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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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鉄の女 7

「十四郎……この人達……」


 そっと身体を身体を放したビアンカは、倒れている聖守護者達を見て戸惑いの声を出す。


「大丈夫です、気を失ってるだけですから」


 笑顔を向ける十四郎だったが、ビアンカは俯いたまま十四郎の袖を持った。


「どうしたんですか?」


「ごめんなさい……私、十四郎の足手まといになるのに……我慢出来なかった」


 その声は消えそうで、十四郎は胸の中に小さな痛みを感じた。でも、その痛みはとても心地よくて、十四郎は自然と笑顔になった。


「私が心配してるのは……その、ビアンカ殿の事です……」


「私?」


 口籠る十四郎は、そっと俯いた。


「私の事なんて、どうでもいい。十四郎は自分の事だけに……」


「そうはいきません。ビアンカ殿は私にとって……」


 急に声を揺らし身体を密着させるビアンカの言葉を遮り、十四郎は顔を上げるが、その言葉の続きはローボの声に掻き消された。


「十四郎! 無事だったか?」


「ええ、まあ……」


 急にビアンカと離れた十四郎は、少し顔が赤くなった。


「お邪魔だった?」


 笑顔のアリアンナだったが、二人の様子には少し胸の片隅に痛みを感じた。


「一旦、屋敷に戻るぞ」


 溜息交じりのローボに安堵感が訪れるが、アウレーリアの影はその脳裏で怪しく澱んでいた。


「この人達に手当しないと」


「放っておけ。魔物だ、自然に治る」


 倒れる聖守護者達に心配顔を向ける十四郎だったが、ローボは吐き捨てた。仕方なく場を後にしようとする十四郎に、今度はビアンカが情けない顔を向けた。


「……十四郎……さっきの人、綺麗だったね……」


「えっ?……」


 呆気に取られる十四郎に、溜息交じりのローボが助け舟を出した。


「こいつは目が見えない。覚えてるのはお前の顔だけだ」


 ローボの言葉が十四郎の記憶を弄る。思い出したビアンカの笑顔は、小さく胸をキュンとさせた。ビアンカも忘れていたとは言え、胸の中のモヤモヤがすーっと消える事に安堵の溜息を漏らした。


 十四郎と二人で乗るシルフィーの感覚。それは、ビアンカの霞む記憶の中で確かに経験した事があると、十四郎の背中の温もりが教えていた。背中に顔を埋めたビアンカは、泣きたくなる程の胸の痛みと、ずっと戦い続けた。


___________________________



 アリアンナを先頭に部屋に入った。椅子に掛けたままローベルタは凛とした表情で出迎えた。


「その方は?」


「モネコストロ近衛騎士団のビアンカ殿です」


「そうですか。噂には聞いています」


 紹介するアリアンナから視線を移したローベルタに、ビアンカは小さく会釈した。その可憐で美しい容姿は噂に聞いた最強の女騎士と思えずに、ローベルタは曖昧に笑顔を向けた。


「ビアンカ殿は、その、記憶を無くしているのですが」


「そうですか……ですが、その状態で戦えますか?」


 少し焦ったアリアンナが取り繕うとするが、ローベルタはその視線を追い越してビアンカを見詰めた。


「戦います」


 真っ直ぐに見詰め返すビアンカの返事は前を向いていた。


「良い答えです……それでは魔法使い殿。配下の方々を、お呼び下さい。詳しいお話をお聞きします」


 ローベルタは笑顔でビアンカを見ると、視線を十四郎に向けた。


「すみません。配下などはいません……待ってるのは仲間だけです」


 十四郎が柔らかく答えると、ローベルタも笑顔になった。


「分かりました。お願いします」


______________________



 部屋に来たのはマルコスにロメオ、マリオにリズ。そして、ラナもいた。


「あの狼は?」


 部屋の隅で伏せるローボを、ローベルタは驚きもしないで聞いた。


「ローボ殿も大切な仲間です」


 普通に紹介する十四郎を感心した様にローベルタは見る。


「あの神獣ですか……」


 噂には聞いていた。魔法使いは神獣をも仲間にしていると。一同が揃った所で、ローベルタは話し出した。


「あなた方は平等で平和な世界を作る為に戦っていて、私に助力を求めている。それで、間違いはありませんね」


「はい」


 一同は同様に頷き、代表してマルコスが返事した。だが、ローベルタに見据えられたマルコスは重い口を開く。


「最初 モネコストロの危機を救う事が一番の目的でした……ですが、協力を要請した魔法使い、いえ、十四郎はその先を見据えていたのです。正直、事が大き過ぎて私は懐疑的でした……ですが、一緒に戦っているうちに希望が見え始めました……今は、出来ると信じています」


