表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
2/347

心配御無用

「ここよ」

 

 街を少し外れ潮風が横切る道を歩くと、海に面した小さな白い家があった。何故か暖かい雰囲気が十四郎を包む、中に入ると母親が出迎えた。


「私はケイトです、ようこそ」


「初めまして、柏木十四郎です」

 

 背筋を伸ばした十四郎は、メグが成人した姿を簡単に想像出来た。三十代後半か、ケイトはとても美しく、上品な雰囲気に包まれていた。しかし、十四郎を見た瞬間、一瞬ケイトの瞳が微かに揺れた。


「ママ、今日は泊めてあげて」


「もちろん、いいわよ」


「十四郎ね、魔法使いなんだよ。アミラの言葉が分かるの」


「そう、凄いわね」


 抱き付くメグを、ケイトは優しく抱き返す。簡単に信じるのか? と、十四郎は首を捻るが、子供の言葉を大事にするんだと妙に納得をしたのは、限り無いケイトの微笑みだと、確かに感じる事が出来た。


「さあ、どうぞ。丁度、食事の支度が出来たところです」


 クリーミーなスープに柔らかそうなパン、グラスに注がれたワインに十四郎は戸惑ったが、メグがスプーンでスープを飲むのを真似してみた。重なる味のハーモニー、味噌汁や他の汁物とは明らかに違う味に、思わず笑顔になる。


 パンもほのか甘さが口の中に広がり、前に食べたカステラが記憶に蘇った。口当たりのいいワインは穏やかに喉を刺激し、程良いアルコールは食欲を増進させた。


「いかがですか?」


「こんな美味しい物、初めてです」


 微笑むケイトに、十四郎は満面の笑顔で答えた。メグは興奮気味に昼間の出来ごとを身ぶり手ぶりで話し、ケイトは優しい笑顔でそれを聞いていた。


 日本での食事にも家族の笑顔はあったが、あまりの明るさに十四郎は少し戸惑った。


 だが、胸の奥がワクワクドキドキし、そして喜びや楽しさが溢れ出すこの感覚は、受け入れるのは簡単だと静かに思った。


 寝室にも十四郎は驚く。ベットなんて初めてだし、西洋の部屋の作りが精神の興奮を促した。しかし、ベットは柔らかく包み込み簡単に眠りに誘うが、直ぐに眠りに落ちそうになる瞬間、アミラの声がした。


「アンタ、事態を分かってる?」


「大体は……」


 予想は簡単だった。


「今日アンタがブッ飛ばしたのは城の兵隊だ」


「そうですね」


 落ち着いた十四郎の対応に、アミラは少し戸惑う。せっかく危機を教えようと来たのに、意図した反応の無い事が不思議な感覚となった。尻の座りの悪い感覚を変える為、切り口を少し変える。


「ケイトがアンタを見た時、少し驚いたろ」


「ええ」


 確かにケイトの瞳は十四朗を見て不自然に揺らいだ。嬉しさ? 驚き? 言い表しにくい揺らめきだと十四郎は思った。


「メグの兄、ダニーは二年前家を出た。同じ様な年格好だから、危険を承知でアンタを泊めたのさ……この部屋はダニーの部屋だ」


「ダニー殿は、お幾つですか?」


「アンタと同じ位だ、十七だった」


「私は今年で二十七ですが」


「うっそ……どう見ても子供じゃないか」


 平然と言う十四郎に、アミラは尻尾を膨らませ目を点にした。肌の色艶、優しい面持ち、どう見ても若く見える十四郎にアミラの思考は更に混乱した。


「それより、アミラ殿。明日、お城への案内をお願いしたいのですが?」


「どういう事だ?」


 十四郎の方から混乱の糸口を差し出され、アミラは息を飲んだ。


「私はもう、この家に来てしまった。直ぐに出て行っても、事態は変わらないでしょう。ならば危険の根を断ちます」


「そうか……」


 少し俯いたアミラは、それ以上何も言わなかった……。


__________________



 早朝の門番は、十四郎の姿に驚きの表情を見せる。噂は既に城の内外に広まっており、簡単に城内に入る事が出来た。


「アミラ殿、ありがとうございました。それでは……」


 一例した十四郎が兵士に囲まれ城内に入る。アミラは小さな溜息の後、付いて入った。


「猫、付いてくぞ?」


「見るな、魔法使いの僕やもしれん。触らぬ神になんとやらだ……」


 二人の門番は、アミラの背中を見て見ないフリをした。通された中庭は広く、芝生が一面を覆っていた。十四郎はその真ん中辺りに正座し、刀を腰から外し刃を内側にして右側に置いた。


