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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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旅の途中

 ビアンカと共にリズは一旦モネコストロに戻った。護衛にはツヴァイ達三人の青銅騎士が付き、他の者はイタストロア領内に残る事になり、アリアンナの隠れ家で付け焼刃だがパルノーバの兵達の訓練を行う事にしたのだった。


 マルコスやココはアルマンニの動向を探りに出かけ、ロメオは更なる協力者を求め一行の元を離れていた。


 そして、訓練は剣の戦闘をマリオが指揮し、槍はバンスが担当して弓はリル? が行っていた。訓練にはフォトナーの部下や、ダニー達も参加していた。


「お前は帰らなくてよかったのか?」


 訓練を見守る十四郎を見上げローボは静かに呟き、十四郎は穏やかな微笑みで返答した。


「私は……」


 言葉を詰まらせる十四郎に向かい、ローボはキラリと牙を見せた。その顔は笑ってる様にも見えて、十四郎のココロをそっと包み込む。


「他人の希望の為に動くと言う事は、結局は自己満足だ」


「手厳しいですね」


 あまりにもストレートなローボの言葉に、十四郎は苦笑いした。


「気を張るな。お前らしくすれば、それでいい」


「自分らしくって、どう言う事なんですかね?」


 ローボは十四郎を穏やかに見詰め、十四郎は漆黒の視界の中に一筋の光を求めた。


「今のままでいいんだよ」


 視線を遠くに向けたローボは独り言の様に呟き、十四郎は大きく深呼吸して胸の奥に渦巻く不安を一掃した。そして、ローボに向い微笑み掛けた。


「ローボ殿も一旦帰った方が……ブランカ殿も心配しているのでは?」


「何を言ってる……ルーを帰らせたから大丈夫だ……それより、剣術の指南はいいのか?」


 急に視線を逸らせたローボは少し声を上ずらせ、十四郎は狼狽するローボの事を何故か”人”に近い存在だと思った。


「十四郎殿、お願いしたいのだが」


 そこにマリオが絶妙のタイミングでやって来た。


「分かりました」


 後に付いて行く十四郎の背中を、ローボは不思議な気持ちで見送りながら呟いた。


「本当に不思議な男だ……」


 多くの人々の希望と期待を一身に背負い、それが”夢”に近くても十四郎なら遣り遂げそうな気がする……ローボ自身も、一欠けらの疑いも無く十四郎の事を見ていた。


_________________________



「それだけですか?」


 呆れた様に声を上げるマリオが十四郎を唖然と見た。十四郎が指示したのは素振りで、疲れて剣が持てなくなるまで、と言う事だけだった。


「はい」


 普通に返事する十四郎を、マリオは怪訝な顔で見詰める。


「素振りで強くなるなら苦労しない……」


 小声で呟くマリオの横でアリアンナは他人事みたいに言った。


「十四郎は兵を強くする気はない」


「それでは直ぐに全滅だ。特にパルノーバの兵は練度が低い」


 マリオは声を落とし、ぎこちなく素振りをする兵を見詰めた。


「身を守る剣だ……十四郎が兵に教えたいのはな」


 腕組みしたアリアンナは、また平然と言う。


「分かるが……それでは戦えない」


 納得出来ないマリオは十四郎の背中に視線を移した。


「あいつは一人で戦うつもりさ……味方の犠牲を出さない為に」


「そんな、幾ら十四郎殿でも無理だ」


 思わず声を上げるマリオに向かいアリアンナは静かに言う、炎の様な瞳で。


「魔法使いを信じてないのか?」


「あなたこそ、信じているのか?」


 愕然と見返すマリオに向かい、アリアンナは静かに言った。


「強さだけで魔法使いを信じている訳ではない……私は父親を憎んでいた……この手で殺したいくらいに……だが、十四郎の魔法で、私は……父親を許す事が出来た……今でも信じられないが……」


 マリオの中で何かが弾け、確かに一筋の光が見えた。そして、もう一度見た十四郎の背中は、とても穏やかで優しかった。アリアンナは、少し俯き加減の顔を上げると更に続けた。


「私だけではない。青銅騎士達も、銀の双弓も、姫様や坊や達、モネコストロの騎士やマルコス殿……そして、あのビアンカも……皆、十四郎の魔法に掛かってるのさ」


「分かる気がする……」


 呟くマリオをアリアンナは強い視線で見る。


「だがな、本当は十四郎は強くはない。勿論剣は敵無しだが、ココロは誰より弱い……それを助けるのは……」


「お前達精鋭が十四郎の背中を守れ。十四郎を死なせない様に……私は決して十四郎を死なせはしない……その為なら、どんな犠牲も厭わない。お前達も夢を叶えたいのなら、十四郎に命を捧げろ……フッ……」


