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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 25

 ローボの目に十四郎に群がる敵兵が飛び込む。その瞬間、ローボは猛烈な勢いで吠えた。その衝撃波は群がる敵兵達を吹き飛ばすくらいに凄まじく、半数が消し飛ぶ。残りは牙と前脚で吹き飛ばすと、フォトナーに覆い被さった十四郎が見えた。


 全身の裂傷と刺し傷……十四郎は動かなくて、ローボはそのまま壮絶な遠吠えを上げた。その声の凄まじさは、戦場を一瞬停止させるくらいだった。


 猛烈な勢いで駆け寄っていたツヴァイは立ち止まると、身体を激しく震わせた。


「ツヴァイ!! 十四郎様は?!」


 遅れて来たゼクスが背中を押すが、ツヴァイは震えるだけで答えなかった。噛み締めた唇からは血が流れ、握り締めた剣を激しく揺らす。そして、動かない十四郎に背を向けると敵に向かって猛烈な勢いで走り出す……物凄い叫びを上げながら。


 ゼクスも十四郎の様子を確認すると、同じ様に雄叫びを上げ敵に向かって突進した。


「……お前は……何をしているんだ?」


 動かない十四郎の傍に来たローボは、ワナワナと声を震わせる。


「見ろ……お前の仲間は、もう歯止めが効かない……止めなくていいのか?」


 静かに話し掛けるローボの向こうでは、ツヴァイやゼクスが狂った様に暴れていた。もう、敵の命を奪う事に何の躊躇も無く。


「十四郎様……フォトナー殿……」


 十四郎の前で跪いたココはフォトナーと十四郎を交互に見ると、それ以上の言葉を失い滝の様な涙を流した。遅れて駆け付けたノインツェーンも、泣き叫びながら十四郎の身体を揺り動かした。


「……」


 無言のまま立ち竦むリルは、落とした弓を拾おうともせず焦点の定まらない目で十四郎を見詰め続けた。


_______________________



「私に続けっ!!」


 手下から十四郎の事を聞いたアリアンナは、剣を抜くと先頭に立って敵に向かう。その顔には怒りと悲しみが入り乱れ、頬には涙が一筋流れていた。


「バンス殿! ラナ様を頼みます!」


 叫ぶと同時にランスローも乱戦の中に飛び込む。小さく頷いたバンスも、槍を構えながら横目でラナを見守った。ラナは無言で十四郎の方を見ていたが、決して近付こうとはせずに、ただ拳を握り締めていた。


「行かせて下さいっ!」


「ダメっ!!」


「何故ですかっ! 仇を取らないとっ!!」


 ダニーの前に立ち塞がるリズだったが、何故かと言う問いには答えられず震えながらダニーを制した。頭の中で”仇”という言葉が空転し、目の前が真っ暗になった。それは、希望と言う火が消えた事と同義だった。


「行かないで……もう、嫌なの……嫌なのよっ!!」


 言葉を絞り出すリズだったが、最後は叫びに変わり戦場に木霊した。


 戦いは凄惨を極める。戦闘力に於いて遥かに勝るツヴァイ達やアリアンナ達、パルノーバの老兵たちは成す術無く血に染まって絶命した。


「これが”普通”の戦いだ……十四郎の戦いが”普通”じゃなかったのだ」


 トボトボと歩いて来たビアンカに、ローボは顔を向けずに言った。


「……十四郎……は?」


「どうかな?……あまりにも傷が多くて、深い……」


 茫然と呟くビアンカに向かい、ローボは静かに言う。十四郎の横では既に事切れたフォトナーも横たわったまま動かず、時間を止めているようだった。


「……嫌……嫌っ!!」


 叫んだビアンカがその場に座り込む。目の前ではノインツェーンが十四郎を揺らし続け、リルやココが立ち竦む。


「マホウツカイハ、マダ、シンデナイ」


 傍に来たウーノは無機質な仮面のまま、ビアンカに告げる。急に立ち上がったビアンカは十四郎の傍に駆け寄り、ノインツェーンから奪い取る様に抱き締めた。まだ、十四郎の暖かさが残っており、ビアンカは更に力を込めて抱き締めた。


