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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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武闘大会  剣術1

「普通に走っていれば、幾らシルフィーと言えど勝ち目は無かった。敢えて一周目、全力で飛ばしドナルド殿とルシファールに焦りを出させた。先の見えないコースは十四郎殿の作戦に味方した。見渡せるコースなら、ドナルド殿が引っかかる可能性は無かっただろう。シルフィーは全力で走った一周目の疲労を、残りの周回で流しながら回復させ力を温存した。見えない敵を最後まで全力で追ったドナルドとルシファールには、最後の直線で逆転の力は残って無かっただろう」


「見事な勝ちでしたね、流石シルフィー」


 ザインの落ち着いた解説は的を得ていた。リズも、一度も先頭を譲らない鮮やかな勝利に感服した。


「そうだな。でもあの二人、初めてにしては息が合ってたな」


「そりゃあそうですよ。多分ビアンカ、夢心地だったでしょうから」


 笑顔のリズに頷きながらも、ザインは次の対戦相手レオンを遠く睨んだ。準決勝までのレオンの試合は、何故か全て得意の剣術で行われ、そしてその試合も不気味な位に普通だった。


 準決勝もまた剣術で行われたが、試合後半に突然レオンが変わった。勝負が付いたと思われた瞬間に、それまでと違い、相手が気絶するまで打ち据えた。ザインには、なんとなくその状況が分かる気がした……我慢が限界に達したのだと。


____________________



「二人乗りで勝つとは……なんじゃあれは?」


「はい。神速のシルフィーと申しまして、この国で最高の……」


 バンスの言葉を遮り、ライアが睨む。


「誰が馬の事なぞ聞いておる、あの者の名じゃ」


 ライアは不機嫌そうな顔で、片肘を付いた。


「はあ、近衛騎士団のビアンカ殿とお見受け致します」


 少し慌てたバンスは、コホンと咳をして言い直した。


「ビアンカ……」


 ライアも聞いた事はあった、玉貌の女騎士の噂を。何故か苛立つライアは、テーブルのワインを一気に飲み干した。


________________________


 シルフィーから降りると直ぐにビアンカは、顔の辺りに抱き付いた。


「ありがとう、シルフィー……あなたのおかげよ」


 シルフィーもブルブルと鼻を鳴らし、ビアンカに寄り添う。そんな光景を笑顔で見ていた十四郎を、突然強い殺気が襲う。振り向くと、レオンが乱れた髪の間から睨んでいた。傷だらけの銀色の鎧、背中の巨大なクレイモアと腰のファルシオンが鈍く光っていた。


「次は真剣でどうだ?」


「真剣など、ルールにはない!」


 低く暗いレオンの声に、分け入ったビアンカが叫ぶ。


「ルール? 互いが認めれば出来るはずだが。もっとも、魔法使い殿が臆するなら仕方ないが」


 不敵に笑うレオンは、強い視線を十四郎から外さない。


「だめよ十四郎、挑発に乗っちゃ!」


 駆け寄るビアンカは、初めて見る十四郎の目に少し後退りした。その眼はビアンカを飛び越え、レオンに突き刺さっていた。レオンはゆっくり近付くと、十四郎の耳元で囁く。消えそうな声はビアンカには聞こえなかったが、十四郎その声に一度頷いた。


「ビアンカ殿、お願いがあります」


 レオンが去った後、十四郎が穏やかに言う。その目は何時もの十四郎に戻っていた。


「まさか、受けるなんて言うんですか?」


「メグ殿とケイト殿を帰らせて下さい」


「どう言う事ですか?……」


 疑問の言葉とは裏腹に、ビアンカは全てを悟る。


「レオン殿の提案、お受けしました」


 その表情は真っ直ぐで、一点の曇りも感じられない。暫くビアンカは黙り込む、そして最初に、ある言葉を飲み込んでから、途切れながら言った。


「……ケイトさん達には、人を殺ろす所など見せたくない……自分の口ではっきり、言って下さい」


 最初に飲み込んだのは”自分が殺される所を、ケイトさん達には見せたくない”という言葉だった。小さく息を吐き十四郎は言った、その声には嘘は感じられない。


「ケイト殿やメグ殿には見せたくありません。私が人を殺める所を……ケイト殿は分かってくれると思います」


「どうしたんです十四郎? レオンに何を言われたんです」


 それでも納得できないビアンカは、十四郎に詰め寄った。


「別に何も……」


 ぎこちなく笑った十四郎は、そっと背を向けた。ビアンカにはレオンが何を言ったか、なんとなく分かった。溜息の後、ビアンカはケイト達の元へ向かった。直ぐ後を追うアミラが振り返り、十四郎を強く見詰めた。


「言いたい事は分かるよな?」


「はい」


 アミラの目を真っ直ぐ見返し、十四郎は頷いた。


 メグはグズったが、ケイトは直ぐに理解してくれた。アミラを抱き締めながら嫌がるメグを連れ、家道へと向かう……”どうか、御無事で”と言う言葉を残して。


_________________________


「真剣での勝負……」


 リズは以前の凄惨な試合を思い出す。相手はカーナル卿、剣の腕前は響き渡ってはいたが、冷静沈着で分別のある好人物だった。


「カーナル卿は試合前レオンに何か言われ、冷静さを失い真剣の勝負を受けた。今となっては、事の次第は闇の中だ……しかし、あの十四郎殿でさえ、挑発を受けるとは」


 ザインは首を傾げるが、嫌な予感は振り払う事は出来ない。


「あの試合は見ました、あんなの試合じゃない」


「あれは現実の戦だ、試合じゃない。どんな事をしても相手を殺し生き残る、それが戦だ」


 実戦は未経験のリズだったが、本当の戦いは容易に想像出来た。レオンの試合を思い出すだけで……。


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