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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 34

 超速のマリオの剣を、ビアンカは対等に防いでいた。だが、一見互角の戦いもローボの目には優劣がはっきりと見え始めていた。


「速さは互角……だが、決定的な違いがある」


 呟きながら横目で見た十四郎は、見えない目で一点を凝視していた。


「はい。分かってます」


 小さく呟く十四郎は、鯉口を切ったままの態勢で下半身に力を込めた。


「もうすぐビアンカの体力は限界を迎える……それは覆せない現実だ……お前、分かってるのか? 出れば敵からは卑怯者と蔑まわれ、味方からは裏切り者の烙印を押される。全ての計画は水泡に消え、お前は挽回する為に残る敵兵二千以上と戦う事になる」


 ローボは諭す様に語るが、十四郎の決意などお見通しだった。


「何と言われても構いません。ビアンカ殿は命に代えても守ります」


 迷いなど微塵も無い声、ローボは溜息交じりに言った。


「敵兵はどうする? 如何にお前でも数が多すぎる」


「何とかします……」


 十四郎はビアンカの戦いから瞬間も気を逸らさず呟く。


「何とかって、お前……」


 ローボは、また大きな溜息を付いた。


「我らが加勢したとしても、この人数だ。手加減すれば手下も危うい、本気で行くしかないぞ」


 ルーは取り囲む敵兵を睨んで牙を光らせた。普通なら反論するだろう十四郎は黙ったまま、頷きもしなかった。


___________________



「ビアンカ様が敵の騎士長マリオと戦ってます!」


「十四郎は何をしてるっ?!」


 偵察から戻ったココの報告に、マルコスは大声を上げた。


「それが、その、見ているだけで……」


 十四郎の様子に違和感を感じつつも、ココは事実を告げた。


「何だとっ!」


「きっと、訳があるんです……でも、十四郎様は必ずビアンカを守ります」


 興奮するマルコスを余所に、リズは落ち着いた声で言った。


「交渉に応じない敵を、あの女騎士が動かしたのか……多分、手出し無用の一騎打ち……十四郎が助けに入った時点で交渉は決裂か……」


 的確な分析でアリアンナは腕組みするが、今度はラナが顔色を変える。


「リズの言う通り……十四郎は必ず助ける」


「何を落ち着いいているんです? 早くビアンカ殿を助けに行かないと!」


 焦るランスローは走り出そうとするが、ラナはその腕を取った。


「大丈夫、ビアンカは大丈夫……十四郎が付いているから」


「十四郎様は、ビアンカ様も国も両方助けます!」


「そんなの決まってる! あの人を誰だと思ってるの?」


 ツヴァイは急に大声を上げ、ノインツェーンも直ぐに同調して声を上げた。ゼクスは何も言わないが大きく頷いていた。


「何故だ? 私もビアンカ殿を助けたいが国の存亡が懸かってるんだぞ! どうしてそこまで信じられる?」


 今度はツヴァイ達に向けランスローは声を荒げるが、その理由は分かる様な気がした。


「十四郎様は必ずビアンカ様を助けます。ならば、我らはその手助けをするだけです」


「一騎打ちのルールを破った時点で交渉は破断。残る道は敵兵の殲滅のみ」


 剣に手を添えるツヴァイの横で、ゼクスもまた剣に手を掛けた。


「あんたらは残りな。行くのは私達だけでいい」


 ノインツェーンはラナやリズを見て、穏やかに言った。


「アタシも行く。文句は言わせない」


 リルはノインツェーンを睨み、ココはツヴァイに目配せをした。


「案内するよ、砦に忍び込む道は見付けたからな」


「頼む」


 ツヴァイは直ぐに頷き、ノインツェーンも苦笑いでリルを見る。


「中に入ったら正門を開けろ、私と騎士団で正面から行く」


 アリアンナはフォトナーの部下達を見ながら言った。


「すまない……」


 頭を下げるマルコスに向かい、アリアンナ真顔で言い放った。


「私も見てみたいのだよ。結末を……」


_______________________



 ビアンカの体力は急激に消耗していた。あれ程軽かった刀は鉛の様に重く、マリオの剣を受ける度に全身に電撃を受けた様な衝撃が走る。美しい顔は苦痛に歪み、気を抜けば意識など彼方に飛んで行きそうだった。


 自分でも”終わり”が分かる。動かなくなる手足が、無言でビアンカの意識を暗い闇の方にに引きずった。


 打ち込み続けるマリオは、ビアンカの動きを敏感に察知していた。手応えは加速的に増し、受ける力が弱くなるのを全身で感じる。


『潮時だな……痛みさえ感じない様に……』


 心で呟いたマリオは、最後の一撃を一旦引いてから今度は声に出して予告する。


「あなたの体力は尽きかけている。これで、最後にします」


 剣を最上段に構え、マリオは横目で十四郎を見た。


「ほう……わざわざ言うか?」


 ローボにはマリオの意図が分かっていて十四郎を見る。だが、小刻みに震える十四郎は動けないでいた。


「お前は既に決めているんだろ?」


 ローボが呟くと同時にマリオが剣を振り下ろす! だがその剣はビアンカに届く寸前に火花を散らして空中に弾き返された。


「十四郎……」


 肩で息をするビアンカの前に、マリオから守る様に十四郎が立ち塞がった。


「ご無礼……これより、助太刀致します」


 十四郎はマリオに正対して、刀を構えた。


「禁忌を犯すつもりか!? 一騎打ちだぞ!!」


「よせ……」


 直ぐ様ナダルが叫ぶが、ロメオは静かに制した。


「全ての汚名を受けても、その女を守るのか?」


 剣を降ろしたマリオが十四郎の決意を聞くように声を上げると、十四郎は黙って頷いた。


「十四郎! お願い引いて! あなたは……」


「ビアンカ殿……あなたを失う訳にはいかないのです」


 声を押し殺し十四郎は背中で呟くが、ビアンカは自分の為に十四郎が汚名を着せられるのには耐えられなくて声を上げ、マリオに向かおうとした。


「十四郎を卑怯者にはしないっ!」


「もういい……」


 ビアンカの背中を咥え、ローボは後ろに下がる。


「放してローボ! 私は!」


「十四郎の気持ちを分かってやれ……」


「お前は、よく頑張った……十四郎は分かってる」


 ローボは穏やかに呟き、ルーも優しい声をビアンカに掛ける。ビアンカは溢れる涙を拭って十四郎の背中を見る。その背中は、とても大きく見えて自分をあらゆる苦難から守っている様に見えた。


 そして、ビアンカの崩れそうなココロを癒す様に包み込んだ。


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