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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 29

 アレックスは目を見開いた。行く手を阻むように現れたのは、巨大な銀色の狼に跨る十四郎だった。その姿は神々しくもあり、言葉で表現するには難しい威圧感があった。


 ゆっくりとローボから降りた十四郎は、アレックスに近付いて来る。全軍を停止させたアレックスは一人、前に進み出た。


「魔法使い殿、この様な場所で何をしておられる?」


「砦の事はお任せいただけませんか?」


 言葉は丁寧だが、低い十四郎の声には強い”芯”があった。


「我々は様子を見に来ただけです」


 十四郎はアレックスの後ろに整列する完全武装の騎士達に目を移す。すると、ローボが十四郎の横に並んで、アレックスに対し牙を剥いた。


「ほう、見物にしては大層な数だな」


 狼が言葉を話す事にも驚いたが、アレックスには直ぐに狼の正体が分かった。


「狼王、ローボ……」


 思わず剣に手を掛けたアレックスは、言葉を震わせた。何故十四郎と一緒にローボがいるのか? 疑問は恐怖心を呼び起こすが、部下の手前努めて平常を装った。


「お願いがあります」


 更にローボより前に出た十四郎は、真っ直ぐにアレックスの目を見た。少し手に汗が滲むアレックスだったが、ローボから十四郎に視線を変える。


「聞きましょう」


「私達がパルノーバを落とした後は、砦の兵はエスペリアムで保護して頂きたい」


「今まで我が国を威圧、いえ、脅迫し続けて来たパルノーバの兵達をですか?」


 明らかに憎しみを表に出したアレックスは、十四郎に強い視線を向けた。


「はい」


 十四郎はその強い視線を平然とした表情で受け流した。その返事に対し、アレックスの後ろに控える屈強な騎士隊が一斉に剣に手を掛ける。


「あなた方は、我が国と同盟を結ぶ為に来たのでは?」


「そうです。ですが、その為に大勢の命を犠牲になど出来ません」


 右手で軽く兵達を押さえたアレックスは当初の目的を確認するが、十四郎は言い放つ。


「その様な態度は我が国に、敵対心があると思われても仕方ないですね。イアタストロアとは友好条約を交わしていますが、パルノーバで我が国の喉元に剣を向ける”敵国”です。その敵国の兵士の保護など……まあ、陥落した砦の兵など人質にはなりません。その様な者達を……」


「これはお願いですが、聞いて頂く事を前提としています」


 当然の反応を示すアレックスに対し、十四郎は一歩も引かずに言葉を遮る。


「それは、命令? それとも脅しですか?」


「不本意ですが、そう受け取って頂いても結構です」


 アレックスの声に怒気が混ざるが、十四郎はまた平然と言った。


「断れば?」


「いえ、断られては困ります。人の命が懸かってます故」


 十四郎は左手を鯉口に当て、鍔を親指で弾く。


「たって一人で二千の兵を相手にすると?」


 思わず笑ったアレックスだったが、その笑みは直ぐに消えた。


「試してみますか?」


 十四郎の声には凄みがあった。自信? 否、それは確信の様にアレックスには感じられて、背筋が凍った。


「例え数が二千でも”蟻”が人に勝てるのか?」


「我等を蟻だと言うのかっ?!」


 鼻で笑うローボに対し、思わずアレックスの横の副官が怒鳴る。


「待て!」


 険しい表情で一応は副官を止めるが、アレックスはココロの中で、その通りだと思った。


______________________



『私が半分受け持つ、念の為にルーも呼んだ』


 ローボは直接十四郎の頭の中に話し掛ける……その声は嬉しそうだった。


「ローボ殿……」


 振り向いた十四郎は苦笑いするが、ローボの目は真剣な光を放つ。


「本気で救いたいなら、躊躇するな」


「そのつもりです」


 呟いた十四郎はアレックスに振り向いた。その威圧感は圧倒的な圧力でアレックスに向けられた。汗が背中を伝わり、生唾を呑むアレックスが声を出す前に副官が叫んだ。


「エスペリアム最強のアレックス騎士団、そこまで愚弄されては黙って見過ごせない!」


 十四郎の事を知らない副官は、数名の手練れを率いて十四郎に斬り掛かる。


「待てっ!」


 アレックスが叫ぶと同時に副官達は地面に倒れた。刀を抜いたのかさえ分からず、アレックスは目を見張った。


「何だ今のは? 更に速くなってるぞ」


 嬉しそうな声のローボは、キラリと牙を見せた。十四郎は表情を変えず、アレックスを見る。


「アレックス殿、如何致しますか?」


「……私の独断では決められない。陛下のご支持を仰がないと」


「いえ、この場で決めて頂きます」


 十四郎はアレックスの後ろで身構える兵士達に低い声で言った。その声は兵士達を金縛りにして、周囲を沈黙の世界に導く……二千もの人間がいると言うのに。


 沈黙の時間は見えない圧力をアレックスに掛け続ける。流れる汗と喉の渇きに耐えられなくなったアレックスはパルノーバ陥落と敵兵の保護を天秤に掛けると、利害と重みは直ぐに答えを出した。


「分かりました。兵の安全は保障します」


「コイツは穏やかに見えるが、怒らせない方がいい……」


 鋭い視線のローボが、思い切り低い声でアレックスを睨んだ。


「……」


 言葉が出ないアレックスは、約束を違えた時の光景を思い浮かべた。


『ローボ殿、何もそこまで』


『脅しは必要だ。約束を堅固にする為には、な』


 ココロで呟く十四郎に、ローボは少し笑いながら返す。


「それでは、我々は一旦引きます」


 一礼の後、アレックスは戻って行った。


「さて、次のお手並み拝見だ」


 背中に乗る様に促したローボは、なんだか嬉しそうに言った。


「これからが、問題ですね」


 アレックスを見送る十四郎は、遠くパルノーバに視線を向け決意を強くする様に呟いた。


______________________



「あの……ローボ殿」


 パルノーバの見張り塔の頂上、そこにローボは駆け上がり十四郎は呆れ顔で溜息を付いた。


「相手を見下ろて威嚇だ。交渉ではない、これは命令なのだ」


 嬉しそうに牙を見せるローボは、ド派手な登場で交渉を有利に導く為に敢えて行動に出る。


「ですが、こんなに高いと誰か分かりません……けど」


 そびえ立つ塔の頂上では下から見た場合、誰かを確認する事は不可能に近くて十四郎は溜息を付く。しかし、そのシルエットだけで砦の兵には十分威嚇出来た。


 体を硬直させ、言葉を失う兵達はただ塔を見上げるだけだった。


「ロメオ様、魔法使いが来ました……神獣と一緒に」


 報告の言葉に、ロメオは立ち上がった。周囲に聞こえないくらいに息を吐き、表情を崩さず中庭に向かう。


「ロメオ様!」


「正念場だな」


 声を上げるマリオに対し、マリオは落ち着いた声で真剣な顔を向けた。


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