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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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パルノーバ攻城戦 22

「全く……更に速くなった。しかも、技のキレはもう”神”の領域だな」


 呆れ顔のローボは、倒れたマリオを見詰める十四郎の背中に呟いた。


「全く見えなかった……何が起こったの?」


 唖然とするビアンカは握り締めた剣を震わせる。


「相手の剣を受け続ける事でタイミングを計り、片方の刀で受けると同時にもう片方の刀で仕留めた……言うのは簡単だが、相手は”超”の付く高速剣の持ち主だ。普通じゃ無理だ……それこそ”神”の領域じゃないとな」


「十四郎は神の領域に達してるって言うの?」


 説明するローボの言葉を半信半疑で聞くビアンカは、もう一度十四郎を見た。


「そうだな……もう、とっくに凌駕しているのかもな……チッ、まだ奴が残ってたか」


 遠い目で呟くローボは、視界の隅で震えるアインスに気付く。その異様な感じは、ローボの気分を激しく害した。


「……そうだよ、魔法使いはそうでなくっちゃ……殺し甲斐がない」


 呟きながらアインスはフラフラと十四郎に近付く。見えない十四郎でさえ、その異常な”気”に気付くと、刀を構え直し重い口を開いた。


「あなたは……もう……」


「何が”もう”だよ……」


 剣を抜いたアインスは、充血した血の様な目で十四郎を睨んだ。


____________________



「ロメオ様! 狼達は網の作戦に引っ掛かりません! 梯子を避ける様に動き、網を投げた時にはその場所にいません! それどころか梯子を持つ兵から先に襲われ、網を投げる前に兵達はチリジリです!」


「そうか……」


 ロメオは最初から予感はしていたが、改めて狼達の行動と対応能力に驚愕した。部下達には士気低下を招かない様に平静を装うが、内心は穏やかではない。そこに新たな伝令が飛び込んで来た。


「砦前方に敵兵! 約百!」


「たった百だと!」


 ナダルが先に声を上げる。ロメオもまた、数の少なさに首を捻った。


「敵の本隊にしては数が少な過ぎます」


「確かに様子がおかしい……」


 百戦錬磨のロメオを持ってしても、敵の意図が分からなかった。


「敵の構成は?!」


 大声でナダルが伝令に聞いた。


「それが、騎士の姿も見受けられますが、多くは盗賊と言う風貌で子供と言うか、その、異常に若い兵士も見受けられます」


 伝令の報告は更に敵の姿を曖昧にさせた。


「ロメオ様! 如何致しますか?!」


 ナダルは決意した様な表情でロメオに迫った。


「精鋭五百を率いて、殲滅せよ」


 ナダルの思いを汲むと言う事もあるが、ロメロは決断する。入り込んだ魔法使い達は確かに厄介だが、外の百が本隊なら先に叩けば勝機はある。


「直ちに!」


 踵を返したナダルは、部下達に号令を掛けた。


________________



「前方! 城門が開きます!」


 先行するフォトナーが大声で叫ぶと、アリアンナは直ちに指示を出す。


「数に物を言わせて押し込んで来るぞ! 態勢は防御! 分散せずに固まれ! 二人一組で敵兵に当たれ!」


「たいした指揮官だ。無勢で多勢と戦う術を知っている」


 感心するマルコスだったが、前方で展開する大軍勢に息を飲んだ。


「私達が最前列! フォトナーは左右に展開、側面を守れ! 子供達は最後尾だ! 何時でも逃げられる様にしておけ!」


 矢継ぎ早に指示を出すアリアンナの前を、赤い仮面が横切る。


「ミンナヲマモレバ、イインダナ」


「そうだ。一人も死なすな!」


 ウーノの問い掛けに、アリアンナが叫ぶ。


「ラナ様、離れないで!」


 叫ぶバンスの横では、ランスローが既に臨戦態勢に入り、リズの前には強引にマルコスが出る。迫り来る戦いが、全員を圧迫する時! 敵の後方から大きな叫び声が渦となった。


_________________________



 十四郎に迫るアインスは、距離を詰める。だが、十四郎の前を銀色の影が高速で横切った。


「門の外に女盗賊達が来た! 女や子供も混ざってる!」


 ルーが要点を叫ぶと、十四郎は即断する。


「ルー殿、ビアンカ殿を! ツヴァイ殿! 外に出ます! リル殿も早く!」


 叫ぶが早いか十四郎は、アインスを無視してローボに飛び乗った。ツヴァイ達の元にも直ぐに狼が来て、戸惑いながらもツヴァイ達が跨ると狼は城壁を駆け上り、直ぐに砦の外に出た。


「俺達もか……」


 すでに矢を使い果たして肉弾戦をやっていたココの所にも狼が来る。


「弓がなければ、只の人だ……今更、気付いた」


 リルは狼に跨りながら呟く。ツヴァイ達の活躍とは裏腹に、地味に敵の弓手を射ていた二人は、少し溜息を付いた。


「でも、十四郎様は”リル”って叫んだな……見ていてくれたんだよ……最初から」


「……うん」


 俯きながら頬を染めたリルは、小さく頷いた。狼はリルとココの会話が終わるのを待っていたかの様に、会話の終了と同時に城壁を駆け上がる。


 城壁の上からは敵の展開が手に取る様に分かった。そして、その先には味方の軍勢が見える……明らかに数の上では不利、リルは狼の耳元で囁く。


「矢が欲しい」


 振り向かない狼は、耳をピクピクさせると遠吠えを上げた。直ぐに仲間の狼が数頭やって来る……その口々に矢の束を咥えて。


「お前、何を言ったんだ?」


 狼から矢を受け取ったココが呆れ顔でリルに聞いた。


「欲しいって言った……さあ、十四郎の援護に行くよ」


 何時もの様に無表情でリルは答え、その視線は敵の最後尾に攻めかかる十四郎を見ていた。


「行くか!」


 ココが叫ぶと同時に、狼は城壁から飛ぶ! その浮遊感はココとリルを不思議な感覚で包んだ……今はもう、狼が獣とは思えなかった。 


「どうしたんだ?……何が起こってる?」


 残されたアインスが茫然と呟く。あまりにも突然で、思考が追い付かない。同じ様に取り残された若いツヴァイやフェンフ達も、茫然と後姿を見送っていた。


__________________



「何故だ? 戦いは優位だったのに……」


 素早く撤収した十四郎達を見送ったロメオは唖然と呟く。


「全員が消えました……狼も見当たりません……救援に向かったのでしょうか? 本隊の……」


 副官も茫然と呟き、味方兵士が取り残された中庭を見ていた。


「本当に訳が分からない……魔法使いよ……何が目的なのだ……」


 聞こえない様に呟くロメオは、悪寒と言うより未知の疑問に包み込まれていた。



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