表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
204/347

鉄の女 5

「前に盗賊の女の人がいる!」


 走りながらシルフィーが叫んだ。ビアンカにも近付くにつれ、アリアンナの姿が視界に入った。銀色の鎧に刻まれた牡羊の彫刻が、光を反射してビアンカは目を細める。


「アリアンナ!」


 呼び止めたビアンカの声に、驚いた顔のアリアンナが馬を止めた。


「どうした? 帰って来たのか?」


「十四郎はっ?!」


 止まったアリアンナは唖然と聞くが、ビアンカは大声を上げてストレートに胸の内を投げた。


「今は別の場所に……当然の質問をする。皆に止められはしなかったか?」


 一瞬戸惑う素振りをみせたが、アリアンナはビアンカを見据えた。


「……それは……」


「よく考えた上での行動なんだな?」


 口籠るビアンカに対し、更にアリアンナは言葉を強める。改めて言われたビアンカは言葉を失い俯いた。その様子を暫く見ていたアリアンナは、小さく溜息を漏らすと少し笑った。


「私も、あなたの事は言えない……こうして、駆け付けようとしているのだから……それに剣の腕では、あなたには遠く及ばない」


「あなたも?」


「託すだけは嫌なんだ……見守るだけって言うのも性に合わない。だから、私は行く事にした……”鉄の女”と言われた大お婆様と同じ様に、鉄の意志と信念を持って。そして、十四郎の足手まといには決してならない……その覚悟は出来ている……あなたにも、その覚悟はあるか?」


「覚悟……」


 呟いたビアンカは力強く頷いた。


「場所は見当が付く、付いて来い」


 走り出したアリアンナの後を、ビアンカとシルフィーは追った。走りながら、シルフィーはビアンカに告げた。


「話の内容は大体分かった。ビアンカ! 後戻りは出来ないよっ!」


「はい!」


 ビアンカは大きく返事する。その顔には後悔や恐れは微塵も無かった。


____________________________



「ビアンカ殿は、私の大切な仲間です」


 十四郎は落ち着いた口調でアウレーリアの問いに答えた。


「そうですか……所で、その者達はまだ生きている様です。何故止めを刺さないのですか?」


 首を傾げなら微笑むアウレーリアは、横たわる聖守護者達を見て怪しく笑った。


「これは戦いではありません。命を奪う必要などありません」


「その者達は気が付けば再び、あなたを襲うでしょう」


 剣に手を掛けアウレーリアは呟く様に言う。だが、その顔からは微笑みは消えローボでさえ背筋の凍る表情を浮かべていた。


「何なんだ? この女?」


 唖然と呟くローボを制し、十四郎は言葉を強めた。


「向かって来れば何度でも倒します。ですが、決して命は奪いません。これは、私の信念です」


「信念? 何ですか、それは?」


 剣に手を掛けたまま、アウレーリアは呟く。その顔は戸惑う様にも、笑ってる様にも見えてローボは首を捻った。


「強くココロに決めた、正しいと信じる自分の考えです」


「それなら……」


 その瞬間、アウレーリアは光の速さで聖守護者達に襲い掛かる。ローボは瞬きすら出来ず、ハッとしただけだったが、アウレーリアの剣は寸前で十四郎の刀に押さえられた。


「何故です? 私はこの者達を殺します。それが、私の信念です……あなたに害を成す者は全て私が……」


 激しい鍔迫り合いの最中アウレーリアは静かに呟くが、十四郎が途中で強く言葉を遮った。


「信念は人それぞれです。ですが、アウレーリア殿は間違っています」


 手を伸ばせば触れられる距離で十四郎の言葉を聞いたアウレーリアは、急に力を緩めた。その瞬間が十四郎の油断に繋がる。アウレーリアの剣が緩むと同時に十四郎の刀も緩む、その刹那アウレーリアは剣を返して一番近くの馬番の首に剣を突き立てる。


 ローボにはアウレーリアの剣が馬番の首に刺さったかの様に見えた。だが、実際は十四郎の刀が防いでいた。


「全く、何て奴等だ……この私でさえ見えないとは……」


 唖然と呟くローボは十四郎の凄さは知っているつもりだったが、アウレーリアの剣筋に改めて驚愕した。


「止めて下さい」


 十四郎の声は重かった。


「あなたが言ったのですよ……信念だと」


 ゆっくりと下がったアウレーリアは、穏やかだが凄みのある口調だった。


「聞く耳身持たない様だな」


「狼は口を挟まないで下さい」


 呟くローボをアウレーリアが見詰める。その瞬間ローボは目を見開いた、自分では何時もの様に話したつもりだった……人に伝わる言葉ではなく、狼の言葉で。


「十四郎! その女はっ!……」


 ローボが口を開いた瞬間、アウレーリアの剣が目前に迫る! だが、また十四郎の刀がローボを救った。


「二度と目の前で死なせはしません」


 また鍔迫り合いになると十四郎は声を押し殺した。今度は力を抜かず、アウレーリアは鍔迫り合いのまま薄笑みを浮かべた。


「邪魔をするのですね? 十四郎……」


「はい」


 返事はしたが、十四郎は名前を呼ばれた事の違和感に取り憑かれた。ローボは、その様子を経験した事の無い感覚で見詰めていた。


 どんなに精神が白濁した者でも、ローボには思考や性格を見抜く事が出来た。それは、人でも獣でも、例え魔物でも……だが、アウレーリアの全てがまるで霧に覆われている様に霞んでんいた。


「あなたの名前、アインスから聞いたんですよ……そして、あなたの目を見えなくした罰も与えました」


「命を奪ったのですか?」


 静かに話すアウレーリアに向かい、十四郎は更に声を押し殺した。


「いいえ、名前を教えてくれましたから」


 そのアウレーリアの微笑みは、ローボでさえ背筋に氷を突き立てた。


_________________________



「なっ、何の用だ……」


 突然現れたアウレーリアに、アインスの思考と体が固まった。


「あなたは、あの人の命を狙っていると聞きました」


「……」


 微笑みを浮かべてはいるが、圧倒的威圧感にアインスの口は開かない。


「分かっていますね?」


 その穏やかだが胸を貫く言葉に、アインスは”死”を覚悟するしか出来なかった。そこに丁度、ツヴァイやフィーア達が部屋に入って来た。


「何をしているっ!」


 青銅騎士に成り立てでアウレーリアとは面識の無いツヴァイが叫び、フィーアやフェンフが瞬時に剣に手を掛けた。


「止めっ……」


 アインスの言葉が終わらないうちに、三人は血飛沫を上げ床に倒れた。青銅騎士が剣を抜く暇さえなく、即死だった。部屋中を覆う血の臭いと、一面を覆い尽くす真っ赤な視界……アインスは嫌いではない筈の臭いに咽た。


 そして、あれだけの血飛沫なのにアウレーリアは全く返り血を浴びてなくて、その美しい顔は微笑んだままだった。


「アインス。あの人の名前を教えて下さい。そして、二度と狙わないと約束して下さい。そうすれば、今度だけは許します」


 近付いて来るアウレーリアは、天使の様な微笑みを向けた。アインスに選択肢など存在しない、思考停止した脳は口元から言葉を零した。


「……十四郎……」


 その瞬間、アウレーリアは剣を横薙ぎにした……アインスが最後に見たのはアウレーリアの身も凍る微笑みだった。だが、その視界は一瞬で暗黒に変わる。


「……目が……」


 目元を触ると暖かい液体に触れ、かなりの時間が過ぎた時アインスは悟った……”生きていると”……そして、十四郎と同じになったと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