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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 26

「確かかっ?!」


 報告を受けたナダルは目を見開き興奮した。魔法使いを倒せたなら、自分達の役目は達成出来た事になる。現状では自分達の全滅は必至だが、全体の戦いに於いては勝利なのだ……一矢報いるどころか、大逆転ではないか。


「最後の一兵まで戦い抜くのだっ!! 我らは勝利したのだっ!!」


 ナダルは号令を掛け、部下達の士気は一気に上昇した。自分達の実力は自分達が一番知ってた部下達だったが、やれば出来るという”証明”は自らを卑下した部下達の気持ちを奮い立たせた。


 迷いを捨てた剣は、疲弊した老兵達とは思えない勢いでツヴァイ達に迫る。だが、それ以上にツヴァイ達の勢いは壮絶だった。元来の殲滅に特化した剣は、一撃で相手の命を根こそぎ削る。


 アリアンナの手下達も、箍を外されると本来の凶悪さと残忍さが解放される。まるで、モノを破壊する様に、パルノーバの兵達を駆逐して行った。


 パルノーバの兵は、怒りに支配され理性を失ったツヴァイやゼクス、アリアンナの敵ではなかった。勢いがあっても、実力が上がった訳ではない……屍の山が次第に数を増すだけだった。


 その惨状を前にしても、ナダルは満足だった。使命を果たした……それだけが、今のナダルを支えていた。


________________________



「今、どんな感じだ?……」


 かなりの時間を置いて、ローボが穏やかに呟く。


「そうですね……こんな暗闇の世界なのに……何故か、とても暖かくて……懐かしい香りがします」


 不思議な感覚だった。光も音も無い世界の中で、十四郎は優しさに満ちた暖かさに包まれていた。


「当たり前だ……今、お前は女騎士に抱き締められているんだからな……」


 そう言い残し、ローボの気配は消えた。十四郎には直ぐに分かった……この穏やかで優しい温もりは、ビアンカの暖かさだと。


 脳裏には心配顔のビアンカが大写しになる。今にも泣きそうで、今にも笑顔になりそうで……十四郎はビアンカの笑顔が見たいと思った。


 そのビアンカの横には、ツヴァイやゼクス、ノインツェーンやリルやココ、ラナやアリアンナ……そして、マルコスの苦笑いに続き、メグやケイトや大勢の人達が次々に現れる。


 胸の奥底から何かが湧き出す……全身を何かが駆け巡る……十四郎は身体を起こすと、そっと立ち上がった。


________________________



 十四郎に寄り添っていたローボが顔を上げた。


「私は”神”ではない……人の命を左右する事は出来ない。出来るのは、傷を癒す事くらいだ」


 呟きながら、ローボの身体が光に包まれる。みるみる十四郎の傷が塞がる、だが十四郎は目を開かない。


「ローボ……」


 傷が塞がる事で一旦ビアンカの涙は止まるが、また涙は震えと共に流れ出す。


「傷は癒したが、後は十四郎次第だ……お前達は勘違いしている。剣の腕は”神”の領域だが、十四郎のココロは弱い……お前達の誰よりもな」


 過去を忘れたビアンカを除く全員が思い当たる。十四郎の印象をと聞かれれば、強さと比類する限りない”優しさ”だった。


 マルコスの中で十四郎と初めて会った時が走馬灯の様に蘇る。十四郎は人々に薬を分け与える為に武闘大会に出ていた。


 ココとリルの中では、母親を助ける為に十四郎が尽力してくれた記憶が鮮明に蘇った。ノインツェーンの中では、青銅騎士の呪縛から解き放ってくれた十四郎との戦いが蘇った。


「ラナ様……」


「私は、ここでいい」


 遠くから様子を見続けるラナにバンスは促すが、ラナは頑なに拒んだ。信じられない、信じたくない……傍に行けば、結末が見える……ラナは、結末など知りたくも見たくもなかった。


「起きて……十四郎……もう、戦わなくていいから」


 十四郎の頬を撫ぜながらビアンカは涙を流す。その光景は、他の者達の言葉を奪う。それは男と女では少し意味が違っていた。ノインツェーンとリルには嫉妬が織り交ざり、ココやマルコスには自戒の念が渦巻いた。


「十四郎様……未来は人に託すものではありませんね……自らが掴み取るものですね……だから、安心して目を覚まして下さい」


 跪いたまま、ココは言葉を流し、リルはぎこちない笑顔を向けた。


「私は、十四郎の望む事に従う……今も、これからも……だから、お願い……目を開けて」


「十四郎様……命を粗末にしないから、精一杯生きるから……」


 言葉を揺らしながら、ノインツェーンは呟く。


「もう……無理するな……嫌な事は断れ……誰にも文句は言わせないから」


 大きく息を吐きながら、マルコスは穏やかに十四郎を見た。


「十四郎……帰ろう……一緒に……」


 また優しく十四郎の頬を撫ぜながら、ビアンカは語り掛ける。その時、一瞬十四郎の瞼が動いた……ビアンカの胸がキュンとなる、全身の血が逆流する……それは、世界で一番嬉しい瞬間だった。


_______________________



「アレックス様。パルノーバより約五百、兵が出て交戦中です」


「で、戦況は?」


 偵察の兵は馬に跨るアレックスに報告する。聞き返すアレックスは、何故が期待しか思い浮ばなかった。


 エスペリアムの精鋭、二千の兵を引き連れアレックスはパルノーバの近くまで進軍していた。万が一にも魔法使い達の手勢だけで落とせるとは考えられないが、十四郎には感じるモノが確かにあった。


 半分でもパルノーバの勢力を削れれば、勝機は訪れる。確かに現実には”夢”だが、賭けてみたいと、アレックスは国王に進言した。国王エイブラハムは一笑に伏したが、大司教フェリペはアレックスに賛同して許可が下りた。


 悟れらない距離で待機するだけなら、リスクは少ない。だが、千載一遇と思わせるだけの期待感がアレックスを動かした。その距離は、期待と比例して次第に縮まっていた。


「はっ、魔法使い達の本隊は約百で、パルノーバ隊五百を圧倒してます」


「そうか……」


 驚かないアレックスに、報告した偵察兵は驚いた。


「予想通りですか?」


 副官はアレックスの横で笑い掛けた。


「予想はしてないが、期待はしていた……偵察を増やせ、逐一報告を入れろ」


 指示を出すアレックスは、期待が確信に変わりつつあった。それは脳裏に焼き付いた十四郎の剣捌きと、堂々とした態度に裏打ちされていた。


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