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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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予感

「やっと、お出ましか」


 初めて軍議に顔を出した十四郎に向かい、マルコスは皮肉交じりに笑った。ロメオは十四郎の様子で真意を占うが、何時もと変わらない表情に少し苦笑いした。


「まずはフランクル軍と合流してから作戦を決めると言うのが、ロメオ殿との一致した考えだ」


「それが……」


 頭を掻く十四郎は言葉を濁すが、マルコスは大きな溜息で言った。


「何か手があるのなら、言って見ろ」


「あっ、はい。ココ殿の話では敵軍は数を生かした二列横隊で、フランクル軍も横隊で応戦しているそうです。敵の出方としては横隊の一部を突出させて相手の横隊を削り、押し返せば引くという具合に長期戦で相手の消耗を促し……」


「知ってるよ……」


 既に情報は知る所であり、途中で遮ったマルコスは更に大きな溜息を付いた。


「十四郎殿のお考えは?」


 ロメオは十四郎に鋭い視線を向けた。


「劣る勢力で勝機があるとすれば、一点突破で将を倒すしかないですね」


「お前、まさか……」


 平然と十四郎は言うが、マルコスには急に槍の訓練をした十四郎の姿が強烈に蘇った。


「両軍が戦端を開いた時が、敵将の防御が一番手薄になる瞬間ですね……だが、リヒトは甘くない。直衛の兵には多分、黄金騎士を筆頭に手練れを集めています」


 更に視線を強めたマリオに対し、十四郎は柔らかく聞く。


「直衛の隊はどの位の規模ですか?」


「出来るだけ二列目の近くに拠点を構え、即応隊も両側を守ってますので……おそらく、四人の黄金騎士が四方を……」


 ロメオの話しを聞いた十四郎は、一呼吸置いて話す。


「私がツヴァイ殿達を率いて後方から斬り込みます。頃合いは前方での戦いが始まって直ぐです。マルコス殿とマリオ殿は二手に分かれ、更に後方から牽制をお願いします」


「牽制だと?」


 マルコスが立ち上がった。予想はしていた……十四郎は一人で斬り込むだろうと。だが、自分達に何もしないで見ていろ、と言う事には我慢が出来なかった。


「マルコス殿」


 ロメオは強い口調でマルコスを座らせ、十四郎に向き直った。


「十四郎殿、勝算は? そして、斬り込み隊の人数は?」


「ツヴァイ殿にゼクス殿、ノインツェーン殿にココ殿、リル殿。そして、マリオ殿とビアンカ殿です。出来るだけ複数で組んで、お願いしています。それと、ローボ殿を初め、狼の方々も百程……」


