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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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武闘大会  馬術3

 走り出したシルフィーは、経験した事の無い感じに包まれる。ビアンカ以外を乗せた記憶はないのだが、十四郎が背中に与える感覚は、とても心地よくて優しい。


 迫る障害も寸前というか、ピッタリの間というか、絶妙のタイミングで声を掛けてくれる。


「はいっ!」


 声と同時にジャンプすると、難しそうな障害も難なくこなせる。少しコースを外しそうになると、優しく手綱で誘導してくれる。スピードの加減も柔らかく声で指示し、手綱が緩むとコミニュケーションは気薄になるが、どんな状況でも手綱を緩める事は無い。


 そして、背筋を伸ばし脚でも十四郎は正確な指示を出す。


 絶妙のコントロール。シルフィーの希望を聞きつつも、的確に修正し、しかもそれが嫌味や強制的ではない。気持ちや意思、性格までも完全に理解しないと出来な芸当を初騎乗でやってのける十四郎に、シルフィーは全幅の信頼を寄せた。


「楽しいです!」


 なんだかドキドキして、気持ちが軽くなる。思わずシルフィーは声を出さず。


「楽しいですね!」


 十四郎も直ぐに答えてくれる、シルフィーは試合や勝負を忘れるくらいに楽しかった。


_________________________



 一番高い木棚が迫る。そびえる壁は視界を遮り、飛び越えるなんて不可能だと圧迫する。遠くからの跳躍では絶対に無理で、可能性があるなら至近距離で棒高跳びの様に飛ぶしかない。


 しかし、至近距離での圧迫感は半端ではない。視界も音も、光さえ遮る壁は、言葉にするなら……絶望としか表現出来ない。


「シルフィー殿、一番上だけを見て下さい。私が跳躍する瞬間に、声を掛けます」


 十四郎の声は穏やかで、シルフィーにそっと降り注ぐ。そしてまた、出来るかもしれないじゃなく、出来るとシルフィーは思った。やや、外側から回り込み、速度に乗せると木棚の頂上、ただ一点だけを見詰めシルフィーは更に加速した。


「はい!」


 重力を越えシルフィーの身体を大空へ解き放つ、空中でも十四郎はコントロールを忘れない。そして、美しいシュプールと共にシルフィーは着地する。


 その瞬間、十四郎は自分の脚と身体全体を使い着地の衝撃でシルフィーに掛る負担を軽減する。


 暖かな気持ちがシルフィーに流れ込み、次の障害に向けてその脚は力強く地面を蹴った。


_________________________



 十四郎とシルフィーは減点ゼロを叩き出した。大声援の中のランはビアンカのココロを激しく揺らす。走るシルフィーが見詰める事の出来ない太陽みたいに眩しくて、思わず視線を外してしまった。


「お見事でしたな。さて、お願いですが、二種目目はハンデを頂きたい」


 十四郎とシルフィーに近付いて来たドナルドは、不敵な笑みを浮かべた。


「はんで?」


「戦いで有利な方に、何かしらの不利な条件を与えると言う事です」


 言葉の意味が分からない十四郎に、シルフィーが説明する。


「お待ち下さい、先程の競技では十四郎とシルフィーが明らかに不利でした」


 走って来たビアンカが、顔色を変えてドナルドを睨んだ。


「私とルシファールで、先にお手本をお見せしましたが?」


 ビアンカの視線をやり過ごし、顔色を変えずにドナルドは十四郎を見る。


「そうですね、助かりました。ところで、どの様な条件をお望みですか?」


「十四郎!それは…………シルフィー、何?……」


 ビアンカが何か言おうとするが、シルフィーが首で優しく遮った。


「ハンデは簡単です、この国に”神速のシルフィー”に勝てる馬などおりません。スタート時間の調整や距離の延長など無意味、よってそちらは二人乗りでお願いしたい」


「シルフィー殿、大丈夫ですか? 」


「二人ですか……結構厳しいかも」


 シルフィーは、ブルブルと鼻を鳴らす。


「無理に決まってます! それ程勝ち目がないと仰るのなら、いっそ不戦敗を申し込めば如何すか!」


 先に興奮したビアンカが声を上げ、ドナルドを睨み付ける。


「どうですか? シルフィー殿」


 穏やかな声で十四郎はシルフィーに聞いた。


「がんばってみます、乗せるならビアンカをお願いします」


「分かりました、こちらはビアンカ殿を乗せます」


 簡単に引き受ける十四郎。


「待って十四郎、無理です、負けるに決まってます!」


 興奮の収まらないビアンカは、興奮気味に詰め寄った。


「力を貸して下さい」


「……」


 そんなビアンカに十四郎は深々と頭を下げた。自分一人で興奮している、そんな事が恥ずかしくて言葉が出ない。


「お願いします」


 顔を上げた十四郎が、真っ直ぐな瞳で見詰める。胸が痛い、ドキドキが止まらない。何も言えないビアンカは、小さく頷いた。



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