「自分の気持ちを表に出さず、こいつは他人の希望の為に今まで戦って来た……もう、休ませてやれ」


 ローボは抱き締めるビアンカの背中に静かに言うが、それまで遠くで動けなかったマルコスが血相を変えて駆け寄った。そして、ビアンカに抱き締められる十四郎に向かい、大声で叫ぶ。


「お前は約束したよなっ!! モネコストロの人々の為! 大勢の人の為にやり遂げるとっ!!……起きろよ……立てよ……」


 勢いがあったのは最初だけで、直ぐにマルコスは膝から崩れ落ちた。


「……解放してあげる……あなたは、もう……何もしなくていいから……だから、目を覚まして……」


 消えそうな声で、ビアンカは呟く。周囲の誰もが言葉を失い、直ぐ近くで繰り広げられている戦いを、まるで夢の様に思考や視界から排除していた。そして、暫くの後……ビアンカがローボに振り向いた。


「もう、十四郎を戦わせない……だから、もう一度……代わりに、私の命をあげる……だから、お願い」


「……」


 溢れる涙……その美しさは、ローボでさえ目を背けずにはいらええない。だが、ローボはビアンカの瞳を真っ直ぐに見るだけで、何も言わなかった。


「私の命は、十四郎様に貰ったモノ……いいよ、私のもあげる」


 涙を拭おうともせず、ノインツェーンはローボに懇願した。


「……十四郎が助かるなら、私も差し出す」


 消えそうな声のリルも、ローボに向い宝石の様な涙を流した。


「若い女が何を言うんだ?……そんなのは、男の仕事だ。ローボ、この俺の命と引き換えで頼む」


 急に穏やかな声になったマルコスは、静かにローボを見た。


「それなら、私も……妹を死なせる訳にはいきませんから」


 涙を拭ったココも、強い視線でローボを見た。


「お前達は、本気なのか?」


 静かに呟くローボに向い、そこにいる全員が頷いた。


「……」


 無言で頷いたローボ、ビアンカがまだ抱き締める十四郎にそっと寄り添った。


_____________________



 漆黒の闇の中、十四郎は横たわっていた。体の痛みは無く、無音の世界で十四郎のココロは穏やかだった。


「お前は、それでいいのか?」


 無音の中から、ローボの穏やかな声が響く。


「私が、選びました……」


 正直な気持ちを、十四郎は言葉にした。


「お前の仲間は、自らの命と引き換えにお前を助けろと私に言った」


「私もお願いがあります」


「何だ?」


 ローボの言葉に、十四郎は反対に願いを申し出た。


「私の命で、フォトナー殿を助けては頂けませんか?」


「……聞いてやりたいが、その男はもう死んでいるよ」


 確かに周囲にはフォトナーの気配はなく、今の空間には十四郎とローボの二人だけだった。


「……そうですか……」


 言葉を沈ませる十四郎に向かい、ローボは静かに続けた。


「で、どうする? 皆はお前の為に……」


「分かってるはずです」


 十四郎は強い口調でローボの言葉を遮った。少し、笑った様な顔をしたローボは更に続ける。


「だが、このままだとお前の仲間は”怒り”に支配される。お前を失うのは”希望”や生きる”目的”を失うのと同義だ」


 ローボの言葉が十四郎の耳の奥に響くと同時に、脳裏には鬼神の様に戦うツヴァイやゼクス、アリアンナ達の姿が投影された。


「そんな……ダメです」


 起き上がった十四郎が手を伸ばすと、ツヴァイ達の姿は闇に消えた。


「お前が死ねば、彼らは永遠に戦い続ける……命果てるまでな」


「ですが、皆の命と引き換えになど出来ません」


 手に汗が流れる。胸の鼓動が激しさを増し、十四郎は叫びたい気持ちを必死で押さえた。


「……なら、自分で何とかしろ……助けられるのは、お前だけだ」


 突き放すようなローボの言葉だったが、その言葉には優しさが内包されていて、痛い程に十四郎に伝わった。


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