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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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戦い方

「私達は、どうしろと?」


 十四郎達が出発した後、アリアンナがマルコスに怪訝な顔をした。


「それが、俺達は二隊に別れ援護してくれと……」


 言いにくそうにマルコスは答えるが、今度は大柄なアリアンナの部下が声を荒げた。


「俺達には何の指示もない!」


 それはパルノーバの兵やフォトナーの部下達だけで二隊を作り、アリアンナ達は蚊帳の外だと言ってる様に聞こえたからだ。


「待て」


「しかし、アリアンナ様」


 マルコスを睨んだアリアンナは、興奮する大柄な部下を低い声で制止する。


「我等盗賊が戦って来た相手は弱者だけだ……普通は武器を持った騎士になど、挑む事はない」


「俺達が騎士なんかに後れを取るとでも?!」


 腕には自信があるのだろう、大柄な部下はアリアンナに食い下がった。


「お前は騎士と戦った事があるのか?」


「あるとも!」


 睨み返したアリアンナに向かい、大柄な部下は声を荒げた。


「小規模な野営地を夜中に襲い、寝ている騎士を倒しただけだ」


 自らを蔑む様に呟くアリアンナの言葉に、大柄な部下は俯き拳を握り締めた。


「俺達……何の為に……ここにいるんだ……」


「出来る事をやれ」


 聞いた事の無い澄んだ声。振り返ったアリアンナは、ローボに似た銀色の狼を見た。


「誰だ?」


「我が名はルー。父上の命により、お前達を援護する」


 ルーはそう答えたが、機嫌は良くない様だった。


「父上? まさかローボの息子なの?」


「そうだ……それより、お前達は盗賊だろ?」


 呆れた様な声のルーは溜息交じりに言った。その言葉はアリアンナを追い詰められた様な気分にさせるが、そこにラナとリズがやって来た。


「アリアンナさん。相談があるのですが」


「今はそれどころじゃない」


 ラナの穏やかな声が、アリアンナを苛立たせた。


「聞いて下さい」


 今度はリズが少し強い声でアリアンナを見る。その瞳は真剣で、アリアンナは黙って頷いた。


「私達はダニーを手伝って物資の補給をしていました。そこで、分かったのです。私達の様な少人数でも一日の食料は膨大になるのです。これが数千の軍勢なら、どのくらい膨大な量になるのか」


