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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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成長

 数日間アインスは部屋から出なかった。目の傷の手当てをする最中も、一言も言葉を発しなかった。アウレーリアの事は確かにショックだったが、胸に空いた傷は他にも原因があった。


 自分にとって仲間など無意味な存在であり、道具としか考えてなかったはずだった。だが、ツヴァイ達三人の死はアインスにとって取り返せない傷として刻まれた。


 二度と光を見る事の出来ない漆黒の視界には、三人の面影ばかりが浮かんだ。そして、ゆっくりとアインスの腹の底に、溜まっていった……それは、十四郎に対する執念よりも深くて濃い怨念として、アウレーリアに対する復讐心として。


 アインスは静かに立ち上がる。漆黒の怨念は満ちた……剣を握り大きく息を吐き、精神を集中する。五感のうち視覚は消えたが、聴覚と嗅覚は異常に発達していた。そして、第六の感覚が研ぎ澄まされる……それは、相手の気配”気”の察知だった。


________________________



「七子様、アインスが始めた模様です」


「始めた?」


 ドライの報告に七子は首を捻った。


「庭をご覧下さい」


 そこには数人の青銅騎士に取り囲まれる、アインスの姿があった。七子が驚いたのは、アインスも青銅騎士達も”木の剣”を持っていた事だった。


「剣の訓練か?」


 ニヤリとした七子はドライに振り返った。


「はい」


「アインスにしては珍しいな、木剣を使うなど……惜しむ様になってと言うことか」


 アインスの様子を見ながら七子は呟く。その戦いぶりも、以前の様な凶悪さや荒々しさは影を潜めていた。


「いえ、アインスは命など惜しんではいません」


 断言するドライを七子は意味有り気に見る。


「ほう、見えなくなって弱気にでもなったのではないか?」


「相手が死ねば、訓練が出来なくなります。青銅騎士程の訓練相手は、ザラにはいませんから……そして、万が一にも自分が死ねば……出来なくなります」


 ドライの声は心なしか沈んでいて、七子はポツリと呟いた。


「……復讐か……」


「……はい」


「何が怪物を変えたのだろうな?」


「分かりません」


 アインスの訓練を見ながら七子は感慨深げに呟き、ドライは無表情で小さく答えた。


_____________________



 勝手が違った。相手の気配や”気は”察知出来ても、身体の反応が遅れる。他の青銅騎士に対するアインスの今までの無礼や仕打ちにより、敵対心剥き出しの本気の訓練には丁度良かったが、そう簡単には見えない状態で戦う事は難しかった。


『魔法使いは、直ぐに出来たのにな……しかも、数段強くなった』


 ココロで呟くアインスは、他人事みたいに考える自分を客観的に見れた。アインスは視覚を失うと同時に狂気も影を潜めている事を自覚した……目的の為に冷静になれる自分を。


 次第に正確性を増すアインスの剣は、青銅騎士達の気持ちを変化させる。今までの借りを返す目的で訓練に付き合っていたが、真剣な態度に接して段々と本気で付き合う様になっていた。


 マカラの力を借りている時点でも、アインスは黄金騎士の末席くらいの力はあったが、今は中間席に匹敵する力を得ていた。


 短期間に強くなるのが自分でも分かった。見えないはずの視界に相手の姿が浮かび、やがて相手の剣が霞む様だが感じられた。


『あれが見えれば……』


 ココロで呟いたアインスは、木剣を握り直した。生まれて初めて真剣に訓練するアインスは、剣の腕だけではない何かの成長を実感していた。


「訓練が終われば用済みの青銅騎士をどうするか?」


 窓から見下ろす七子は、静かに呟く。


「分かりません……」


 明らかに表情を曇らせるドライを見て、七子は口元を緩める。


「お前も期待してるのだな……」


「いえ……アインスはアウレーリアを倒し、魔法使いをも倒すつもりです……それだけは確かです……ですが……」


 頭の中を整理しながら、ドライは答えた。


「何だ?」


「もしも……アインスが青銅騎士に謝意を述べ、彼等と供に戦うのなら……黄金騎士さえ凌駕する軍団に成り得るかと」


「そうだな、青銅騎士も鍛えられ強くなってる。どこまで出来るか、楽しみだ」


 七子はもう一度アインス達に視線を向けると、何故が穏やかに微笑んだ。


___________________________



「十四郎……何をしてるの?」


 槍を持ち、バンス相手に訓練する十四郎をビアンカは不思議そうに見ていた。


「私はどうも、槍が苦手で」


 照れた様に頭を掻く十四郎だったが、息を切らせたバンスが大きな溜息を付いた。


「正直、アングリアン騎士団にも、これ程の使い手はいません」


 あっと言う間に槍の極意を吸収し、更に簡単に凌駕する十四郎にバンスは驚きと畏怖を隠せなかった。対峙して初めて分かる十四郎の凄さ、見えて無いはずのバンスの槍を最初から受け止め、見えて無いはずのバンスの槍に特化した動きも直ぐに覚えた。


「何故、槍なの?」


 ビアンカには十四郎の意図が分からなかった。


「十四郎! 早くしてよ! 準備は出来てるのに」


 今度はアルフィンが十四郎を急かした。


「すみません、後少し……」


「私は少し、休憩します。十四郎様、先にアルフィンとの稽古を……」


 槍を支えに、バンスは大きな溜息を付いた。


「はぁ、そうですか……」


「やったね! 行こう十四郎!」


 笑顔で槍を小脇に抱えた十四郎に、アルフィンが擦り寄った。そこに今度は嬉しそうなシルフィーまで加わる。


「ワタシは、とにかく並走すればいいのね」


「はい、お願いします」


 アルフィンに跨り、十四郎が草原を掛ける。手綱を放した十四郎は、並走するシルフィーの背中に想定した架空の敵に槍を振るった。槍を振るう速さが違う、その速さは音さえ追い越していた。


 見えない敵と戦っている事は誰の目にも明らかで、その凄まじい槍捌きは見ている者を驚愕の渦に巻き込んだ。


「剣も凄いが、あの槍も……」


 傍に来たマリオは愕然と呟く。


「十四郎……何をしようとしているんですか?」


「多分……」


 心配顔のビアンカの問いに、マリオは言葉を濁す。ビアンカは遠くの木の下で見守るローボの元に駆け寄って同じ質問をした。


「ローボ、十四郎は何を?……」


 伏せていた顔をを上げ、ローボは口元を緩めた。


「剣より槍の方が同時に大勢と戦える……」


 ローボの言葉はビアンカの心配に更に不安を足すが、ローボは落ち着いた声で続け、ビアンカを優しく包み込んだ。



「心配するな、十四郎は何も変わらない……だが、どこまで行くつもりなんだろうな……」


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