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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 33

「お前、見てていいのか?」


 十四郎の背中に声を掛けたローボは、そのまま十四郎の様子を見て少し笑った。鯉口を切って膝を曲げ、脚は滑らない様に地面に押し付けて飛び出す態勢は万全だった。


「間に合うのか?」


「間に合わせます」


 わざと聞くローボに対し、十四郎は強く決意を示す声で言う。一瞬たりともビアンカから目を離さず、その時に備えていた。その集中は凄まじく、身体全体から燃える様な闘気が揺れていた。


「そこまで心配なら、自分で……」


 ローボは途中で言葉を止める。目前で死力を尽くすビアンカと、それを命懸けで見守る十四郎の姿に小さく溜息を付く。


「父上、いざとなれば私も行きます。瞬発力なら十四郎にも引けは取りません」


 興奮気味のルーは、高速で戦うビアンカの動きを目で追いながら呟く。


「どうした? 人と人との戦いだ。何故お前が出るのだ?」


 分かってはいたが、敢えてローボは聞いた。


「それは……その、何と言うか……」


「安心しろ。十四郎はどんな事をしても、ビアンカを守る」


 口籠るルーに対し、ローボは自信に満ちた声で言った。


「しかし、父上……どうして、そこまで十四郎を信じるのですか?」


「……さあな」


 もう一度十四郎の背中に視線を向けたローボは、穏やかな笑みを漏らした。


____________________



『どうすれば……』


 言葉では分かっても、ビアンカには相手の剣を切るイメージが湧かなかった。相手の剣を受けるのが精一杯で、剣を斬るどころか反撃さえままならなかった。


 それに、マリオの剣は次第に速さを増す。問題無く受けていた二の太刀の受けが遅れ始め、三の太刀、四の太刀と受ける間合いがギリギリになった。


 受け流しているはずなのに、刀を持つ手が痺れ始める。マリオの剣の風圧を避けきれずに斬られた髪が、宙を舞った。


『ビアンカ殿、相手は更に速度を増します。上半身だけでなく、下半身も使って回避を……』


 暖かくて、切ない様な声……一瞬振り向くと、そこには十四郎の心配顔があった。


『戦ってるのは私なのに……なんて、情けない顔……』


 十四郎の表情は、追い詰められたビアンカを救った。十四郎を戦わせたくない……これ以上、苦しめたくない。ビアンカは改めてマリオと戦う意味を思い出す。それは、自分に出来る精一杯。だが、もしも自分が負ければ……十四郎は……。


『でも……何でだろ?……そして、何だろ……胸の奥が焼けそうに熱いのは……』


 戦いの最中なのに、勝つ事への道筋の欠片さえ見えないのに、何故かビアンカは落ち着いていられた。振り向けば、そこに心配そうで泣きそうな顔をした十四郎がいる……たった、それだけなのに。


 そんな事を考えるビアンカの脳裏に、照れ笑いの十四郎の顔が大写しになった。その瞬間、気持ちの中で何かが弾けた。


『……きっと、私……誰よりも、何よりも十四郎が大切で……大好きなんだ……』


 心の声は、きっとそうだとビアンカに語り掛けた。


「何故だ?」


 マリオは急に速さに対応して来たビアンカに、思わず呟く。自分は次第に速さを上げた、もう少しで十四郎と戦った時と同じ、最速まで行く。なのにビアンカは、その極限の速さにさえ対応して来ている。


 確かにモネコストロ近衛騎士団のヘッドナイト。相手にとって不足はないが、今のビアンカは記憶を無くし、本来の得意技さえ使えていない。それどころか、受け流す事で精一杯で反撃の余裕さえ無いはず……。


「うっ!」


 マリオはビアンカ越しに、物凄い”気”を感じ取った。そこには、刀に手を掛け闘気を昂らせる十四郎の姿があった。


『見えないはずなのに、なんて顔で睨んでるんだ……』


 呟いたマリオは、ハッとした。一瞬で脳裏に故郷の恋人の顔が浮かぶ。出世して、迎えに行くとの自分の言葉を信じて待っている泣きそうな顔……。


「私なら、愛する人を戦わせたりしない」


 剣を止めたマリオは、ビアンカを真っ直ぐに見る。視界の先では、ビアンカと恋人が重なっていた。


「記憶を無くした私は、前の事は分からない……でも、今、確信した……十四郎を苦しめる者を許さない……あなたを倒します」


 刀を構え直したビアンカは、マリオの強い視線を跳ね返した。


「私が言いたいのは、あいつの事だ」


 マリオは十四郎を指す。ビアンカはその言葉の意味が分からなくて一気に赤面して、言葉を詰まらせた。


「何を……意味が分からない」


「相思相愛って事だ……互いに気付かない、おかしな関係だけどな」


 溜息交じりのマリオの解説はビアンカを動揺させ、戦いの最中なのに頭が真っ白になった。


『気を抜くな……十四郎を見ろ』


 脳裏のローボの言葉は、ビアンカを現実に引き戻す。十四郎の顔は今にも泣きそうで、その愛しい表情は再びビアンカを戦闘モードに誘う。


「お喋りは終わり。さあ、掛かってきなさい」


 正眼に構えたビアンカは、落ち着いた声でマリオに正対した。あっと言う間に動揺を回避、それどころか構えに隙が無くなっている。


「やはり……魔法だな……」


 マリオも剣を構え直す。勿論”魔法”の意味は故郷の恋人の姿にリンクする。ならば、自分も負ける訳にはいかない……二人の対決は、最後の幕を開けた。



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