 暫くすると、銀色の甲冑を身にまとい、長躯の騎士が大勢の配下と共に現れる。その中には十四郎に倒された兵士達も、包帯などを巻いて後方で睨んでいた。


 撫で上げた銀髪に威厳のある髭、豪胆な様相の騎士が低い声で言った。


「近衛騎士団、団長のザイン・フット・ゼルゲンスだ。御要件を伺おう」


 十四郎はザインの目を見据え、深々と頭を下げた。


「先日の御配下に対する非礼、誠に申し訳なく、お詫びに参上致しました」


「ほう……ならば、その詫びとは?」


 ニヤリとするザインは、十四郎を見降ろした。


「どうぞ、そちらの御自由に」


「自由にとは? 首を刎ねててもよいと?」


「はい」


 アミラが全身の毛を逆立たせ、十四郎に駆け寄る。


「アンタ、気は確かかっ! こいつ等、本当にやるぞ!」


「その様ですね」


 周囲の兵士は十四郎に対し、敵愾心丸出しの視線を投げ付けていた。


「どうしてそこまでするんだ?!」


 アミラには焦った、十四郎の真意が分からない。とにかく謝り、どんな醜態を晒しても許しを乞うんじゃないかと鷹を括っていた。しかし、十四郎の目は真剣に命を差し出そうとしている。


「メグ殿、ケイト殿には一宿一飯の恩義がありますから」


落ち着いた声の十四郎に、アミラは声を上げた。


「たった一日だぞ、何考えてるんだ?!」


「はぁ」


 十四郎は頭を掻く、その様子からは魂胆も計算も感じられない。アミラは十四郎の溜息にも似た返事に衝撃を受け、言葉を失う。その様子を見ていたザインは、更にニヤリとした。


「動物の言葉が分かると言うのは、真か?」


「はい、何故かは分かりませんが」


「何を話した?」


 十四郎は正直にアミラとの会話を話す。ザインは訝しげな表情になる。


「……私も、その猫と同感だ。唯の一日、会ったばかりの者の為に死にに来るとは……」


「どうか私の命と引き換えに、メグ殿、ケイト殿を、なにとぞ御容赦頂きたい」


 十四郎は再び深く頭を下げた。暫く考えたザインは、十四郎に強い視線を送った。


「……その言葉、偽りは無いか?」


「はい」


 十四郎は、はっきりと澄んだ声で答える。何故か? ザインは何度自問しても答えは見つからない。そしてまた暫く考え、ある試みを思い付く。


「我が兵士を倒した腕前、聞き及んだ。動物と話す所も見た、どうだ? 我が騎士団最強の騎士と戦ってみる気はないか?」


「二人を御容赦頂けるなら」


 即答した十四郎は、刀を左手に持つと立ち上がった。傍のアミラは、驚いた顔で十四郎を見上げた。


「最初から、そのつもりだったのか?」


「いえ、成り行きです」


 十四郎は少し笑ったが、アミラにはその真意など分かるはずは無かった。


「アンタ、詰めが甘いよ。近衛騎士団最強は……ビアンカ・マリア・スフォルツア」


 横から深紅に輝く鎧をまとった女が出て来る。二十歳前後か、長い睫毛と神秘的な濃い青の瞳、限りない純白の肌、太陽さえ身に纏う透き通るプラチナブロンドが中庭に降臨した。


 腰に輝く宝石の様な剣と、鎧の左肩に彫られた双頭竜の紋章が煌めきながら周囲の視線を引き摺る。


 その美しさとは反比例する様なアミラの震えに、視線を落とした十四郎は穏やかに言った。


「心配御無用です」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