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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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「本当でしょうか? 魔法使いが攻めてくるなんて」


 副官は顔を顰めるが、リヒトは穏やかな口調だった。


「我々を攻めてくるなら魔法使いは、余程の愚か者か余程の切れ者でしょう」


「我等四人の黄金騎士を配した布陣、リヒト殿はここに来ると思ってるのでしょう?」


 NO,2のノヴォトニーは、長い金髪を風にそよがせる端正な容姿だった。


「報告によると魔法使いの戦力は、然程多くはありません。他の場所で戦力を消耗していて、補充する暇は無いと考えます」


「ならば、最激戦のこの場所を制すれば魔法使いにも勝ち目はある」


 リヒトは当然の様に分析し、NO,7のグラーフは束ねた漆黒の髪を触りながら、躍動する筋肉を高潮させた。NO,8のエリーゼは短く切り揃えた肩までのサラサラ髪を掻き分け、強い視線で言う。


「嫌な噂も耳にするが、リヒト殿のお考えは?」


「噂ですか?」


 知らない素振りで聞き返すリヒトに向い、NO,9のバラッカは盗賊の様な厳つい髭面で声を押し殺した。


「アウレーリアだ。あいつは魔法使いと結託している」


「それは違うかもしれません。彼女の事は誰も分からないのです……魔法使いを狙うアインスの目を潰し、従う青銅騎士を全て排除しました。これは何の為だと思いますか?」


「何の為だと? それこそ魔法使いを……はっ……」


 言葉の途中でバラッカは、ある事に気付いた。


「そうです。彼女は自分の獲物に手を出す邪魔者を排除したのかもしれません。これ程彼女が自分の意志を表に出す事は今までにありませんでした……ですから、魔法使いが攻めて来た場合の対処も考えなければなりません。アウレーリアと魔法使いを同時に敵に回せば、我等に生き残る術は無いのですから」


「自分の獲物……」


 ノヴォトニーは悪寒に包まれ、呟いた。


「対等、もくしくはアウレーリア匹敵する実力があると考えて差し支えないでしょう……魔法使いに関しての情報はあまりにも少ない。ですが、一つだけ確実な事があります。魔法使いには弱点があるのです」


「弱点?」


 思わず身を乗り出すバラッカに続き、グラーフやエリーゼも息を飲んだ。ただ、ノヴォトニーだけは胸の底に渦巻く嫌な予感と対峙していた。


「魔法使いは仲間の為に命さえ投げ出します。仲間を確保する事で、魔法使いを倒す可能性が生まれるのです」


「どんな仲間ですか?」


「情報では裏切った青銅騎士が三人に銀の双弓、イタストロアの騎士マリオ、モネコストロの近衛騎士ビアンカです。そして、何故が神獣ローボも味方しています」


「ローボですって?」


 青銅騎士は問題外、マリオの強さは承知しているし、有名なビアンカだがビジュアルが有名なのであり強さは知れている。だが、大陸に響き渡るローボの存在はノヴォトニーを驚愕させた。


「厄介だな」


 流石のバラッカも声を落とすが、リヒトは我関せずと続けた。


「我々が魔法使いと戦ってる最中に、アウレーリアの参入はあるでしょう。当然、アウレーリアの対象は我等であり、それでは勝利は有り得ません。そこで最初から魔法使いの仲間を人質にする作戦で待ち受け、強制的に魔法使いとアウレーリアと戦わせます」


「魔法使いが勝てばどうなる?」


 グラーフの問いにリヒトの表情が一変する。


「万が一にも有り得ない。魔法使いはアウレーリアによって、この世から消えます」


「今までの状況を見る限り、アウレーリアは魔法使いと戦うとは思えませんが」


 聞いた事の無い憤慨したリヒトの声だったが、ノヴォトニーは冷静に疑問をブツける。


「ですから、魔法使いの方から挑ませるのです。人質という弱みで我らの意志に従わせます。当然、アウレーリアが勝ちます……何故アウレーリアは強いのか? 簡単です。全ての者がアウレーリアより弱いからです」


 リヒトは興奮を押さえ声を低めるが、腹の中では何かが黒く渦巻いていた。


「あなたはアウレーリアを崇拝しているのですね」


 静かに呟くエリーゼの言葉にノヴォトニーも小さく頷き、グラーフやバラッカも薄笑みを浮かべた。


「崇拝ですか……そうですね……もし神に形があるとするならば、きっとアウレーリアの姿でしょう」


 その意味を分かってさえ尚、リヒトは怪しく微笑んだ。


_______________________



「どうした?」


 何時になく元気の無いツヴァイの背中をココが押した。


「私はビアンカ様の護衛から外された……」


 俯き小さく呟くツヴァイだった。ココは溜息を漏らすと、今度は力いっぱい背中を叩いた。


「何言ってる! 外されたんじゃなくて、十四郎様がビアンカ様と組んだけだ……俺は、お前を羨ましいと思っていた」


「どうして?」


 振り向いたツヴァイが満面の笑みのココを見た。


「いいか、ビアンカ様の護衛はな、ある意味十四郎様にとって最重要なんだぞ。それを任されてたお前は、一番信用されてるって事だ」


「そんな事はない……私の不手際で、ビアンカ様の記憶を……」


 更に俯くツヴァイに向かい、ココは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「俺なら、もっと酷い事になってたよ」