 近付いて来たローボは途中でアリアンナの言葉を遮り、微笑みを漏らした。マリオは決意の目でローボを見た。


「元よりそのつもりだ」


「すまない……つい十四郎の一番嫌いな事を言った」


 笑みを浮かべたまま、ローボもまた十四郎の背中を目で追った。


「一番嫌いな事……」


「そうだ。仲間の命が失われる事、そして自分の為に仲間が命を懸ける事だ」


 言葉の余韻がマリオの胸を締め付ける。遠くで一生懸命指南する十四郎の背中が二重に見えた。


「戦が始まれば、私は十四郎殿の背中を守る……当然、十四郎殿も死なせないし、私も死なない」


「……そうか」


 決意した様なマリオの言葉を聞いてローボは静かに頷き、アリアンナも穏やかな瞳で十四郎を見詰めた。戦いはやっと入口に差し掛かった所だった。その終着は全く見当も付かずに分かっているのは、想像を絶する困難が待ち受けてる事だった。


 不安は大きな塊となり、皆の胸の中で次第に影を濃くした。だが、その黒い塊がそれ以上大きくならないのは、遠くに見える十四郎の存在だと誰もが口に出さずとも胸に抱いていた。


 本来なら考える間もなく諦める困難な事……でも、十四郎の”魔法”で皆は諦め方さえ忘れていた。


「どうしてかな?……皆、十四郎に付いて行く……」


 訓練を見守りながら、ラナは独り言みたいに呟いた。


「ラナ様が、一番お分かりだと思いますが」


 横に控えるランスローの言葉に、ラナはそっと頬を染めた。


_____________________



「陛下、どうなされますか?」


 大広間で大司教フェリペが、玉座に座る国王エイブラハム聞いた。


「本当にパルノーバを落とすとはな……アレックスはどうしておる?」


「はっ、精鋭でパルノーバの守備を固めております」


「出城を増やせ。パルノーバ周辺を要塞地帯にするのだ」


 首を垂れるフェリペに向かい、エイブラハムは不敵に笑った。


「約束は守る。パルノーバを中心にイアタストロアを牽制すれば、嫌が応でも兵力を分散しなければならない……十分、モネコストロへの援護になる」


「態勢が動けば、イタストロアに侵攻するのですね」


 直ぐに察したフェリペも妖しく、口元だけで笑った


「形勢は逆転だ。今はイタストロアの喉元には、我が剣が突き付けられている」


 笑みを浮かべるエイブラハムは言葉とは裏腹に、胸の奥底の揺れを隠していた。それは紛れもなく、十四郎に対する畏怖に近いものだった。


____________________



 ビアンカ達はアリアンナの手下の案内で、安全且つ迅速にイタストロア領内を移動して、あっと言う間にモネコストロに近付いた。


「流石はシルフィー、他の馬が付いて行けません」


 ツヴァイは全く疲れの見えないシルフィーに閉口した。


「シルフィーは凄いですね。ねぇ、シルフィー疲れてないの?」


 シルフィーの首筋を撫ぜ、ビアンカは微笑んだ。


「大丈夫、全然疲れてないよ。それより、ビアンカこそ大丈夫?」


 逆にシルフィーはビアンカを気遣った。


「私は平気……ありがと、シルフィー」


 そんな他愛も無い会話が、シルフィーのココロを優しく包む。


「皆さん、少し休憩しましょう」


 ビアンカは他の馬への気遣いを見せた。


「まだ敵地です! 少しでも早くモネコストロに着かなければなりません!」


 真剣さを通り過ごし、ツヴァイは物凄い勢いだった。


「休まれたいのなら、私が偵察に出ます!」


 今度は同じ様な勢いでゼクスが走り去った。


「ツヴァイ、前方を任せる。私は後方を見てくる」


 ノインツェーンも剣に手を掛け走り出そうとした。心配顔のビアンカはノインツェーンの腕を取った。


「待って下さい。皆さんは出発してから少しも休んでないじゃないですか。少しは……」


「心配は御無用です。我等はビアンカ様を命に代えてお守り……」


「ツヴァイ!!」


 ビアンカも声を遮りツヴァイが言うが、更にノインツェーンがその言葉を遮った。周囲を沈黙が支配する。場を収めようとリズがノインツェーンに近付くが、その前にビアンカが口を開いた……俯き拳を握るツヴァイに向かって。


「どうしてですか?」


「私は……ビアンカ様を……」


 絹の様に優しいビアンカの言葉がツヴァイの胸を強く掴んだ。


「あなたは悪くありません……」


 たった、その一言がツヴァイを救った。


「……全く、ビアンカ様には敵わないな」


 血の気を取り戻したツヴァイの顔を見ながらノインツェーンは笑うが、リズはほんの少し胸の片隅に痛みを感じた。その痛みは多分、十四郎に繋がってるのだろうとリズもまた少しだけ笑った。


_____________________



 十四郎はアルフィンと共に息抜きの散歩に出ていた。


「アルフィン殿……」


「何? 十四郎」


「この先で誰かが……」


「本当に見えないんだよね?」


 少し呆れた様にアルフィンは鼻を鳴らすが、十四郎の手綱に従い走り出す。


「十四郎! 女の人が盗賊に囲まれてる! すっごい美人、ビアンカに引けはとらないよ」


 驚くアルフィンの視線には、天使さえ道を譲りそうな美しい女がいた。だが、盗賊に取り囲まれているのに、その女は微笑んでいた。まるで、本物の天使の様に。


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