 リズの言葉でアリアンナはハッとした。そして、ラナの言葉で確信に変わる。


「人は一日食事を抜いただけでもフラフラになります。それが数日続けば、精鋭の騎士といえども普通の人以下に戦闘力は落ちます」


「奴らの食料を強奪すれば、十四郎達の援護になる」


 拳を握ったアリアンナは声を絞り出した。


「ですが膨大な量です。運び去るだけでも大変な事になると思います」


 ラナは食料調達の大変さを実感していた。


「ならば盗むのではなく、消せばいい」


 聞いていたルーが口元を綻ばせた。


「どうやって?」


 怪訝な顔をするアリアンナ達に向かい、ルーは言い放った。そして、その後に大きな溜息を付いた。


「任せておけ……全く十四郎の奴、余計な事を父上に言いやがって」


「十四郎は何と言ったのですか?」


 身を乗り出すラナの横でアリアンナもリズもルーを真剣に見詰めた。


「お前達を守って欲しいとさ。自分達の援護をどれだけ割いても構わないからとな……でも、まあ……十四郎と父上が俺を信用してくれたからな」


 本当はローボと一緒に戦いたかったルーは歯軋りするが、直ぐにその興奮は収まる。


「私達も十四郎を守る」


 決意したアリアンナの横で、ラナもリズも大きく頷いた。


___________________________



「どうした? 流石の怪物もお手上げの様だな」


 部屋に入るとアインスは石像の様に立ち竦んでいた。だが、入る前から七子の気配は察知していた様で小首を傾げて七子の方を振り返る。


「アウレーリア、僕の剣を切ったよ……まるで、十四郎みたいに」


 茫然と呟くアインスは、目に巻いた包帯を触った。


「最強の魔法使いと、最強の魔女か……お前の相手はどちらも厄介だな」


「……」


 薄笑みを浮かべる七子だったが、アインスは何も言わなかった。


「どちらを倒したい?」


「えっ?」


 急な七子の問いにアインスは驚いた。


「私も両方を倒したいと思うが、難しいだろうな……ならば、切り替えて片方を先に倒す」


「どう言う事なの?」


 七子の考えが分からず、アインスは聞き返した。


「逆に聞く。どちらが憎い?」


 七子の問い掛けを受け、アインスの中に憎しみの炎が燃え上がった。目を奪われた悔しさ、仲間を殺された怒り……それは全身を震わせる。


「アウレーリア」


 即答だった。アインスの見えない目は、自分など眼中に無いアウレーリアの怪しい微笑みが確かに見えていた。


「なら、十四郎に加勢しろ」


「今、何と言ったの?」


 腕組みした七子は言い放った。最大の目標である十四郎を助けろと? アインスは自分の耳を疑った。


「考えてもみろ。あの二人が戦い、共倒れになる事を想像出来るか? 確実に片方を倒す為には何方かに加勢するするしかない。それが一番確実な方法だ……」


 確かにアウレーリアを倒せるとしたら十四郎だけだ。アインスは暫く考えた後、小さく頷いた。


「今の時点でアウレーリアに死角はない。だが、十四郎は隙だらけで弱みを沢山抱えている」


 七子の言葉でアインスの脳裏に、ビアンカやツヴァイ達の事が浮かんだ。


「……あいつ、自分より仲間を……」


 呟くアインスの脳裏に、自分の仲間だったツヴァイやフィーア達の顔が浮かんだ。


「お前は変わった。もう、ただの怪物ではではない」


 今度の七子の言葉は、違う方向からアインスを揺さぶった。


「ボクが変わった?」


「そうだ。お前の怒りは自分の傷より、失った仲間の為だ」


「ボクが? ツヴァイ達の事で怒ってるって言いたいの?」


 ふいに確信を突かれ、アインスは戸惑った。


「もしも、お前がただの怪物なら、そんな考えは持たない。お前自身の”真”の怒りに目を背けるな……その怒りは、お前を強くする」


 七子の言葉がアインスの胸と全身に浸透した……そして十四郎の強さの秘密が、ほんの少し見えた気がした。


__________________________



「十四郎様、敵の本陣は中央部付近。二重の隊列に守られています」


 ココが報告する。十四郎達はアルマンニ軍の斜め後方の丘の上で待機していた。


「四方は黄金騎士四人が囲んでいます。NO,2のノヴォトニー、NO,7のグラーフ、NO,8のエリーゼ、NO,9のバラッカです」


 一緒に索敵に行ったツヴァイも重ねて報告した。


「間が抜けてるな」


 マリオはナンバーが抜けてる事に首を捻った。最重要戦線意外にも黄金騎士は配置されてるのかと。


「間のナンバーは全てアウレーリアに倒された……理由はない……あいつの気分で、だ」


 若干の声の震え、マリオはツヴァイの言葉による動揺で自身も悪寒に包まれる。だが、横目で見た十四郎は普段と変わらない穏やかな表情を浮かべていた。そして、その横では支える様に傍にいるビアンカもまた穏やかで優しい表情だった。


「特徴は?」


 特にノインツェーンやゼクスの顔色が変わっている。マリオは話題を変えようとツヴァイに聞いた。


「各個の武器はノヴォトニーが超剛剣、グラーフは超速二本剣、バラッカは戦斧、エリーゼはハルバートだ」


「そうじゃなくて、戦い方とか強さとか……」


 声を沈ませるツヴァイに対し、マリオが溜息交じりに聞くがノインツェーンが腕を取った。


「言葉では言い表せない……あいつらは、全てが違うの」


「そうだ。もしも強さを数字で表し、その最高が100だとすれば、奴らは全員が100だ」


 ゼクスはマリオの目を見ないで言う。直ぐに強さを実感出来たマリオの背中を再び悪寒が通過する。そしてまた十四郎とビアンカに視線を向けるが、向かえるのは変わらない穏やかさだった。


「黄金騎士は殆どが100……我々青銅騎士は50だ。これなら分かるか?」


 押し殺した声のツヴァイだったが、直ぐにココが茶化した。


「なら俺はツヴァイより少し強いから55ってとこだな」


「アタシはノインツェーンよりもっと強いから60だ」


「何でお前がココより強いんだ!」


 血相を変えたノインツェーンがリルに詰め寄るが、リルは平気な顔だった。そして、いつものケンカで緊張は一気に和らいだ。


「二人一組なら互角と言うことですね」


 ビアンカは澄んだ瞳でツヴァイを見た。ツヴァイのネガティブな思考は、瞬間にアクティブに変わった。


「そうですね。相乗効果で黄金騎士さえ凌げる」


 内側から溢れる”勇気”がツヴァイの声を甦らせた。


「皆さん、最優先で守るのは自分自身ですよ。この中で一人でも欠ければ、勝利の意味は無くなりますから」


 穏やかな十四郎の言葉が各自の胸に刻まれ、互いを見ると大きく頷いた。


「十四郎、ワタシ達も?」


 アルフィンが鼻を寄せると、十四郎は優しく撫ぜた。


「当たり前です。アルフィン殿は私の大切な家族ですから」


 同じ様にシルフィーもビアンカに鼻を寄せ、撫ぜながらビアンカも微笑んだ。


「シルフィー、私と十四郎を守って」


「分かった……どんな風よりも速く走る……ビアンカと十四郎の為に」


 シルフィーはアルフィンの方を見ながら言う。アルフィンも、その視線を正面から受け止めながら大きく頷いた。



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