 正直なココロ、マルコスは包み隠さず話した。


「私もイアタストロアの為に戦って参りました。パルノーバが陥落した際、魔法使い殿に目的を聞かされ、賛同致しました」


 ロメオも口を開く。ローベルタはもう一度皆を見回し、部屋の隅にいるラナに目を向けた。


「あなたは、少し他の方とは違いますね」


 ラナの佇まいで一目で素性を察したローベルタの彗眼に、一同は改めて感服する。ラナは気品あふれる見事なカーテシーで、ローベルタに微笑んだ。


「元、アングリアン第三皇女のラナと申します」


「はて、アングリアンの第三皇女殿下は、お名前が違ったと思いましたが?」


「前の名前は捨てました。今は皆と志を同じく戦っています」


 その凛とした言葉に黙って頷いたローベルタは、マルコスに視線を戻す。


「それでは、具体的な行動はどう言ったものですか?」


「……まずはアルマンニの脅威を廃絶。モネコストロを民主化して模範を作り、その波を他の国に及ぼせればと考えています」


 マルコスの言葉を受けたローベルタは少し考え込み、暫くの間を空けて口を開いた。


「それでは他国は自分で何とかしろ、と言う風に聞こえますね」


「いえ、そんな……私達は……」


 言葉を詰まらせるマルコス。しかし、行動や作戦などがはっきりと決まっていた訳ではなく、自らの詰めの甘さを恥じた。そんな俯くマルコスを感じた十四郎は、静かに話し出した。


「もう一つの案では全ての国を統一して、民主化を推し進めるという案です。それには更に大きな困難と難題が山積します。統制が難しいのです。国には個性があります。個性はその国の国民にも……

国は家です、国民はその家族です……全ての国を従わせるのは難しい、例え統一出来て平和が訪れても国を奪われた遺恨が残ります……癒すには膨大な時間が必要なのです」


「……私もそう思います。一番難しい統一……しかし、その後の方が更に大変なのです」


 ローベルタの言葉に一同は俯いた。希望を叶える為には、並大抵の努力や信念では到底叶わないと。その場の全員が、まるで希望の光を失ったかの様に暗闇に包まれた。


「……でも、やらないと、何も変わらない」


 そんな沈黙をビアンカの言葉が打ち消す。闇は一瞬で晴れ、そこにいる全ての者がビアンカの背中に純白の羽根を見た。十四郎は笑顔になると、ゆっくりと話を続けた。


「私の国は大小様々な国が乱立していました。そして戦いの末、一つの国として生まれ変わりました。そして、各国は県となりました。県とは行政区画、国家が円滑な国家機能を執行するために領土を細分化した区画のことです。私も詳しくはありませんが、ガリレウス殿やロメオ殿、ローベルタ様など知恵者の方を先頭に皆で考え、力を合わせれば必ず出来ると信じています」


 十四郎の言葉は人々に更なる希望を与えた。


「……面白い考えです……不思議ですね。私も、実現出来そうな予感がしてきました」


 ローベルタの言葉は一同を安堵させるが、次の言葉は”鉄の女”を具現化する。


「それでは、見せて頂きましょう。アルマンニとフランクルの最激戦地アールザスの戦いを終わらせて下さい。それが出来たなら、私は協力を約束します」


「……アールザス……」


 マルコスの瞳孔が開く。アールザスは両軍合わせて数千の兵が、今も激戦を繰り広げている最前線だった。総力を集結したフランクルが何とか持ちこたえてはいるが、戦況は極めて不利な場所だった。


「流石は”鉄の女”と言われてるだけの事はある」


 フッと笑みを漏らすローボだったが、アリアンナは大声を上げた。


「そんな、聖守護者を倒せば協力して頂けるのではなかったのですか?!」


「あんな小物を倒しただけで協力を取り付けるだと? 笑わせるな。大陸全体を巻き込む革命への協力だぞ、その対価は巨大なのだ……で、返事は十四郎?」


 鼻で笑いながらローボは十四郎を見た。


「ええ、まぁ、頑張ります」


 何時もの様に頭を掻きながら頷く十四郎に、ローベルタは微笑んだ。他の者も目前の壁に一度ならずココロが折れるが、十四郎の笑顔が優しい魔法を掛けて何とか成るんじゃないかと思えた。


 ただ一人ビアンカだけは、そんな十四郎の背中に不安な表情を向けた……誰にも気付かれない様に。


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