんでしょ?」


 予想外の言葉にラナは首を傾げながら聞くが、アリアンナは微笑みを向けた。


「参りましたな」


「予想はしてました。我々も休みましょう」


 汗を拭うバンスの肩を叩いたランスローは、真剣な眼差しだった。


「私の為に……ごめんなさい」


 俯くラナは小さな声で謝った。その言葉に、ランスローは胸の隅に痛みみたいなものが走った。ラナとの付き合いは長い、そして今、確かに変わったラナを感じる事が出来た。バンスも優しい微笑みで、そんなラナを見守っていた。 


「謝る事はありませんよ、いくら腕に自信があっても黄金騎士相手なんて命が幾つあっても足りないですから」


 思わず軽口を叩いたランスローは、ハッとして直ぐに口を噤む。その言葉は揺れるラナの胸に、氷の剣を突き立ててしまった。ラナの表情は一瞬で青褪め、今にも泣き出しそうになった。


「ご心配には及びません。十四郎殿は今も進化し続けています。その強さは、出会った時とは比べ物になりません。黄金騎士など圧倒しますよ」


 バンスの言葉が沈むラナのココロを浮上させ、慌ててランスローも取り繕った。


「そうですとも! 魔法使いは私の永遠の好敵手、黄金騎士如きに後れを取るはずはありません」


 真剣に慌てるランスローの顔が更にラナの気持ちを持ち上げ、自然と笑顔が浮かんだ。


「不思議です。圧倒的な不利を目前にしても、十四郎がいれば何とかなると思える」


 笑顔を取り戻したラナに向い、アリアンナも笑顔を向けた。


「あなた達は留守番よ。ダメ、反論は無し……これは十四郎様の意志と思って。あなた達には他に仕事があるから」


 何か言おうとして身を乗り出すダニーを、リズは穏やかに制した。”十四郎の意志”それはダニーにとって絶対で、他の仕事と言う言葉に気持ちを切り替えた。


「あなたは私を守って下さいね」


 そんなリズに、ラナはウィンクした。


____________________________



「前列は通常の攻撃を加え、後列の一部は援護隊を除いて即応体制のまま待機させます。黄金騎士は手筈通り、本陣を取り囲む四方に配置完了しました」


 副官の報告を受けたリヒトは、頷くと遠く展開する軍勢を遠望した。


「魔法使いは来ますか?」


「そうですね。七子様の予想では、この場所と……私も同感です」


 副官の質問を受け、リヒトは静かに答えた。


「我等の魔法使い殿は、この大陸を征服しますか?」


 多分ずっと考え続けていたのだろう、副官は思い切って切り出した。


「七子様と出会って私は考え方を根本から変えました。私だけではありません、多くの賛同する者に共通する七子様の考えへの共感……それは、意志と行動を繋げる事です。誰もが何かをしたいと考えますが、多くの場合は更なる考えが浮かび躊躇して機会を逸します……ですが、行動しない事には何も起こらないし、起せません……七子様は、そんな迷う人々の背中を押したのです」


 言葉を紡ぐ様に話すリヒトは、脳裏に七子を思い浮かべた。


「それは、私も同感ですが……入って来る情報では敵の魔法使いは桁違いです。モネコストロの武闘大会から始まり、ミランダ砦の攻防戦、パルノーバの攻城戦、それ以外にも聖域の森でのローボとの出会い、イアタストロアでの海戦……人知を超えた何かを感じます」


 副官は背筋を凍らせながら、十四郎の武勇を振り返った。


「……確かに魔法使いは強い。アウレーリアでさえ、苦戦するかもしれません。ですが、前にもお話した様に魔法使いには決定的な弱点があります。それは”優しさ”であり、戦いに於いて必要は無いのです……戦いとは敵を倒し、屈服させる事です。優しさは自らの命取りにはなっても、何ら強さには寄与しません」