 十四郎は人選を紹介するが、ロメオは更に声を強めた。


「勝算は? と、お聞きしています」


「すみません……分かりません」


「それでは困ります、戦いは始まったばかりなのです。あなたを失へば、全ての計画の終わりなんですよ」


「……はい……」


 小さく返事した十四郎が何か言おうとすると、立ち上がったビアンカは力強く言い放った。


「ご心配なく、十四郎は必ず守ります」


「そうです! 大丈夫です!」


「必ず成功させます!」


 ゼクスが声を上げ、ノィンツェーンも続いた。


「まあ、何とかなるでしょう」


 腕組みしたマリオも、口角を上げた。


「そして、全員が生きて戻ります」


 ツヴァイは決意した表情でロメオを見詰め、他の者も力強く頷いた。


「師匠、例え後方でも不意の事態はある。備えは万全に」


 珍しく正論を言うリルに向い、マルコスは溜息を付いた。


「分かりました。我々も全力で支えます……十四郎殿、ご武運を」


 笑顔になったロメオに向かい、十四郎は深々と頭を下げた。ロメオの予感に、ほんの少しの光が指す……それは、目の前の十四郎と頼もしい騎士達の姿と同期していた。


「それで、アリアンナ達は?」


 マルコスは溜息を交えて聞くが、十四郎もまた声を潜めた。


「相手は正騎士の軍団です。今までアリアンナ殿達が戦って来た相手とは違います」


「そうですね。普通、盗賊の相手は農民や商人。例え腕に自信があったとしても訓練された騎士相手では分が悪い」


 直ぐに理解したロメオは頷くが、マルコスは溜息混じりに言った。


「アリアンナが納得すると思うか?」


「マルコス殿、お願いします」


 頭を下げる十四郎だったが、マルコスは更に大きな溜息を付いた。


_________________________



「七子様、魔法使いの動向が分かりました」


「聞こう」


 報告に来たドライに向かい、七子は静かに言った。


「ローベルタ夫人を味方に付ける為、魔法使いは条件を出された様です」


「ほう、条件とは?」


「力を見せろと……」


 ドライの言葉を受けた七子は口元を綻ばせた。


「そうか……して、その夫人とやらは十四郎にとって役立つのか?」


「はい。イタストロア建国の立役者です。彼女を味方に出来れば、イアタストロアの掌握も時間の問題かと」


「条件を探れ」


「はっ……それと、アウレーリアは如何致しますか?」


 頭を下げたドライは、ほんの少し声を震わせた。


「どうせ管理など出来まい。放っておけ……それより、アインスはどうしてる?」


「今だ鍛錬に励んでいます。最早、以前のアインスとは比べ物にならない程です」


「見張るなら、アインスの方だな」


「はっ……」


「嫌な予感がする……な」


 ふいに考え込む七子を見て、ドライもまた尻の座りが悪く感じた。暫く考えた七子は、顔を上げると指示を出した。


「交戦中の各方面に指示を出せ」


「どの様な?」


「魔法使いの奇襲に備えろだ」


 言い放つ七子に対し、ドライは顔を下げたまま呟く。


「それでは各方面に緊張と混乱を来す恐れが……」


「事前に知っていれば奇襲にならぬ……」


「御意……」


 ドライの中で七子の意図が浸透した。相手が魔法使いなら損害は計り知れない、備えている場合とそうでない場合の差は歴然だ。例え歯が立たないまでも、被害を最小限に食い止められる。


 些か心許ないが、相手の動きが完全に把握出来ない以上は、備えこそが最大の防御成り得るのだった。


_____________________



「見えないのに、凄いですね」


 アインスはアウレーリアの気配に気付かなかった。自分では上達したと思っていたが、今更ながらアウレーリアの強大さに唇を噛んだ。


「君こそ、何をしてるんだ?」


 前は話しさえ出来なかったが、今のアインスには自然と言葉が出た。


「どうして訓練するんですか?」


 アインスの問いなど眼中にない様子で、微笑みながらアウレーリアはアインスに近付いた。甘い香りが漂うが、反比例してアインスの動悸が速まる。


「……それは……」


「だめですよ。もし、十四郎に手出ししたら……」


 風の音がした。その瞬間、アインスが持っていた剣が紙の様に真っ二つになった。周囲にいた青銅騎士達は氷の様に固まり声さえ出なかったが、アインスは下腹に力を入れ声を絞り出した。


「あいつの剣と同じだね……でも、少し違うかな……」


「どこがですか?」


 アウレーリアは喰い付いた。少女の様な表情で、アインスに顔を近付ける。


「魔法使いの剣は、相手の剣と一緒にココロまで斬る……」


「ココロ……」


 少し震えるアインスの言葉に、アウレーリアは自分の剣が切られた時を思い出した。剣が切られると同時に感じたのは……まさしく、喪失感だった。何の喪失? アウレーリアは考えるが、思い当たる節がなかった。


「あなたには分かりますか?」


「多分……”戦うココロ”だと、思う」


 首を傾げるアウレーリアだっが、本当はアインスにも分からなかった。


「戦うココロ……」


 今のアウレーリアには理解出来ない事だった。そもそも、アウレーリアにとって戦いとは何なのか? それさえも曖昧だったから。


 アインスは全身の汗が止まったのが分かった。手の震えや、呼吸の苦しさも消えていた……それは、アウレーリアが去ったからだと気付くのには少し時間が必要だった。



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