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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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武闘大会  馬術2

 シルフィーと二人? でコースを下見する。


「この塀、高いですね」


 木棚を撫ぜる十四郎が呟く。棚はシルフィーが後ろ足で立ち、前足を伸ばしてやっと届く高さだった。


「そうですね、タイミング次第ですね」


 シルフィーが尻尾を振り、棚を見上げる。


「たいみんぐ?」


十四郎が首を傾げる。


「間、とか、そのとき……と、言う意味です」


 シルフィーが少し頭を傾げ、呟く。


「シルフィー殿は聡明ですね」


「ソウメイ?」


 今度はシルフィーが首を傾げた。


「えっ、その、凄く賢いと言う事です」


「お世辞でも嬉しいです」


「そんな、お世辞なんかじゃありません。」


 二人? は顔を見合わせて微笑んだ。


「ところで、シルフィー殿。ビアンカ殿の言葉は分かるのですか?」


「雰囲気はなんとなく……人の言葉を完全に理解出来てる訳ではありません。でも、ビアンカの気持ちや思いは伝わります」


「そうですか……」


 ほんのり暖かい気持ちがお互いを包む、その時ふいに黒い影が横を駆け抜ける。ドナルドとルシファールが障害を飛んだ。大きくシュプールを描き、宙を舞う。正しく人馬一体、逆光の中、網膜に眩しく煌めいた。


 十四郎はルシファールの通った場所を頭に叩き込む、各障害の手前での加速や減速、次の障害への布石は完璧だった。そして、ジャンプのタイミングを自分の呼吸の速さと比較しながら身体で覚えた。


 たった一回見ただけで、その間合いとタイミングをモノにする十四郎。それは、長い間の厳しい鍛錬の成果だった。記憶と応用を臨機応変に組み合わせ、現実動作に結束させる。それは正に達人の域に達していた。


「ルシファールの取ったコースは覚えました。ですが、やはり跳躍のタイミングが一番難しいですね」


 見ていたシルフィーが言った。シルフィーもまた、たった一回で正確に記憶していた。十四郎は微笑むと、優しくシルフィーを撫ぜた。


「流石にあちらは息が合ってますね。しかしシルフィー殿、こちらは会話が出来ます。二人で力を合わせましょう。飛ぶ”たいみんぐ”は、私が指示してよいですか?」


「分かりました、お任せします」


 シルフィーは十四郎の落ち着きに、自分まで心拍数が下がる気がした。もしかして大丈夫ではなく、きっと大丈夫だと確かに思えた。


________________________



 ドナルドとルシファールの演技は完璧だった。跳躍、ジャンプ、障害から障害までの間、一度も歩幅を調整する事なくこなした。当然、減点はゼロでシルフィーに映像的にも精神的にもプレッシャーを与える。


「ばじゅつって、初めてみたけど凄いな。何であんな走りにくそうなとこばかり走るんだ?」


 シルフィーの足元で、アミラが欠伸しながら見上げた。


「そういう競技なんですよ」


 口ではそう言ったが、確かに言われて見るとシルフィーは少し考える。自然の中でも色々な障害はあるが普通なら、わざわざ障害に向け走る事なんてない。障害は飛び越えるのではなく、避けるものなのだ。


「大変だね、人と付き合うのは。俺は、猫でよかったよ」


 背伸びをしたアミラに、シルフィーの気持ちがほんの少し揺れた。でも、帰って行くアミラは背中越しに呟いた。


「俺もさ、メグを乗せて走れたら……楽しいかもな」


 楽しい? 初めてビアンカを乗せ走った記憶が蘇る。草原を思い切り走り、背中のビアンカが満面の笑顔で言った。


(シルフィー、楽しいね)


 ビアンカの笑顔を思い出すと直ぐに思考は反転、泣きそうな顔で十四郎を助けてと言った顔が蘇った。改めてシルフィーは思う、絶対勝たなければいけないと……何よりビアンカの為に。


_______________________



 スタートラインに立つシルフィーは、胸のドキドキが止まらない。最速軍馬と呼ばれ、それなりに自信もあるが、今の自分の状態が情けなかった。


「シルフィー殿、大丈夫ですか?」


 優しい十四郎の声が、余計にシルフィーの心拍を上げる。


「十四郎は緊張しないのですか?」


「緊張しないと言えば嘘になりますが、でもその前に私は思うのです。全力で戦えたなら、負けても悔いなどはないです。しかし、勝った方が気持ちいいです。全力で戦い勝てたなら、もっと気持ちいいと思います」


 笑顔の十四郎、押される背中、すっとシルフィーから緊張が消える……気持ちいい、単純なこと。


「それでは参りましょう」


「はい」


 十四郎とシルフィーはスタートした。迷いも恐れも無い訳ではないが、その先にある、もっと気持ちいい事に向かって。



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