「確かにそうですが……」


 悟った様に語るリヒトの言葉に副官は共感するが、ココロには引っ掛かるモノも確かに存在した。


「強さとは何か? あなたは今、そう考えてるのでしょう?」


「……」


 図星の指摘に副官は言葉を返せなかった。


「物理的強さと……”本当の強さ”……違いを見てみたい気もしますね」


 正直な気持ちがリヒトの口から零れる。副官は驚きを隠そうともせず、本音を口にした。


「リヒト様でも、その様に考えるのですね」


「……既に魔法に……掛かってしまったのかもしれませんね」


 リヒトはもう一度軍勢を見詰め、独り言みたいに呟いた。


___________________________



 日が傾き始めた頃、ローボが偵察から戻った来た。


「全く、この私に偵察など……」


 言葉とは裏腹にローボは嬉しそうだった。


「すみません」


 頭を掻いた十四郎は、すまなそうに言った。


「どうでした?」


 身を乗り出したのはツヴァイで、その顔は真剣と言うより深刻だった。他の者も同じ様に身を乗り出してローボに迫った。


「フン、揃いも揃って、なんて顔だ……目標の四方に黄金騎士とやらだ。お前達は三人一組で二人に当たり、残りは私と十四郎で何とかするしかないな」


「では、どの方角に誰がいたか分かりますか?」


「分かる訳ないだろ……人なんて皆同じに見えるからな」


 焦る様にツヴァイは聞くが、ローボは面倒そうに答えた。


「それでは困るのです! 誰が誰と戦うかで戦術が……」


「黄金騎士だか何だかは知らん。だが、私はお前達をずっと見て来た……引けを取るとは思わん」


 声を上げるツヴァイの言葉を途中で遮り、ローボは鋭い牙を光らせた。


「私達が……」


 ツヴァイ達は互いに顔を見合わせた。


「第一、この心配性の小心者が落ち着いてるだろ。心配なら、自分一人が戦うから皆は手を出さずに見てろとか、ほざくに決まってる」


「ローボ殿……」


 あまりの言われ様に、十四郎は頭を掻いて苦笑いした。


「十四郎様……」


 ツヴァイを先頭に、皆が十四郎を見詰めた。


「心配などしていません。皆さんは十分強くなっています、自信を持って下さい」


 穏やかな十四郎の声が皆の胸に浸透すると、身体の底から熱いモノが沸き上がった。


「……私は……」


 一人蚊帳の外だったビアンカが、消えそうな声を出す。


「お前は十四郎の背中を守れ」


 鋭い視線でローボはビアンカを見た。


「やはり、ビアンカ殿にも護衛を付けた方が……」


 マリオは皆の顔を見回した。


「それは必要無いかな」


「ああ、無用だ」


 ノインツェーンは平気な顔で言い、リルも直ぐに同意した。


「しかし、マリオ殿の意見も一理ある。ビアンカ様に万が一の事があれば」


 また真剣な顔に戻ったツヴァイの横で、ゼクスも黙って頷いた。


「だからぁ、ビアンカ様は大丈夫なの」


 呆れた様なノインツェーンは、ツヴァイの顔を覗き込んだ。少し顔を赤らめたツヴァイは、声を裏返させた。


「なっ何だっ、その根拠は?」


「ツヴァイ……ビアンカ様の瞳をずっと見ていられる?」


「何を急に?」


 焦るツヴァイが横目でビアンカを見るが、その神秘的で美しい瞳を数秒も続けて見られない。


「マリオさんもどう?」


「私もかっ?」


 妖しく微笑むノインツェーンに促され、マリオもビアンカを見るが伏目がちの長い睫はマリオの胸を強烈に締めつけた。


「悔しいが、アタシ達では敵わない……」


 リルは表情を変えないが、その声は何故か嬉しそうだった。ノインツェーンは溜息を付きながら、ツヴァイ達男連中に振り向いた。


「ビアンカ様は女の武器を超一流、いえ、究極と言って差し支えない程に揃えているの。しかも、本人は全く気付いていない……少しは自覚してくれてれば、私達もこんな気持ちにならないのにね」


「……私なんか……」


「これだ……」


 リルは大きな溜息で、少し笑った。


「あの女……アウレーリア……確かに美しいし……強い……だけど、私は思う……ビアンカ様には敵わないと……そうでしょ? 十四郎様」


 ノインツェーンは言葉を紡ぎながら、その視線を十四郎に向けた。十四郎は直ぐ隣のビアンカから漂う、何とも言えない甘い香りに包まれ赤面した。


「えっ、その、まあ、そう思います」


「ほら、十四郎様でさえこうだもの……可憐さ、優雅さ、美しさ……そして、可愛さでは絶対ビアンカ様の勝ち」


「剣の腕でも絶対に負けない」


 ノインツェーンに続けてリルも声を揃える。


「……」


 ビアンカは何も言えなかった。自信なんて、ほんの少しも無かったから。


「ビアンカ殿……私を守って下さいね」


「十四郎……」


 静かな十四郎の言葉が、ビアンカの中に眠る何かを呼び覚ました。大きく息を吐き、呼吸を整えたビアンカの全身からは力と勇気が溢れ出した。



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