「お前ならきっと上手くやったさ」


 冗談抜きでツヴァイはそう思った。


「何だ? 俺を認めてるのか?」


「……弓では、お前がNO,1だ」


 笑顔のココに真顔のツヴァイが真剣に言った。


「なんせ十四郎様がいるからなぁ、お前は剣では一番になれない。だが、信用は強さだけによるものじゃない。お前の人となりが、護衛の人選では選ばれる」


「私の?……」


「ああ、バカ正直でクソ真面目で、融通が利かなくて……」


「褒められてる様には聞こえないが……」


 思わずツヴァイにも笑みが浮かんだ。


「俺も十四郎様と同じく、お前には一目置いている」


「何故だ? 私は……」


 自信の持てないツヴァイには、その先の言葉が出なかった。だが、ココはまたツヴァイの肩を大きく叩いた。


「自信持つだけでいいんだよ。お前は!」


 叩かれた痛みがツヴァイの肩から全身を駆け抜けた。それは”友”の労わり、言葉に出来ない喜びを伴っていた。


「じゃれてる場合じゃない」


 気付くとリルが腰に手を当てていた。


「ココだけじゃない。皆、ツヴァイの事を認めている」


 ノインツェーンは笑顔でツヴァイを見て、ゼクスも黙って頷いた。


「さて、作戦だが」


 今度は、やって来たマリオが真剣な顔をした。


「我々の情報を敵は掴んでいると思った方がいい」


 直ぐに真剣な顔になり、ココも頷いた。


「ああ、敵将はリヒトだ。十四郎殿の弱点は知られてるだろう」


「ならば、戦い方も工夫する。決して無理はせず、時間を稼ぐ事だ……十四郎様の援護の為に。そして、絶対に人質になるような事は避ける」


 マリオの言葉に直ぐにツヴァイが続けた。


「流石だ。でも、お前が一番に捕まるなよ」


「ああ、肝に命じる」


 ココの軽口に対し、ツヴァイは真剣に答えた。


「三人が一組だ。互いの援護と全周の警戒、十四郎殿を助けようとか色気は出すな。とにかく、援護とは各自が無事である事だ」


 腕組みのマリオは、細かい戦い方の指示を出した。


「新入りのくせに、分かってるな」


 リルはマリオを褒めるが、ノインツェーンは驚きの顔でリルを見た。


「お前でも人を褒めるんだ」


「お前には無理だろうがな、なんせ器が違う」


「何だと? もう一度言ってみろ」


 何時ものケンカが始まり、一同は何故が落ち着いた気分になれた。


___________________________



「ビアンカ殿、私は真っ直ぐ敵将に向かいます。援護をお願いします」


「あっ、はい」


 並んで見降ろすアールザスは広大な平原で、遠くアルマンニ軍の大集団が見え、その遥か彼方にはフランクルの大集団が霞んでいた。


 経験した事の無い大きな戦いを目前にしても、ビアンカのココロは落ち着いていた。それは直ぐ傍にいる十四郎のせいかなとも、ココロの片隅で考える余裕さえあった。


「ローボ殿が物見から戻れば出ます」


「はい」


 少し前に偵察に出たローボが戻れば戦いが始まる。ビアンカの呼吸が少し速くなるが、ふいに十四郎の肩にとまった青い小鳥に首を傾げた。


「これはライエカ殿」


「十四郎、本当に行くの?」


 ライエカは小さな女の子みたいな声で聞くが、ビアンカの耳には否定している様に聞こえた。


「ええ、まあ」


「この先は策略と欲望が渦巻いてるけど」


 十四郎の耳元でライエカが囁く。直ぐに反応したビアンカが、声を上げた。


「どう言う事ですか!?」


「あら、聞こえた?」


 察したライエカがビアンカの瞳を見詰める。その瞳には曇りなど一片も無く、少し胸の痛みを伴っていて、ライエカは溜息を付いた。


「そうね、無邪気な悪意が十四郎を待ち、その悪意に吸い寄せられた多くの思考が澱んで蠢いている」


 瞬間にアウレーリアの顔が浮かぶが、ライエカの話を聞いている十四郎は普段と変わらなかった。


「十四郎、あの女の人が……」


「多分、出て来るでしょうね」


 唖然と呟くビアンカに、十四郎は優しく微笑んだ。


「どうして、そんなに落ち着いていられるの?」


「ワタシも同じ質問をしようと思った」


 ビアンカの問いにライエカも直ぐに被せるが、十四郎は頭を掻きながら苦笑いした。


「いえ、その、何と言うか……」


「十四郎、ビアンカがいるから落ち着いてるんだよ」


「あ、アルフィン殿!」


 横から口を挟むアルフィンに対し、十四郎は赤面した。


「そうだよ、十四郎はねぇ~」


「シルフィー殿まで!」


 今度はシルフィーが薄笑みを浮かべ、更に十四郎は赤くなる。その瞬間、ビアンカの心臓は止まりそうになった……息が苦しくて、体中の血が沸騰した。


「それで、あなたは?」


「ワタシはライエカ。ローボと同じで、あなた達に興味があるの」


 ビアンカは真剣な顔でライエカを見詰めるが、ライエカは笑顔? で言った。


「ローボと同じ……もしかして、あなたは?」


 ビアンカのライエカを見る目が変わった。


「まあ、そんなとこかな。でも……心配して損した……」


 溜息交じりのライエカは、そう言い残すと大空に舞った。太陽に反射した青い羽根が、ビアンカの網膜の中で宝石みたいに輝いた。



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