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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 28

 報告を聞いたロメオは、真一文字に唇を咬む。五倍の兵力を持っても敵の戦死は一名のみで、味方は五分の一が死傷し、残りは戦闘力を失う結果に茫然とした。


「ロメオ様、砦の反対側にエスペリアムの軍勢、約二千が集結しています!」


 矢継ぎ早の報告だったが、ロメオは大きな溜息を付くと独り言の様に呟く。


「策略だったか……」


「ロメオ様、如何致しますか?」


 側近の問いに、逆にロメオが聞く。


「食料は残り何日だ?」


「はっ、倹約しても残り十日程」


「それでは籠城も無理だな……本国との連絡は?」


 ロメオは連絡係の兵に聞くが、返事は予想通りだった。


「おそらく、鳩は本国には着いていません。早馬も全て失敗です……援軍は来ません」


「そうか……」


 沈む声のロメオに対し、側近は声を上げた。


「籠城しましょう! この砦は難攻不落です! たった二千の兵では落とせません」


「……狼がいる。彼等は壁を登れるのだ、侵入されて門が開かれれば……陥落だ」


「ロメオ様のお言葉とは思えません! 我らはパルノーバを任されたのです! ここが落ちればエスペリアムに対する牽制は……」


「砦を担いで逃げる訳にもいくまい……焦れば敵の思うツボだ」


 興奮する側近に対し、ロメオは静かに言葉を遮った。


「しかし……」


「兵に食事を与えよ、倹約などしなくてよい。思う存分振る舞え」


「分かりました」


 ロメオの凛とした言葉に察した側近は、一礼の後部屋を出て行った。ロメオは側近の後姿に思った。将たる者、部下に不安を抱かせるとは我ながら情けない、と。


____________________



「申し訳ありません……」


 報告に来たナダルは、深々と頭を下げた。


「我々は出会ってしまったのかもしれないな」


 ロメオの落ち着いた言葉が、ナダルの思考を混沌とさせた。それはまさに的を得ていて、全身を駆け抜ける悪寒は、震えと共に抗えない強大なモノに対する畏怖を甦らせる。


「魔法使いは……一度は死んだのです……あれだけの力を持ちながら、老いた雑兵にいとも簡単に討ち取られ……確かだったんです。あの仲間の狼狽は、嘘や欺瞞ではありませんでした……ですが、受けた傷さえ消えて…………再び立ち上がり、私の目の前に……」


 ナダルは呪文の様に呟くと、最後は絶句した。ロメオもまた暫くの沈黙に包まれるが、決意した様に立ち上がる。


「エスペリアムの軍勢も近付いている。今こそ難攻不落のパルノーバの存在感を示すのだ」


 だが、視線を彷徨わせるナダルは頷く事さえ出来なかった。


「ナダル殿、お気持ちは分かります。私とて、魔法使いに叩きのめされ……」


 自信と誇りを砕かれたマリオは、拳を握り締めた。


「それじゃ、後は頑張ってね。帰るよ」


 ロメオ達が深刻な状況に陥ってる最中なのに、アインスは無表情で言った。


「パルノーバの支援に来られたのではないのですか?!」


 視線を彷徨わせていたナダルが、思わず声を上げた。


「パルノーバ? どうなろうと関係ないよ」


 背中を向けるアインスは低い声で言った。


「負傷した、お連れの兵はどうします?」


 まだ大勢が倒れているアインスが連れて来た兵を見て、ロメオは声を掛ける。かなり重症の兵も多く、動けそうにない兵も大勢いた。


「好きにしていいよ。ボクはいらないから」


 振り向きもせずにアインスは言い放ち、その場を後にする。後に続くのはツヴァイとフィーア、そしてフェンフだけだった。


「兵達を手当しろ」


 ロメオは指示を出す……そして、見渡すパルノーバの兵は疲弊と絶望感に包まれていた。本格的攻城戦をした訳でもないのに、この状態……ロメオは改めて魔法使いに対し畏怖の念を覚えた。


__________________



「それでは、最後の交渉に行って来ます」


 ローボに跨った十四郎は、見守るマルコス達に笑顔を向けた。


「十四郎……籠城戦になれば……」


 食料も残り少なく、パルノーバが籠城戦を行えば餓死者も含め多くの犠牲が出る事は容易に予想出来た。


「ならないように、したいですね」


「だがな、砦を守る者達にとっては……」


 マルコスは分かっていた。兵が望まなくても、その状況は必ずやってくると。


「馬鹿げてますよね……大切な自分の命を、砦などの為に失うなんて」


 少し俯いた十四郎は、呟く様に言う。十四郎の気持ちがマルコスをはじめ、その場の人々に穏やかに流れ込んだ。十四郎は敵である砦の兵達の心配もしていたのだ。


「お前って奴は……いいから行って来い」


 大きな溜息交じりで十四郎を送り出すマルコスだったが、言葉を付け加えた。


「分かってると思うが……」


「はい。必ず戻って来ます」


 笑顔の十四郎だったが、端で見守るビアンカは今にも泣きそうだった。


「そんな顔するな。私が付いている」


 ローボはビアンカのココロに直接言葉を送った。


「ローボ……お願い」


 祈る事しか出来ないビアンカだったが、ローボに跨る十四郎の姿は何故か安堵感に溢れていた。それは、魔法使いと言う言葉と共にビアンカを包み込んだ。


___________________



「十四郎、軍勢がパルノーバに近付いてる。おそらく、エスペリアムの……」


 走りながらローボが耳を立てる。


「ローボ殿、寄り道してもいいですか?」


「言うと思ったよ」


 直ぐに十四郎は決断して、ローボは苦笑いで軍勢に向かう。


「何しに来たかは想像が付くな」


 山道を駆けると言うより飛びながら、ローボが言う。


「そうですね。ですが、手出しはさせません」


「今度は砦を守るつもりか?」


 凛とした十四郎の言葉に、半分呆れた様にローボが言った。


「砦ではありません。人を守りたいのです」


「好きにしろ」


 言葉とは裏腹に、ローボは嬉しそうに口角を上げた。


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