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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 35

「今度は最初から本気で来てもらいたいものだな」


 改めて十四郎と正対したマリオは声に出すが、内心は違っていた。十四郎の構えは正眼で、前と変わらないが、放つ”殺気”はマリオの背筋に氷を押し付け、初めの十四郎との戦いでヒビの入った肋骨が急に痛み出す。


『痛みなど忘れていたのにな……』


 ココロの呟きは”恐怖”に繋がっていた。しかも十四郎は構えた刀を収め、鯉口を切ったまま低い態勢を取った。


「ほう、最後はバットウジュツか……」


 呟くローボはニヤリと笑うが、ルーは不思議そうに聞き返す。


「父上、十四郎はあんな構えでどうするのですか?」


「お前は見た事はなかったな……よく見てろ、神の御業を……」


 聞いた事の無いローボの声に、ルーは息を飲んだ。


「十四郎……何だか怖い……」


 何故か見覚えのある構えだったが、ビアンカは悪寒に包まれる。


「目を見開いて見ろ。記憶を弄れ、あの技を知ってるはずだ……あの技は、お前の人生を変えた業だ。そして、お前の一番大切な記憶だ……人は忘れる生き物だ。だが、決して忘れてはならないモノがある……思い出すんだ。あれは、お前の全てだ」


 今度はビアンカに対し、ローボは声を尖らせた。記憶の彼方に霞む構え、確かに見覚えのる”気”がした。それは胸の高鳴りを呼び、ビアンカは思わず息を飲んで十四郎を見詰めるが、違和感の様な感覚を拭いきれなかった。


 そして、脳裏でローボの声が何度もリフレインする”お前の人生を変えた”と……。


「ローボ……でも、何時もの十四郎じゃないみたい……」


 思わず口を出る言葉。ビアンカは自分の事より、十四郎の方が心配だった。大きな溜息の後、ローボは言葉を続けた。


「フゥ……前にお前が盗賊に襲われた時、十四郎は盗賊達の腕を砕いた……二度と剣が握れない様に……アイツらしくない”強い仕打ち”だ……何故だと思う?」


「えっ?……」


 盗賊に襲われた記憶には無いが、前に誰かに聞いた事のある様な不思議なシチュエーション。その瞬間、リズの顔がフラッシュバックして、ローボの言葉が続いた。


「お前だからだ……お前だからだこそ、十四郎は普段の冷静さを失う」


「……」


 言葉なんて出ない。だが、胸を締め付けられる痛みは決して不快ではなくて、むしろ衝撃と同義な感覚で、身体全体を包み込む嬉しさに包まれた。


_____________________



 マリオは戸惑う。十四郎が刀を収めた途端に悪い予感が手足を縛った。それは敗北の予感とリンクして、更にマリオを追い詰める。


 十四郎は小さく息を吐くと、前に出た。その速さは目で追う事さえ出来ず、マリオが剣を動かす前に十四郎は通り過ぎていた。反応出来なかった事に腹立つより先に、マリオの意識は彼方へと飛んだ。


 振り返る十四郎は、複雑な顔でビアンカの方を見た。その瞬間、稲妻がビアンカを襲い考える前に十四郎に駆け寄り抱き締めた。


 だが、見守っていたロメオは部下の騒めきを押さえる為に号令を掛けた。


「取り囲め! 相手は一人だ! イタストロア騎士の誇りを見せろ!」


 十四郎はその声に呼応し、ビアンカを守る様に自分の後ろに下げる。言葉など無くても、ビアンカには伝わる……十四郎の暖かい”気持ちが”。


 だが、騒めき立つロメオの配下達の前にはローボが立ち塞がり低く太い声で叫んだ。


「選べ! お前達を閑職に追いやった国に忠義を尽くすか? それとも、新しい世界を造る為に共に戦うか?」


 その言葉はロメオの深層を突いた。前に出ようとするナダルを静かに制すると、十四郎に向き直る。


「我等を仲間に向かえると言うのか?」


「ローボ殿……」


 困惑する十四郎は、ローボの背中に声を曲げる。振り向いたローボは、強い視線で十四郎を見返した。


「目的を果たす為に、この者達を全滅させる方がいいのか?」


「それは……」


「十四郎……ローボの言う通り……あの人は既に決めている」


 ビアンカは十四郎の耳元で囁いた。見えない十四郎にはロメオの表情は分からなかったが、確かにロメオの顔は決意に満ちていた。


 そこに正門からアリアンナを先頭に、味方が傾れ込んで来た。まるで全ての経緯を知ってる様に、馬上からアリアンナは叫んだ。


「老兵でも使い道はある! 弓の腕を磨き、槍の鍛錬をすればいい! 剣など大規模な実戦では不要だ! 無理に白兵戦などしなくていい! 数と戦略さえあれば、勝機はある……アンタもそう思うよな」


「……お前は確か……」


 話を向けられたロメオは、改めてアリアンナを見た。噂に聞く女盗賊が何故魔法使いと行動を共にするのか? そして、青銅騎士や銀の双弓、神獣ローボまでもが……。ロメオは混乱する思考を整理しようとするが、今度はリルの怒声を受けた。


「お前自身の問題だ! 下手なプライドなんか犬にでも食わせてやれ!」


「おいおい……」


 呆れたノインツェーンが押さえようとするが、リルの鼻息は荒い。


「何故だ? 何故お前達は魔法使いに従う? 自分達の夢や理想を叶える為か?」


「……そんなモン関係ない……好きだからに決まってる……」


 急に消えそうな声でリルが呟くと、今度はノインツェーンが興奮した。


「お前ズルイぞっ! こんな時に! 私だって十四郎様をお慕いしてるんだからなっ!」


「お前ら……」


「いい加減にしろ、場所をわきまえろ」


 呆れ顔のココがが二人を宥めゼクスが間に入るが、二人は火花を散らして睨み合う。


「こいつらと”好き”言う意味は少し違いますが、我等全員が十四郎様の事が好きなのです。従う理由は、他に必要ですか?」


 ツヴァイはリルやノインツェーンを横目で見ながら、ロメオに対して襟を正した。


「……そうか」


 急にロメオのココロが軽くなる。騒がしいリルやノインツェーン、堂々としたツヴァイ、戦略眼のあるアリアンナ。皆が従う理由が”好き”……それは、一番単純だが一番大切な事。改めて見る十四郎は、困惑した表情でそわそわして、脇のビアンカは十四郎に寄り添う様に心配顔を向けていた。


「分かった様だな」


「あなたも、同じですか?」


 視線を向けるローボに対し、ロメオは少し笑った。


「まっ、まぁ……そい言う事だ」


 急に照れた様に顔を背けたローボを見たロメオは、部下達に号令を掛けた。


「我等も魔法使い殿と共に戦う! 信じる者は私に従え! 共に新しい世界を造るのだ!」


 一瞬唖然とした部下達は、少しの間を空けて次々に呼応した。ナダルも最初は周囲の賛同を驚いて見ていたが、最後には歓声の輪に入った。それは、とても自然で気持ちの良い事で、ナダルは大きく深呼吸すると全身の血が入れ替わった様な清々しさを感じた。


「ありがとうございます」


 深々と頭を下げる十四郎に、ロメオはとても穏やかな表情を向けた。


「やはりあなたは、本物の魔法使いですね」



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