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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 24

 他の者と違ってフォトナー達は正規の騎士であり、ミランダ砦の守備隊であり、攻城戦が何たるかは知り尽くしていた。堅固な砦から打って出るのは勝利を確信したか、追い詰められた最後の足掻きか、どちらかだった。


 前方ではパルノーバの守備隊が十四郎達に押され、その混乱ぶりは狼狽と言える程で、フォトナーの決断は直ぐに決まった。


「左右から削れ! 敵は怯んでる!」


 砦を守る為に外に出た守備隊は、言わば専門外。守りには長けても攻撃は不得手だと、フォトナーは読んだ。見渡す敵兵も、半分以上は素人や老兵に見えた。そして、長年の勘は好機を見逃さなかった。


 一斉に打ち掛かるフォトナーを見たアリアンナは、逸る手下を落ち着いて諌めた。


「アリアンナ様! 騎士達が出ました! 我々も行きましょう!」


「奴らが討ち漏らした兵を狙え。我らが出る必要はない」


「しかし! 敵はまだ半分以上残ってます! 奴らだけじゃ!」


「味方勢力は我らが一番多いが、盗賊は大規模戦闘は苦手だ。お前達は姑息な盗賊の戦い方をしろ」


 焦る様に捲し立てる手下に向かい、どっしりと落ち着いたアリアンナは薄笑みを浮かべた。


「姑息か……で、どんな戦い方だ?」


 横に並んだマルコスがニヤリと笑った。


「少人数の相手を有利な場所に引き込み、大勢で取り囲んで倒す。逃げ腰で戦い、やばくなれば直ぐに逃げ、その際は捨て台詞を忘れない」


 マルコスに向き直ったアリアンナは平然と言った。


「どんな台詞だ?」


「……覚えてろよっ! だ……」


 マルコスの問いに、アリアンナは真剣な顔で答えた。


「そうか……」


 確かにポンコツな盗賊なら、言いそうだなとマルコスは苦笑いした。とても言ってるのは、イタストロア最大最強の盗賊の頭目とは思えなかった。


 そして、十四郎達数人に翻弄される敵の浮足立つ様子は、最初の緊張からマルコスを初め、全員を解放していた。だが、それは油断と言う落とし穴のすぐ手前に立ってる事を、まだ誰も気付いてなかった。


_______________________



 フォトナーは側面から敵に向かう。だが、予想より遥かに脆い敵兵達に首を傾げた。


「何だ? こいつ等……」


 外見は騎士でもその多くは老兵であり、例え若くても戦闘の技術は遥かに格下だった。


「一気に潰せ!」


 フォトナーの掛け声で、周囲の味方は一斉に散らばり敵を倒す。だが、その瞬間にフォトナーの周りには味方は居なくなった。そして、その隙はフォトナーにとって最大の窮地になる。


 突然四方を囲まれ、敵兵の槍が馬の後ろ足を貫き暴れる馬からフォトナーは落馬した。直ぐに立ち上がるフォトナーだったが、強打した右肩は上がらず剣が持てない。


 それを狙って、数人が一斉に斬り掛かる。如何に老兵とは言え、左手に持った剣では攻撃を避けられず、腕や脚を斬られフォトナーは跪いた。


 そこにまた、群がる蟻の様に多くの敵が襲い掛かった。


________________________



 十四郎はフォトナーの”気”が消えそうになるのを察すると、ナダルの前から全速で移動した。


「今度は何だ?……」


 急に姿を消した十四郎に唖然と呟くナダルだったが、落ち着いて周囲を見渡すとフォトナー達が加わった事で、味方の数は更に減っていた。撤退の文字もナダルの頭を過るが、そこは歴戦のナダル、素早く状況を確認すると遠くで味方の兵達の喚声を聞いた。


「敵の隊長クラスを仕留めたか……」


 呟いたナダルの胸に、勝機が蘇る。まだ数的には味方が優位、まだ負けた訳ではないと。


「固まって戦え! 二人以上で一人に向かえ! 周囲を見ろ! 味方は大勢いるぞっ!」


 明らかに戦闘力で劣る味方兵士に、ナダルは勇ましく鼓舞する。指揮官の覇気は部下を奮い立たせ、見渡せばまだ圧倒的に味方の数は多く、兵士達は喚声を上げながら戦いを続けた。


「十四郎がっ!」


 ビアンカは走り去る十四郎の背中に、思わず声を上げる。体中を嫌な予感が駆け抜け、足元から震えが来て眩暈の様な暗黒が視界を霞めた。


「追えっ! 走れっ!」


 先に後を追いながらローボは叫ぶが、ビアンカの足は簡単には動かなかった。


「ツヴァイ! 十四郎様が!」


 いち早く気付いたノインツェーンも叫び、ツヴァイも叫び返す。


「ビアンカ様を頼む! 私が行く!」


 前の敵を蹴り倒し、ツヴァイは疾風の様に十四郎を追った。


「ナンダ、コノイヤナカンジ……」


 戦っていたウーノは、戦いの手を止めた。


「モノスゴク、イヤナカンジダ……」


「ソウダ、イカナケレバ」


 ドゥーエもトーレも同じ様に戦いを止めると、三人は顔を見合わせ十四郎を追った。


_________________________



 一目散に十四郎は走る十四郎には目前の暗黒の世界の中で、風前の灯となるフォトナーの命の火が揺らぐ。


 全力で走ってるはずが、まるで雲の上を走ってる様でなかなか進まない。苛立ちと焦りが十四郎を包み、十四郎は暗黒の闇に叫んだ。


「フォトナー殿っ!」


 やがて、十四郎は大勢に取り囲まれたフォトナーの元に辿り着く。あっと言う間に敵を叩き伏せた十四郎は、倒れていたフォトナーを抱き起した。見えなくても分かる、十四郎の手にはフォトナーの暖かい血でびっしょり濡れた。


「しっかりして下さい!」


「……すみませ、ん……油断、し、ました……」


「大丈夫ですよ、傷は深くありませんから」


 口ではそう言うが、十四郎の手は溢れる血に塗れた。刀を捨ててフォトナーを抱き締める十四郎の背中から、大勢の敵が一気に襲い掛かる。如何に老兵でも、その数に物を言わせれば破壊力は増す。


 十四郎は背中に迫る敵の気配は感じていたが、地面に落ちた刀を拾う事はなかった。


「十四郎っ!! 剣を拾えっ!!」


 ローボの叫びが戦場を稲妻の様に轟く! ツヴァイの瞳孔が開く! ウーノ達の血が逆流する! そして、ビアンカの胸が経験した事の無い衝撃に貫かれた。


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